矛先のその先
12月24日
秋吾side
おかしい。
どうして笑顔でいられる。
どうして見て見ぬふりができる。
現実から目をそむけ己だけのしあわれを追求する。
おかしい。間違っている。
「あんた、さっきから声に出てるわよ。」
中性的な声が聞こえる。
秋吾はウイスキーをあおると力強くおいた。
「マスターは変だと思わないのかい?」
「そうねえ、私みたいな人が受け入れられないのは変なのかもねぇ。」
「そういいみじゃ…。」
この怒りはどこから湧いてくるのだろう。
二年前。某国の内戦に参加したとき。
あの時見た地獄。あの時から変わったのか。
それとも、高校の時のあの事件か。
いや、もっと前だもっと前。親父に捨てられ母親に自殺されたとき。あの時から世界が変わった。
では、何に怒る。何にいかっているのだ。
「あんたさ、もっとおいしそうに酒を飲みなさいよ。」
「フッ…。久しぶりに来たからな。」
「本当よ。1年ぶりにきたのに何を怒っているの?」
「理不尽にかな。マスター、まだクスリやってるのか?」
「そんなに酔っ払っている人には売れません。」
「やってるのか。今は誰が仕入れている。」
「ハルちゃんよ。」
「晴彦が…。」
秋吾は胸ポケットからタバコをだすとゆっくりと火をつけた。
なるほど。人は変わっていくものだ。