勇者、野営する
野盗の集団を追っ払い日が暮れ、俺達は野営する事になった。
俺は返り血を洗い流す為、
近くの川で水浴びをし野営地に戻ってきた時、仲間の話し声が聴こえ身を潜めた。
「…アイツは本当に勇者なのか?」
アーシェが怪訝そうにサーシャに問いかける。
「勿論よ、私の国で勇者の儀を執り行って勇者になったのよ。」
いつも元気いっぱいのサーシャが落ち着いた口調で答える。
「しかし、奴の行動と言動、そして気迫は魔族そのものだったぞ。」
アーシェが的確に話の的を射る。
「いいえ、クロムは人間よ!ちょっと変わった田舎者だけど悪い奴じゃないわ!」
サーシャが俺を全力でフォローしてくれている。
「いい人には変わりないと思います。ハーフエルフのあたしですら受け入れてくれる人でしたから。」
リリスが控えめに話す。
確か、文献によるとどの種族でも
ハーフは忌み嫌われ、迫害を受けてきたと書いてあったのを思い出す。
俺は魔王の一人息子だから例外中の例外らしい。
「ふむ、まぁ奴隷商人を倒すという目的は一緒だからな、私は気にしない。」
アーシェが干し肉を食いちぎりながら言う。
ふう…、危ないところだったな。
確かに俺は暴走した、暴走し過ぎたのだ。
憎悪に身を任せ、己のありのままを表現してしまった。
これも親父の血のせいかもしれないと自分を呪ったが
半分は母の「人間」の血なんだよな…。と歯を食縛る。
「すまんな、水浴びは終わった。」
そう言いながら俺は仲間と合流する。
「ああ、戻ったか。」
と干し肉を更に貪るアーシェ。
「で、ひとつ疑問に思ったんだが」
俺が仲間に問いかける。
「あれは完全に【罠】だった。って事はギルドの連中とかそういう所に密告者とかいたのか?」
「恐らくな、奴隷商人を潰して欲しくない冒険者もいるって事だ。」
その答えをアーシェが口にする。
「確かに、冒険者さんからして見れば奴隷は身の回りの世話や荷物運びに重宝しますからね…。」
「私も昔は…、いいえ何でもありません。」
ハーフエルフのリリスが俯く。
そんな世の中なのか…。
本当に何も知らない自分自身に苛立ちを覚える俺。
「でも、そんなの許せないよ、奴隷なんて!召使いならいいのに!」
また空気を読めないサーシャが突拍子もない事を言う。
「…ぷ、あっはっは、面白い事を言うやつだな、サーシャは。」
パーティを組んで初めてアーシェの笑顔を見た気がする。
それから他愛のない話をして皆眠りにつき、夜が明けた。
思えば他愛のない話などせずに
作戦会議をすればよかったと後に後悔する俺であった。
早朝、本当に夜が明けた途端、アーシェに「起きろ。」と蹴飛ばされる。
いってえな!と反論しようと思ったがサーシャも同様に蹴られて起こされ
「いったいわねー!」と叫ぶ。
その叫び声でリリスがぎょっと目を覚ました。
「奴らはいつも酒盛りをしていて早朝に弱い、そこを狙う。」
アーシェが作戦を皆に言う。
「確かに奴らの事はアーシェが一番知っているしな、任せるよ。」
俺がアーシェを信用して指揮を任す。
「うん、賛成」とサーシャ
「はい」と短く言うリリス
斯くしてパーティは奴隷商人の拠点へと向かった。




