勇者、夢を見る
蘇らせた幼い少女と共に屋敷の外へ出る。
いつ戦闘になってもいいように剣をいつでも抜けるようにしてあるが
正直、体が酷く怠い。
多分、無茶な戦闘と禁呪のせいだと思う。
少女と屋敷を出る時、魔剣「リベレーター」はいつもの片手剣の形に直っていた。
そして、セルクが言ってた俺の「金色の瞳」
あれも屋敷の窓ガラスを見たときは元の青色に戻っていた。
セルクは「覚醒」と言っていたが何か条件が必要なんだろうと解釈する俺。
あの力をいつでも引き出せるようにしないといけないな…。
もう目の前で人が無惨に殺されるのは嫌なんだ。
屋敷を出て城壁の外へ向かおうとした途中。
「おーい」というサーシャの声が聞こえた。
「無事だったか?」
俺がサーシャに尋ねる。
「うん、奴隷の人達はみんな解放したよ!」
サーシャが仕事をやりきった顔をしている。
「そう…か…。」
次の瞬間、俺は安心しきったのか
そこで意識が途絶えた。
次に目を覚ました時はキップアの荷馬車の上だった。
「ん…?」
荷馬車の揺れで俺が起きる。
「大丈夫か?」
アーシェが短く俺に聞く。
「ああ…、ここは?」
意識がまだ朦朧とする。
「キップアの荷馬車だ。」
「お前がいきなり倒れたから奴隷商人のとこの奴を拝借した。」
アーシェが答える。
「そうか、迷惑かけたな…。」
体を起こそうとするが力が入らない。
「まだ、起きないほうがいい。」
アーシェが無理に起きようとする俺に対し制止する。
もう少しだけ甘えよう。そう思ったら横でひんやりとした物がもぞっと動く。
「…?」
ああ、お前もそこにいたのか。
俺が救った。というか自己満足で蘇らせたグールの少女。
果たしてこの選択が合っていたかどうかなんて俺にはわからない。
「街に帰ったらお前の名前を聞かないとな…。」
ぼそっと俺は呟いて意識がぼんやりと遠のいていく。
その時、昔の夢を見た。
俺が生まれて10年、人間の歳で言えば5歳くらいだろうか。
「お父様、なんでにんげんと争うの?」
「人間はな、お父さんの大切なものを次々と奪っていったんだ。」
「それを返してもらえばせんそうはおわるんだね!」
「…ああ、返してさえくれればな。だが人間はどうやら返す気はないらしい。」
「ふーん、人間ってごうまんなんだね。」
「クロムよ、傲慢なんて言葉を覚えたか、偉いぞ。」
「ぼくもっと偉くなるんだ!そしてお父様みたいな立派な魔王になるんだ!」
「ハッハッハ、ではこの世に勇者とやらが出てきたら私の代わりに倒してもらおうか。」
過去の自分を見下ろすようなビジョン
親父が今の俺を見たらどう思うかな…。
人間も魔族も悪い奴は悪い。
人間も魔族も良い奴は良い。
そんな奴らを整理して改善して戦争のない世の中にするのが
魔王でもあり勇者でもある俺の役目なんじゃないかな…。
夢の中でぼんやり思う。
…少し、疲れた。
もう少し、もう少しだけ眠ろう。
キップアの荷馬車に揺られグランエールへと向かうパーティであった。




