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私の最終履歴  作者: 柿崎 知克
≒≪ニアリ・イコール≫
8/14

 8. 12月の鍋将軍

前回の続きとなります。さて鍋奉行を超える鍋将軍は誰でしょう?

1.樹パパ

2.主人公 瑞希

3.男の娘 亜希

4.ブラシス娘 沙希

5.未だ未登場のママさん

6.猟師 藤崎

7.美人大学生 美咲


尚、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・国家・固有名称等は架空の存在であり、それに類似する実在ものとは一切関係がありません。

 ―――同日



 山からの帰途を追う様に雪がちらつき始める中

 藤崎さんの運転する車で帰って来た私達を迎えたのは

 ……牡丹鍋ぼたんなべだった。



 客間から大量の布団を持って駆けて行く美咲さんの後を追って、道場に入った私が目撃したもの。

 それは道場の床に広がる阿鼻叫喚の地獄絵図……だった。



 板張りの道場の床の上に並ぶ、鍋、鍋、鍋、

 更に板張りの道場の床の上に並ぶ、酒、酒、酒

 そして板張りの道場の上の床の上に並ぶ、死体、死体、死体



 正確には小さなちゃぶ台が、道場のあちらこちらに並び、その上にガスコンロと鍋がある訳で。

 でも一升瓶の日本酒やら焼酎やらワイン瓶やら缶ビールの空き缶やらが、床の上にゴロゴロと転がっている事は表現通りだ。

 そして死体―――(いびき)を掻き赤ら顔で倒れている男共―――が散乱していた。



 そう、私達が夜稽古(よげいこ)で心身共に凍える思いをしている間に、夜間の部に通う男衆は全員出来上がっていたんだ、これが!

 そして同じ夜の部の女性の皆さんは甲斐甲斐しくも、生きる死体(よっぱらい)と化した男衆に布団を掛け、ちゃぶ台を道場の隅に異動し、酒瓶や空き缶を片付け、鍋の始末をしている。

 うちの道場は男尊女卑の考えは無いが・・・まぁ逆の状態のときに男衆が何を仕出かしそうかくらいは私だって判るので、その辺りに文句は無い。

 所詮、男は狼なのだ!今は死体だけど。

 尤も今回の生ける死体(よっぱらい)には、逮捕する側の人間も含まれる訳で、そんな職の方がそんな事をするとは思いたくないが、この体たらくを見る限り少々不安にもなる。

 でも、酔っ払いというのは私の知る限り、世界共通どころか異世界共通なので、意外とこれでも昼間は尊敬される人達……なのかもしれない。


 しかし、それにしても……。

(くー、旨そうに酔っ払いやがって!……はっ!?)

 って、いけない、いけない。

 この世界で私は、華も恥らう16歳!|(肉体年齢14歳)

 この世界で、16歳はお酒を呑んではいけません。お酒は20歳(はたち)になってから!!

 なので―――未練はあったけど―――私と亜希も、美咲さんや沙希と一緒に後片付けや布団運び、そして暖房器具や加湿器の準備を手伝う事にした。

 私達女衆が実力を発揮すると、そんな大仕事もあっという間に終わってしまう。

「ふっ、これが……女衆の実力!」

 なんて後始末の終わった道場を見下ろしながら呟くと

「……俺は男だけどな」

 なんて声が耳に届いた。

 調子に乗った私は亜希に気付かず、弟の地雷を踏んでしまっていた。

 やばい、これは。

(……ス、スルーしよう)

