その他とその他とその他・・・。
春井 晴彦・曽野川 秋吾・冬木 麻耶・神原 夏樹。
高校時代、同じ文化部に所属した4人。誰から見ても仲が良かった。そして、卒業から6年のたったクリスマスイブ。
物語はこの日から始まる。
小さな影をもった彼らと大きな光をもつ彼ら。それは、別れから始まった悲しみである。
12月24日 午後11時30分。
晴彦side
けたたましい電話の音で、物部晴彦は目を覚ました。充電中の携帯電話の画面を見る。神原夏樹という文字が浮かんでいる。
「たくっ・・・。なんだよ・・・。この時間に。」
文句を言いながらも、晴彦は電話に出た。
電話の向こう側からは、すすり泣くような声が聞こえる。
「どうしたんだ?夏樹。」
嘘だ。晴彦は、本当は何があったかわかっていた。今日は、クリスマスイブ。おおかた、明日の彼氏とのデートをする前に別れ話でもしたのだろう。いつもどおりだ。夏樹にとって、晴彦は愚痴や人にはあまり言えない負の感情を吐き出すための存在でしかない。
「彼氏とね…別れたの。私がね、一方的に振ったの。」
「振った…ね。どうして、振った本人が泣いているのさ。」
「泣いてなんかない!!ただ、彼氏からもらい泣きしただけよ…。」
「おお。そうかそうか。それなら、もう一度やり直せばいいだろ?」
「あんた馬鹿じゃないの!」
突然の大声が、晴彦の聴力を奪い去る。
「いつも言ってるだろ。いきなり、怒鳴るなって。」
「晴彦があまりにも馬鹿なこというからでしょ!」
「はぁ…。悪かったよ。」
晴彦は、ベランダに出る。
冷たい十二月の風が晴彦の体温を下げていく。
それもまた構わない。晴彦は、タバコに火をつけた。
白い吐息とともに、煙も吐き出される。
「それで、用はどうしたんだ?」
「あんた、まだ吸ってるの?若い頃から吸って早死でもしたいわけ?」
「うるせぇ。ほっとけ。」
嘘だ。本当は普段は吸っていない。ただ、夏樹と彼氏や元彼の話をする時に出る動揺を誤魔化すために吸っているのだ。
「晴彦。明日暇じゃないの?」
「明日か?明日は、仕事だ。」
これも。嘘だ。明日は仕事はない。職業柄この時期に仕事はないのだ。
「なんで、嘘つくの?この時期は暇だー!って散々言ってたじゃない。」
「忘れてたんだよ。明日は休みだ。」
「…そう。」
気まずい空気が流れる。晴彦は、タバコを揉み消すと部屋への扉を開ける。ボソボソと夏樹が何かを言った気がした。
「え?なにか言った?」
「あー!!もう!だから!」
再び沈黙。
なんだ、この重い空気は!!!
晴彦は、おもむろにテレビをつける。もちろん、どの局も砂嵐しか放送をしていない。
「明日、会おうよ。」
だろうな。晴彦も、そういういと思っていた。いや、本当は聞こえていたのだ。あまりにも、恥ずかしそうにいう夏樹が面白くなり聞き返しただけだった。
「わかった。9時にビックツリーでいいか?」
「そうだね。それじゃ、明日。バイバイ。」
「バイバイ。」
電話の切れる音。静寂。
振り切るように晴彦は、首を振ると惰眠の世界へと舞い戻った。