表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の最終履歴  作者: 柿崎 知克
≒≪ニアリ・イコール≫
12/14

12. 異界

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・国家・固有名称等は架空の存在であり、それに類似する実在ものとは一切関係がありません。



 電車の揺れに合わせて、車窓の向うの景色も揺れる。

 今日の冬空も、年明けから昨日までの三が日と同様に、晴れ渡っている。

「(その分、山のずっと向うでは雪が降っているんだろうけど)」

 その様な事が頭に浮かんだ亜希は、何気なく隣を見る。

 そこには、目が悪い訳でも無いのに瓶底眼鏡をかけ、参考書の内容を必死に頭へ詰め込もうとしている、姉の瑞希が居る。

「(形から入るにしても、それは遣り過ぎだろう…)」

 と思った亜希であったが、もしかしたらあの眼鏡はこの状況に対する厭味なのかも知れない、とも考えていた。

「(…まぁ確かに、俺から言い出した事だしな。

 ならばその厭味を受ける義務がある…か)」

 そのように考えながら、亜希は自らも受験生である事を弁え、手元の参考書に視線を落とした。


 亜希と沙希の兄妹は、高校受験を控えた受験生である。

 そして2人の姉である瑞希もまた、少々意味合いは異なるが、受験生である。

 よって受験予定の高校の入試日が1月末である以上、瑞希も亜希もこの日から受験日までの日数は残り1ヶ月を切っていた。

 つまり本来であれば、大多数の受験生同様に受験勉強もラストスパートを駆ける為に机へ噛り付き、受験戦争を乗り切ってゆかねば為らない重要な時期だ。

 決してこのように、山中へ向かう列車に揺られている余裕など、決して無い。

 然しながら2人には机から離れ、とある場所へ電車を乗り継いで行かねばならない理由があった。

 その理由とは、3日前の出来事に起因するものだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 瑞希を攫おうとした連中が何者であったか、亜希には結局分からず仕舞いであった。