 多分、それがお互いの為に最良の方法だろう。




 道場から戻ると、居間でも鍋の良い香りが漂っていた。

「みんな、ご苦労様」

 そう言って私達女衆と亜希を労う父。

 そう、今では、まだ食べていない人達用に改めて牡丹鍋の準備がされていた。

 鍋を囲むのは、私達家族と藤崎さんと美咲さんの7人。

 但しその中で母だけがこの場に居無い。

 先程の後片付けを手伝ってくれていた方々に、お土産の猪肉を準備している所為だ。

 一応、うちの道場の夜間の部は、独身女性を断っている。参加している妙齢の女性は美咲さんだけだ。

 何故かと言えば、やはり防犯上の問題。

 警察関係者等の取り締まる側の人間が多いうちの道場は、多分この周辺で一番治安が良い。

 然しながら、やはり若い女性の夜間の夜歩きは避けた方が良い。間違いが有ってからでは遅いのだから。

 よって先程まで手伝ってくれていたのは、ご近所の小母様方。

 家族の世話を終えてから来てくれているこの人達は、母の友達でもある。そして猛者でもある。

「ダイエットに良いのよ」

 なんて言っているが―――まさか美咲さんのアレって小母様方の受け売り?―――、1年程前に強盗が逃走途中に資金と食料の補充にあの方々の一人のうちに押し入った、という事件があったらしい。そしてその家では丁度小母様方が茶飲話に花を開かせていたそうで…そう、この流れから簡単に想像がつく通り、小母様方全員で強盗を袋叩きし、そのまま警察に突き出したそうだ。

 以来この界隈は、ヤクザは立寄らず、不良はコッソリと通り過ぎる、ある意味とんでもない魔窟となっているとの噂があるらしい。

 あの人柄の良い方々が強盗とは言え袋叩きをするとは全く想像出来ないが、人は見掛けによらないと言うのも私の20年の人生経験で得た知識である。




 さて母も戻り、鍋の準備も整った。

 となれば食べるのみである。正直言ってお腹はペコペコだ。

「「「「いただきま~~~す」」」」

 皆で手を合わせ、食事の前の挨拶をする。

 これは我が家のみならず、道場の門人達にも徹底して教え込んでいる事だ。

 礼に始まり礼に終わる。

 武門の常識である。

 だけどその後は五月蝿い事は言わない。

『食事は美味しく食べるもの』

 と言うのも、家訓であると同時に道場に掲げられている格言だ。

 ―――ただ異世界堕ちする前の唯の中学生だった頃、大会で仲良くなった子とこの話題を話したとき、他所の道場でそんな格言なんて見たこと無いと言われた事がある。……良い格言だと思うんだけどなぁ―――

 鍋に伸びる箸の群れ。

 私も頂く事にした。

(うん、美味しい!)

 白菜のシャキシャキ感に、茸の風味、そして何より豚肉とは一味違う野生の猪が生み出すこの野趣溢れた滋味!

 空腹は最高の調味料とは良く言われる言葉だが、これは空腹で無くとも空腹にさせる味だと私は思う。



 しかしこの人数で食べると、いくら大鍋とはいえ減りは早い筈…

(……あれ?減っていない??)

 見ると食事はそこそこに、沙希が鍋に具材を入れ続けている。しかもその具材の並べ方は綺麗な事この上ない。

 でも私は生っぽいお肉が好きだったりする。あの柔らかさと噛んだ時の迸る肉汁が堪らなく好きなのだ。

 昔はそうでも無かったが、やはり『アーシア』に於ける風竜ディヴァインの元での生活が、私の嗜好を変えてしまったのだ。

 なので自分用に牡丹肉を鍋へ入れようとしたのだが……。

「お姉ちゃん!!」

「はいっ!?!」

 何故か怒られた。

 理由が判らない。

 私何か悪い事しただろうか?

 それにこんな恐ろしい気配の妹、初めて見た。

 はっきり言って、勝てる気がしない。

「お姉ちゃん、お肉の追加はまだ早いよ?」

「え?でも……?」

「は・や・い・よ・?」

「ひゃい!?」

 怖い、怖すぎる!!

 するとその様子に藤崎さんが笑い出す。

「はっはっは、沙希君は相変わらずの鍋奉行振りですね、先輩」

「はっはっは、そうだなぁ翔」

「「はっはっは!」」

 すると父まで笑い始めた。駄目だ、完全に出来上がっているこの二人。

 でも聞き捨てならない事を聞いた。

 沙希が鍋将軍?でも私の異世界堕ち前には、鍋どころか料理自体が出来無かった筈だ。

 まさかこんな些細な事でも歴史が改変されているのだろうか?

 そんな事を考えていると、亜希が何を勘違いしたのか説明してくれた。

「姉さんが消えて俺が師匠に師事し始めた、その半年程後の事だったかな。

 沙希が私も同じ事すると、言い始めたんだ」

「それが?」

 何故、鍋将軍に繋がるんだろうか。

「それで師匠が『鍋を上手に作れたら弟子にしてあげる』なんて言い出して」

「……それが元で鍋にはまってしまったと」

「ああ」

 亜希の説明に体中の力が抜けてしまった。

 なんて阿呆らしい理由。

(つまり藤崎さん!あなたが原因か!!)

