勇者、船酔いする
船が出航して半刻ほど過ぎた時、俺の体に異変が起きる。
「うげぇ、気持ち悪い…。」
「顔色が真っ青じゃないか、どうした?」
干し肉をかじりながらアーシェが言う。
「………。」
大丈夫ですか?という瞳でユフィアが俺の体をゆさゆさと揺らしてくる。
「ユフィア、もっと気持ち悪くなるからやめてくれ…。」
「………?」
そんな無邪気に「わからない」って顔されてもこっちもわからんのだ。
「うーむ、干し肉食うか?うまいぞ?」
アーシェが言ってくるが、からかってるようにしか聞こえない。
「いらん!う…、うぷっ…。」
やば、吐きそう。そう、思い俺は甲板へと走り出した。
風が涼しいな…、さっきよりは多少マシになったがそれでも気持ち悪い。
「あ、勇者さーん!」
甲板で風に当たっている俺に対しリリスが声をかけてくる。
「顔が真っ青ですよ、どうしたんですか?」
小走りで駆け寄ってきたリリスが心配そうに俺を気遣う。
「なんか、船に乗って少し経ったら気持ち悪くなってきて…。」
正直に話した。リリスならなんとか出来るかもしれない。
「あー…、それはもしかしたら船酔いですね。ちょっと待っててください!」
そう、言うとリリスは下の広間の方に戻っていく。
船酔い…?
確か文献にも載ってなかったが何か伝記とかには
載ってたような気がしなくもないが…。
考えに耽けようとしたが気持ち悪さに拍車がかかりそれどころではなかった。
暫くしてリリスが下の広間から戻ってきて「お待たせしました!」と俺に言う。
「なぁ、リリス船酔いってなんだ?」
結局わからないから聞いてみる。
「船酔いを知らないんですか?んー…、とりあえずこれ飲んでください。」
「スッキリしますよ。」
そう、言って渡られたのは調合して液状にしてあるハーブ。
「これリリスが調合したのか?」
「はい、まだまだ薬師の方は見習いですがこれくらいなら!」
俺はリリスに渡された薬を一気に飲み干した。
「苦いが何かスーッとして喉と胃がスッキリするな…。」
薬の感想をリリスに述べた。
「はい!ミントを多めに使いましたので。これで少しは楽になりますよ。」
ニコッとリリスが笑う。
「ああ、ありがとう。正直助かった。」
俺がリリスに礼を言う。
「ところで、船酔いっていったい…。」
そう聞こうとした時。
「うわーなんだあれはー!!!」
船員の叫び声が聞こえる。
叫び声が聞こえた船の先端へと走る、俺とリリス。
先端に到着し、そこには船の前方に海水を宙に巻き上げ
船の行く手を阻む者が浮いていた…。