 あの戦闘の後、亜希は自らが着込む戦闘用に色々と施してあるジャケットの内ポケットから、ライトを取り出しあちらこちらを調べ始めていた。

 しかし残されているのはタイヤのブレーキ痕程度のもので、男達の遺留物も無ければ、車両が何処かに接触した痕跡も発見する事は出来なかった。

 そしてあの拉致未遂犯の逃走の際、亜希は車種やナンバーを確認しようとしたが、残念ながらナンバープレートもテープのような物で隠されていた為に、知る事は出来なかった。

 更には襲われた拉致未遂被害者である瑞希も、犯人に心当たりが無いと言っている状況下では、亜希個人の力ではこれ以上の調査は無理であった。

「(……但し、姉さんが真実を隠していない、という前提条件付きだけどな…)」

 そのような思いから、益々瑞希への疑念が深まる亜希。

 しかしこの場で問い詰めても、決して口を割ろうとはしない姉である事も亜希は理解していた。


 それから暫くして、結局のところ現時点ではこれ以上この場所にいる必要性は無いとの結論に達した亜希は、姉と一緒に帰路に着く事にした。

 1月の夜は吐く息が白くなる程に冷え込んでおり、剥き出しの喉下や両手のみならず、ジャケットをも通して冷気が身体に染みてくる。

 その様な寒さの中、亜希と瑞希は互いに何も話さないまま、並んで歩いていた。

 しかし突如、瑞希は駆け出した。

 …目的はどうやら、前方の自動販売機だった。

 瑞希は腰のポケットから小銭入れを取り出し、自動販売機に投入し品物を2本購入する。

 そして1本を亜希へ投げた。

 放物線を描いて亜希の手へ辿り着いたそれは、暖かい缶コーヒー。

 そして自分にはミルクティーを購入した瑞希は、プルタブを引き明け口をつける。

 亜希も姉に礼を言った後、缶コーヒーを開け口をつける。

「(…甘い)」

 暖かさと砂糖の甘さが、亜希の咥内に広がる。

 亜希が普段飲んでいるブラックと比べるとこの缶コーヒーは格段に甘いが、ここで姉の好意に文句をつけるような少年では無い。

 亜希が一口飲んだのを見て、瑞希は帰路についてから初めて亜希へ話し始めた。

「亜希、今晩の事は家族の誰にも話さないで貰えるかな」

「……理由を」

「きっと聞いたら、皆が心配するから」

 瑞希の相談に理由を問うた亜希であったが、その返答は少年にとって到底満足のいくものでは無かった。

「……姉さんが、今晩のように今後も一人で外出するつもりならば、それは無理だな」

 だから、亜希は瑞希の要望を拒んだ。

「……先月の鍛錬でも感じた事だが、今晩の事ではっきりした。

 姉さんは対人戦闘の反応が鈍っている。

 それが意識的なものか無意識的なものはさて置いても、それは俺にとって姉さんの自由行動に対する不安材料でしか無い」

 だから駄目だと暗に語る亜希。

 だが瑞希は、亜希の説得を諦めなかった。

「亜希には、私が無抵抗で車に連れ込まれようとしていた様に見えただろうけれど、それは違うよ。

 あの男達は何故か油断していた。

 まるで、武芸の心得の無い普通の女の子を相手にしていたかのように」

「それで?」

「ううん、例え相手が油断していなかったとしても、どうこうなる私じゃ無い。

 今晩は、相手の意図も正体も掴めなかったから、それを知る為に大人しくしていただけで、脱出する事もあの男達を制圧する事も私はいつでも出来た」

 だから大丈夫と口にする瑞希。

「駄目だな、根拠が薄い」

 しかし亜希は姉の言葉をあっさりと切り捨てる。

 亜希は、姉のそんな説得力の無い言葉で納得するつもりは無かった。

 だが、こうも考えていた。

「(多分、その根拠となるものが、俺達に隠している事なんだろうな)」

 だから亜希は視線に力を込め、姉にこのように告げる。

「今晩の事は執り合えず誰にも言わないで置く。

 但し、それは俺に根拠となる実力を見せてもらう事が条件だよ、姉さん」

 亜希の言葉と視線に、瑞希は数秒間戸惑う。

 しかし瑞希は意を決したのか、亜希の視線を正面から受け止めた。

「……わかったよ、亜希」


 2人は話し合い、道場では人目があると言う事で避ける事にした。

 その結果、亜希が瑞希の実力を見定める場所は、先月の山中と決まった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 いくつかの路線を乗り継いで着いた駅から、バスに揺られる事40分。

 古びた待合所しか無いバスの停留所から山中に足を踏み入れる事20分。

 駅を降りてから1時間程で、私達は目的地に辿り着いた。

「ん~~……!」

 荷物を降ろし、背伸びをする私。

 藤崎さんの車に乗せてもらった時はこんなにも時間はかからなかったが、電車とバスを乗り継ぐと回り道になる為に、辿り付くだけでもこれほどの時間と手間がかかってしまう。

 しかし、今回は藤崎さんにも誰にも車を出してもらう事は出来ない。

 誰かに見られる事を避ける為に、ここ迄で来ているのだから。

(でも正直言ってこの回り道は何とかしたい…)

 自分では自覚が無いが、一応この世界での私は戸籍上16歳だから、二輪車の免許を取得するのも良いかも知れない。

 まぁ問題はお金だけど、合格すれば高校生。

 世界の命運も人類の生き残りも係っていない今の私なら、のんびりアルバイトをしてお金を稼ぐのも有りだろう。

 そんな『狸の皮算用』をしていると、私同様に荷物を降ろした亜希がこっちを見ていた。

(うっ、流石に怒ってる…?)

