勇者、覚醒する
「うわあああああああああああああ」
俺の叫びが屋敷中に響き渡る。
救えなかった救えなかった救えなかった救えなかった救えなかった。
セルクは幼い少女を床へと無惨に投げ捨て、取り出した心臓を舐める。
まだ「ドクンッドクンッ」と脈を打つ、幼い少女の心臓。
「うむ、美味である。」
そう言うとセルクは俺の方を向き強者としての威厳を至らしめる。
何故救えなかった?
俺が弱いから?
俺が恐怖に怯えたから?
俺が軽率な行動を取ったから彼女は死んだ?
俺は絶望へと浸る。
セルクは食事を終え、次はメインディッシュである俺を狙うだろう。
もう、どうでもいい…。
俺は彼女を救えなかった。
見ず知らずの少女なのにここまで感情を動かされるのは何故だろう?
俺が勇者でありたいと思ったから?俺には半分人間の血が混ざってるから?
違う違う違う違う、違う!!!
俺はただ、目の前で苦しむ人を救いたかっただけなのだ。
ただそれだけでいい、ただそれだけの俺の我侭。
結局、俺は彼女を救えなかったのだ。
絶望した俺は膝が地に突き両手も地につけて泣き叫ぶ。
幼い少女の亡骸を見ながら泣き叫ぶ。
「最高のスパイスだよ!さぁメインディッシュといこうか!」
誰だよ…。俺に牙を向けるのは。
もう、いいんだよ。もう嫌なんだよ。
人が苦しむところを見るのは!!!
次の瞬間、俺は突進してくるセルクの槍を避け
セルクの持っている槍を片手で掴み、セルク自身を投げ飛ばす。
「なんだ、やれば出来るじゃないか…。」
セルクが何か言ってるが頭に入ってこない。
「金色の瞳、それが魔王の血の力か!?」
何を言っている?俺の瞳の色は母親と同じ青のはずだ。
そして俺は右手に異変を感じる。
右手の先に視線を送ると
魔剣「リベレーター」の形状が変わっている事に気づく。
そう、片手剣だった「リベレーター」が両手剣ほどの大きさになっている。
だが重さは感じない。
自然と振れる。そう確信できた。
「これは喰い甲斐があるというものだな…。」
再度じゅるり…と唇を舌で舐めるセルク。
ぼんやりしていた俺の意識がハッキリとしてきた。
そうだ、奴は敵だ。
敵は消し去らなければならない。
次の瞬間、俺はセルクの横へ移動した。
「何!?」
あまりの突然にセルクが驚く。
何を驚いているんだ?俺は普通に移動しただけだぞ。
そして一太刀。
セルクに向かって放つ。
「ぐ、が…!?」
セルクが苦しそうに俺の一太刀を魔槍で受ける。
なんだよ?
なんでそんなに弱そうにしてるんだよ?
なんでそんなに苦しそうにしてるんだよ?
「き、貴様!覚醒したのか!?」
何言ってんだよ?俺はただ一太刀入れただけだぞ?
なんでこんな弱い奴に俺は負けそうになってたんだ?
なんでこんな奴に幼い少女が殺されたんだ?
そうか、幼い少女が弱かったからだ。
だから、俺は悪くない。
悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない。
いや
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う、違う!!!
守れなかったんだ、守りたかったんだ。
再度俺は認識した。
自分の無力差を。
そして俺は心に誓う。
もう争いのない世界を創る事を。
「うああああああああああああああああ」
連続でセルクに剣撃を叩き込む。
必死にセルクが受け止める。
だが、受け止められても4,5発まで。
魔槍が耐えられなかったのだ。
魔槍が半分に折れ、俺はそれでも剣撃を続ける。
何回斬ったのだろう?頭の中は真っ白だ。
それまでそこにいた魔族は微塵にされ、もはや存在してたのかも疑わしい。
返り血で血まみれになった俺は幼い少女の亡骸の前へ行く。
そう、俺はただ救いたいんだ。
救う為には心臓が必要だ。そして解き放たれた魂。
全てを補完すべく俺は禁呪を使う事を決意した。




