勇者、名付ける
グランエールの街に着き、その後も俺は眠り続けた。
相当魔力と精神力を消費したから仕方ない。
冒険者ギルド兼上の宿屋で俺は三日眠り続けた。
そして次に起きた時、俺が蘇らせた少女が傍らにいた。
「…お前名前は?」
起きた第一声が名前を聞く事。
キップアの荷馬車に揺られる中、
これだけは忘れないようにしようとしていた事だ。
ぶんぶんと首を横に振る幼い少女。
「…どうしたんだ?」
俺は少女に問いかけるが依然首を振ったままだ。
「もしかしてお前喋れないのか?」
その問いに対し少女は大きくコクコクと首を縦に振る。
「まさか禁呪せいか!?」
俺は慌てて少女に聞く。
ぶんぶんと首を横に振る少女。
「じゃ俺の冷凍魔法のせいか?」
これもぶんぶんと首を横に振る。
じゃなんでだ…?
そして俺はもうひとつの可能性を考えた。
「お前、まさか元から喋れないのか?」
その問いに小さくコクコクと頷く。
ううむ、こっちの意向は伝えられるが向こうからの意思疎通が出来ん。
そう、思ってると少女は宙に手を出し文字を書き出した。
そして、その文字が宙で凍り文字となる。
「名前は…、無いのか。」
恐らく物心つく頃から奴隷だったのだろう。
仕方がない。
「俺が名付けてやる。」
そう言うと俺は考える。
人間らしい名前…。
今まで人間と接してない俺には結構ハードルが高かった。
そして「あっ」と思い出す。
「お前の名前は今日からユフィアだ。」
頭をなでながら俺はそう言う。
かつて俺の母親だった人間の名前だ。