 やはり、あの瓶底眼鏡は無言の抗議にしても、少々大人気無かったかも知れない。

 私の目が眼鏡を必要としていない事は亜希は知っているから、当然あの瓶底眼鏡が伊達眼鏡である事も判っているだろう。

 その眼鏡を態々準備して、これからの目的にそぐわない行為――参考書による受験勉強――をしていたのだから、これを嫌味として受け取らない人は、きっと聖人君子だ。

 つまり私の目的は達したのに、その事を後悔しているというのだがら子供っぽいという誹りは免れ得ないだろう。


「姉さん、準備は出来たかい?」

 考え事をしていると、亜希が声を掛けて来た。

 如何やら弟の準備は既に終っているらしい。

 普段は準備の確認なんて行わないのが、龍宮流の流儀だ。

 なのに流儀に反し態々声を掛けて来たのは、多分私の隠しているものが準備が必要なものと思っているのかもしれない。

 これから亜希に見せるものは本来準備なんて必要無いものほとんどだ。

 それどころか自分の無意識下でも発動してしまう、ある意味厄介なモノなのだけれど。

 まぁ、その辺りは説明する必要無いし、あまりに人外外道なモノは見せないことにしよう。

「オッケ~!いつでも良いよ」

 と、返事をした途端に亜希は駆け出した。

 そして亜希とは反対に、私はその場から一歩も動かずに留まる。

 そう、今回は実戦訓練が目的の仕合では無い。

 飽く迄(あくまで)も、亜希レベルの襲撃者から自分のみを守る事が出来るのか。

 その為に亜希は完全装備、それとは反対に私は一切の防具――腕環すら――身に着けていない。

 ここまで着てきた普段着そのままだ。

 私は先ず【巌竜】を発動させる。

 ――あらゆる岩石を噛み砕き、その硬さの比類無きあの竜を――

 私の背後から【礫】が飛んで来る。

 しかし私は【礫】に対し回避もしなければ、受けも行わない。

 だから私の身体の数箇所に亜希の狙い通りに刺さろうとするが、刺さらない。

 正確には接触しない。

 よって慣性を失った物体は弾かれる事無く、その場に落ちる。

 実はこの竜の力は、その皮膚の硬さではない。

 私も【アーシア】にいた頃はそのように勘違いをしていたが、次の世界で義父であるDrはこの術を調べ、実際は慣性制御の一種だと分析していた。

 そのとき私は、思ったものだ。

 ――通りで断崖絶壁の崖から転落しても、あの竜が何事も無かったように欠伸をしていたのか――

 なんて事を。

(ととと、今は亜希だ!)

 多方面から幾度と無く遠距離攻撃を仕掛けてきた亜希だが、その目的は達したのか私の左側面から近づき拳を打ち出してくる。

(これは、先月の再現!?)

 あのときは、私が左の掌打と亜希の右拳が交差した。

 多分、亜希の意図は前回の状況下を想定して、同じ様な条件下ではどうなる?という問いだろう。

 対応方法はいくつかある――亜希を行動不能にする事を含めて――が、あのときの条件下では…!

 先月と同様に、私の左掌打をすり抜ける形で、亜希の右拳が私の左脇腹に一瞬早く到達する。

 あの時と違うのは、止める者が居ない事。

 そのまま亜希の右拳は私の脇腹に接触し、突き抜けた(、、、、、)

 そして私の左掌打は亜希のこめかみに当たる直前で寸止めをしていた。

 その掌打は、人一人分ずれた位置から放たれていた。


 交差法カウンター交差法カウンターで返した決着に、亜希は両手を挙げた。

 降参の意である。

 私達は互いに構えを解き、礼をする。

 仕合はこれで終了だ。

 互いに鞄から飲み物を取り出し、飲み始める。

(…さて、何から話せば良いのかな…)

