カールカ街にようこそ!
一次創作「カールカ街」より、冒険者の卵の会話です。
今日もまた、一艘の船が港に着いた。
「ほら兄ちゃん方、着いたぜ。ここがカールカ街だ。」
よく日焼けした、いかにも“海の男”という風貌の男が船内へ話しかける。
「へー。意外と賑やかなんだな。」
レザーメイルを身に付けたグルーという名の青年が辺りを見回しながら言った。
「港周辺は住宅も多いし商業地区があるからな。この街の最重要拠点っていった所か。」
「なるほど…ねぇ船長!冒険者ギルドはどの辺りになりますか?」
ローブを身に付けた青年プラットが小さな地図をカバンから出しながら尋ねた。
「そんな地図なんて無くても場所は簡単さ。この街で一番高い建物がそうさ。嫌でも目に入るよ。」
船長は豪快にガハハッと笑って一言
「元々は刑務所の監視塔だからね。」
と付け加えた。
「このカールカ街は周囲100km程の島に作られた計画都市である。元はトリプス島と呼ばれ、本国の犯罪者用の流刑地であった。」
「送られた受刑者や監視者がトリプス島に無数に点在する迷宮を発見。調査の結果ここは時空の歪みが生じやすく、未知の空間へと幾度も接続を繰り返した結果、島内に迷宮ができたり魔物が生息する環境となった…という報告がまとめられた。」
「当時財政が厳しかった本国は迷宮に積極的に踏み入り数多の財宝を入手。その後トリプス島を冒険観光地として開発し、カールカ街を作った。街が完成し機能し始めたのは約20年前である。カールカ街はまだ若い街なのだ。」
「港がある南区は開発が進み居住区及び商業区として完成した。東区はまだ開発途中だが魔物も強くなく、比較的安全であるが人も少ない。北区は迷宮の入り口が点在し一般人は立ち入り禁止となっている。西区は元々この島に住んでいた受刑者達が集まってできたスラム街と化している。」
「なおカールカ街の秩序は冒険者ギルド及びギルドに任命された者達によって保たれている。実際には『個人のモラル』による所が多く、流刑地時代の『力が全て』という弱肉強食な面も色濃く残っており、腕に覚えのあるもの以外の入島はオススメしない。」
「・・・で?」
今までガイドブックを音読していたプラットにグルーが呆れた表情で尋ねた。
「それがどうした?」
「どうしたじゃないでしょ!僕達、まだ冒険者として半人前だよ!」
「だから?」
「だーかーらー!腕に覚え無いから、まだこの街に来るのは早かったんじゃないかと思うんだけど…」
「そうだなあ。とりあえず手遅れじゃないか?」
彼ら二人は既に街の中の軽食屋に入っていた。
「思ったより食い物が旨いな。」
「もぅ呑気なんだからグルーは…。」
その時だった。
「食い逃げ!」
若いウェイトレスが指指した方向には全力疾走で去っていく男の後ろ姿が見えた。
「一番賑やかなここでも犯罪があるなんて、やっぱり物騒だよ…」
だんだん“帰りたいオーラ”を醸し出すプラットとは対照的にグルーは楽しんでいた。
「うわー速ぇな!あれじゃ追い付けないな。」
ヒュン!
どこかで弓の弦が風を切る音がしたかと思うと、逃げていた男は膝を押さえてドタリと倒れた。
さすがのグルーもこれには驚いたようで
「…おい、街中で飛び道具なんて危険だろ…。」
と言うしかなかった。
「よう!あんたら初めてだね?」
声をかけられグルーが振り向くと、そこには特徴的な──パイナップルを彷彿させる髪型をした三白眼の男が立っていた。
「この街じゃあれが『日常』なんだよ。」
「・・・でも、膝を撃ち抜くなんて、やり過ぎです。」
ショックでしばし呆然となっていたプラットが口を開いた。
「んー確かにそうだけどよぉ。この街じゃ『過剰防衛』は良くある事さ。」
プラットは黙ってうつむいた。
──しばしの沈黙。
三白眼の男は困ったように頭を掻いた。
「ローブの兄ちゃんは、この街には向いていないみてぇだな。」
前準備をしっかりしてきても街の治安状況が肌に合わず、また本国に帰る者は少なくなかった。
三白眼の男はプラットもそういうタイプだと感じた。
グルーもこの街は相棒には合わないかも…と思い始めていた。
「この街は…いつでも、どこに居ても、全部が冒険なんだよ。」
懐から名刺を出しつつ男は話を続けた。
「今日死ぬか明日死ぬか、そんな覚悟をしながら毎日笑って生きる…そんな馬鹿野郎が集まった街なんだ。」
名刺には『商人・アージェ』と名が記されていた。
「もしもそんな馬鹿野郎になりたかったらよ、そいつを冒険者ギルドの受付に見せてやってくれ。こう見えても、ちったぁ顔が利くんだぜ?」
軽くポンポンと二人の肩を叩くと、アージェは立ち去っていった。
「冒険、か。」
宿屋に戻ったグルーは昼間のアージェの言葉を思い返していた。
「ボク達、今まで冒険らしい冒険ってしてないよね。」
プラットも話に乗ってきた。
「そうか?今日一日、カールカ街で過ごした。これってすげぇ冒険じゃないか?」
「え?」
「俺さ、冒険って迷宮入って倒したり宝箱見つけたり、なんかでっかい事だと思ってたんだけどさ。」
「うん。ボクもそう思う。」
まだ見ぬ迷宮とお宝目指し、一旗上げようと思い、二人は街に乗り込んだ。
「でもさ、この街…っていうか、この島自体が実は迷宮なんじゃないかって思ったらさ、なんか楽しくて。」
「島が迷宮…ねえ。グルーの想像力には時々ついていけないよ。」
「ハハハ!良く言われるよ。」
顔を見合わせ二人で涙が出るほど笑った後、プラットはグルーの顔を見て言った。
「ボクもグルーと同じ想像を楽しみたい。明日、一緒に冒険者ギルドに行こうよ!」
「おう、よろしくな相棒!」
こうして、また新たな冒険者が誕生したのである。
これはカールカ街に息づく人々の、ホンの一握りの、小さなのお話……
二人は無事に迷宮に行けたのか?
それはまた別の機会に…