 何だか、あの可愛かった―――今でも十分可愛いけど―――沙希が、こんな娘になった理由が藤崎さんにあったなんてと、怒っていると。

「沙希が師匠に弟子入りし出すなんて言い始めたのは、姉さんを探すつもりだったからだ」

 なんて言われたら、そんな怒りが持続する筈が無い。

「でも沙希がそんな事言ったのは、亜希が瑞希を探す為に翔に弟子入りするなんて言ったからだよな。

 僕は許可出さなかったけど」

「先輩から許可下りませんでしたからね……。

 …ん?いやいや第一、それを言い始めたらそもそも先輩がお役所辞めて世界中の門人に声を掛け始めたからでしょう、亜希君が自分に弟子入り希望し始めたの」

「……つまり私と奥様以外の全員が、原因のようですね」

 父が亜希の痛いところを突き始めると、更に藤崎さんが父の痛いところを突き始める。

 そこへ間隙無く美咲さんが纏めに入るが・・・それって結局のところ、私が原因ってことだよね。

 とほほ。





 そんな家族+αによる麗しい|(?)家族談義が花開く中、お酒の入った組―――何と、母さんと美咲さんも仲間に入り始めた。……羨ましい、私も本当は呑みたいのに―――の肴になるのを恐れ、鍋の前から離れ年少組みの私達3人はTVの前に移動した。

 因みに沙希は私達と一緒に居る事と鍋の仕分けをする事に本気で悩んだようだが、結局は私達に付いて来た。

 どうやら沙希にとって『鍋』は私達に匹敵するくらい重要な存在らしい。



 私達がTVの前に移動すると、ニュース番組は海外情勢の報道に入ったばかりのようだった。

「多国籍軍に派遣された、自衛隊海外派遣部隊は……」

 TVの画面には緊張状態が高まっているという中東アジアの国境線で、治安警備しているという陸上自衛隊海外派遣部隊の姿が映っていた。

 人影に見えるシルエット。しかし画面に一緒に写るコンテナやテントと比較すると、明らかにパースがおかしい。

 そう、それは人型の陸戦兵器だった。

 そしてニュースはそのまま他国の状況を写す。やはりそこにも、シルエットが異なるとは言え、四肢と頭部がついた人型陸戦兵器。

 そう、世界の陸戦兵器は私の知っている戦車ではなく、人型兵器が一般的になっていた。

 そしてこの世界の人達は、この人型陸戦兵器を当たり前のように受け入れている。

 藤崎さんにしてもそうだ。

 私は『異世界墜ち』する3年前から父の紹介で藤崎さんから指導を受けてきたし、そのときにだって男の子の亜希が喜ぶだろうからって戦車の玩具をお土産に持ってきてくれた事もある。

 しかし、藤崎さんにも亜希にも確認したところ、その玩具は人型兵器の玩具に換わっていた。



 変わっていたと言えば宇宙開発だ。

 いつかも思った事だが、世界の宇宙開発技術は停滞していた筈だった。

 良くは覚えていないけれど、確か一度は月まで人を運んだにも拘らず、その後は結局衛星レベルをどうこうとかで終わり。

 そして宇宙船同士をくっ付けた様なものを宇宙基地とか言っていたりとかそんなレベルだった筈。

 なのにこの世界では月に大々的な国際月面基地があり、宇宙開発や観測等もそこで行われている。

 その上、資源を地球から打ち上げるのみでは無く、彗星や小惑星を捕らえ資源化する事に成功しているというのだから驚きだ。

 ―――驚きと言っても技術力では無く、既知世界との差異について。星間戦争時代の技術レベルを知っている私とすれば、どちらも赤子レベルの技術力だから―――





 この世界の差異は、意味があるのか。

 単なる世界線の近似値なだけなのか。

 それとも何もかの意思によるものなのか。

 そして私がここに居る意味がそこにあるのか。

 今考えても仕方が無いと一度は結論を出した事なのに、私は再び考え込んでしまった。

正解は4番でした。最後までお読み頂き、感謝しております。次回も宜しく。

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