勇者、間違いに気づく
「やるじゃない!クロム!」
サーシャはそう言うと先ほどリリスが召喚した土壁からひょこっと身を乗り出す。
「グズグズしてねえで行くぞ!」
俺はそう言うと破壊した門をいち早く潜る。
「ほう、こういう侵入の仕方があったのだな。」と関心しているアーシェ。
こんな事出来るの俺くらいだろっと思いながら
俺、アーシェ、サーシャ、リリスの順でパーティは前進する。
「いたぞー!あそこだー!」
門の中に侵入し住居街と思しきところまで進んだら
そこら中から雑魚が湧き出てくる。
主に人間が多いが亜人や魔族もいる模様。
「ふん、雑魚は雑魚らしく下がってな!」
俺はそう言うと魔剣「リベレーター」で前方の敵を真空波で薙ぎ払う。
「私だって!」
サーシャがそう言うと左側面から攻めてきた敵兵達を同じく真空波で薙ぎ払う。
まぁ俺ほどの威力はないが。
「きゃ!?」
後方にいるリリスに向かって手薄になっていたところを攻め込まれるが
アーシェが素早くリリスの前へ立ち敵を倒す。
「大丈夫か?」
アーシェがリリスに問いかける。
「はい、ご迷惑を…。」
リリスは申し訳なさそうに言う。
「くっ」
それを尻目にアーシェに矢が放たれ剣で薙ぎ払うが
次々と雑魚がどこからともなくやってくる。
このままじゃ埒が明かねえ!
俺は剣に魔力を込め先ほど門を壊すために
放った必殺剣を放つべく意識を集中させる。
「フレイムバースト!」
被害を最小限に抑えるため、城壁の壁際に本日2回目の必殺剣を叩き込む。
この技は魔剣「リベレーター」の威力と同調して
俺のマジックポイント消費と比例する為、日に使えるのは3回が限度。
辺り一面を炎と真空波で人、家、何もかもを巻き込み
城壁は砕け散り、前方は焼け野原になる。
「うわあああああ」
周囲の雑魚が戸惑いを見せる。
今が好機!
「こうなりたくなかったらすっこんでろ!」
「俺らはテメェらのボスに用があるんだ!」
俺が周囲に響き渡る声で叫ぶ。
一斉に逃げていく雑魚共。
その中で一人腰を抜かして動けない雑魚Aを見つけ
首根っこを掴んで問いかける。
「おい、セルクの居場所はどこだ?」
「ひっ、ボ、ボスはこの先にある中央の屋敷にい、いる…。」
「そうか」
そう言いと俺はもうこの雑魚にもう用はないと思い止めを刺そうとするが
「待って!」
サーシャが俺を止めに入る。
「なんだ?」
俺がサーシャに怪訝そうに聞く。
「もうその人は戦う意思とかないでしょ!離してあげて!」
そこで、はっと思ってしまう。
仮にも俺は勇者だ。魔王でもあるが今は「勇者」なんだ。
文献によると勇者は人助け等を無償で行い、無駄な殺生や破壊は望まない。
「すまなかったな。」
俺はそう言うと首根っこを掴んでいた雑魚Aを離す。
「た、頼む。殺さないでくれえええ!」
駄目だ、完全にビビっちまってやがる。
まぁここはサーシャに任せよう。
「おい、サーシャ。」
俺はサーシャに言う。
「なぁに、クロム?」
「コイツを使って捕まってる奴隷達を解放してきてくれ。」
俺がサーシャに頼み込む。
「うーん、正直私もそのセルクっていう人と戦ってみたかったんだけど…。」
「クロムの頼みならいっか!うん、いってくるよー。」
快く了承してくれた。
さて、次は…。
「おい、アーシェとリリス。」
「ん?」とアーシェ、「はい!」とリリス。
「お前らもサーシャのサポートに回ってくれ、この規模だと奴隷達の数は多い。」
「ふむ、了解した…。」とアーシェ「はい!」と短く言うリリス。
これで俺一人でセルクのところで行けるという事になった。
正直、反魔王派の幹部であったセルクの実力はかなり強いと思っている。
うちの幹部連中クラスだと思ってもいい。
そんな連中相手に無傷で戦う事は不可能に近い。
今いるパーティに決して俺の血の色を見せるわけにはいかない。
何故なら俺は外見は人間で、血の色は緑で魔族とバレるからだ。
ここからは俺一人で…。全てを片付ける!
そう心に誓うと俺は屋敷に向かい走り出した。