 私の見せた力は、はっきり言って超常の力である。

 仕合中は心身共に戦闘状態だから、疑念を抱く前に倒す事に意識が傾いている。

 しかし水筒から暖かいものを飲み人心地が付けば、疑念は異質な生物に対する恐怖に変わるかも知れない。

 それは私が何よりも避けたい事であったから。

「…姉さん」

 互いの沈黙に私が耐えられなく為った頃、亜希の方から話しかけてきてくれた。

(私を姉さんと言ってくれた)

 私はもうこの言葉だけで充分だ。

 例え続く言葉が何であろうと、受け入れられる。

「姉さんは凄いな」

 しかし続く言葉は、私の予想外の褒め言葉だった。

「…凄い?」

「ああ、凄い。

 あれは超常の力だ、それ位は判る。

 何故あの様な力を得たのか、何が有ったのか、それは気には為るが俺は聞かない。

 訊かれたくないから、姉さんは話さないのだろうから。

 ただ、姉さんは『力』を制御していた。

 あれだけの『力』をたった2年で。

 それは本当に凄い事だと俺は思う」

 私は本当に良い弟を持ったと思う。

『気には為るが俺は聞かない。

 訊かれたくないから、姉さんは話さないのだろうから』

 父さんと同じ事を私に言ってくれる亜希は、やっぱり父さんの息子で我が家の長男なんだね。

 2人とも声を枯らしてでも詰問したいだろうに、私を信頼して訊かないでくれている。

 こんな化け物になった私を、娘と、姉と、呼んでくれる。

 それがただ、ただ、嬉しかった。

「…姉さん?」

 膝を抱えた両腕に顔を押し付けたまま動かない私に向かって、心配げに声を掛けて来る亜希。

「………ありがとう、ありがとね……亜希」

 私は感謝の言葉しか言えなかった。




 赤くなってしまった目が元通りになるまで待ってもらい、私達は帰途についた。

 ただその帰り道、バスを待っている最中、乗っている最中、電車に乗っている最中と、亜希は色々と訊いてきた。

 亜希が自ら言った通り理由については、確かに訊いてこなかった。

「あの【礫】を無効化した術は何か教えて欲しい、姉さん」

「最後の術は、気配があったのにその場所に居なかったのも術か?」

「必ず色が変わるのか?」

「他にどんな術が使えるんだ?」

 もう、こんな感じだ。

 でも私も可愛い弟の頼みに口が軽くなり、色々と――あまりに人外過ぎる術や外道な術は隠したが――話してしまった。

 その異質性に恐怖を感じなければ、男の子はこういった事が好きなんだな~と思う。

 ただ、どうやら亜希は私の竜魔術を日本に古来からある術の一つと勘違いしている節があった。

 確かに私も藤崎さんから、裏の世界には龍宮流の様に表の世界には隠さねば為らない技法を伝えている人々が居るのと同様、科学では説明出来ない霊魂や精霊、鬼、神、天使、悪魔、妖怪、等々を用いたり退治したりその血脈を伝えたりする人々が居る事を聞いた事がある。

 多分、全然違うと思うのだが――何せ、私のは異世界の竜が開発した術だ――、何が違うのかも説明出来ないので、心中で亜希に謝りながらも勘違いし続けて貰う事にした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 沙希にとって『血も涙も無い兄』の手によって大好きな姉から引き摺り離され、渋々自分の受験勉強をしている最中に携帯電話が鳴り出したのは、兄妹にとって3学期が始まり幾日か過ぎた1月の中頃のことであった。

 沙希がベッドの上に放り投げっぱなしにしていた自分の携帯電話を見ると、電話を掛けて来たのは親友の美加からであった。

「やっほー、沙希。

 しっかり勉強してる?」

「その勉強を中断させているのが親友からの電話だとは、口が裂けても言えないけどね」

「おーおー、詩織も酷い事するねぇ。

 偏差値ギリギリを受験する親友に向かってさ」

「偏差値の足りない親友の勉強を見てあげている詩織さんは可哀想な人だよねぇ」

 電話越しに舌戦を繰り広げる沙希と美加。

 もし視線を見る事が出来れば、その中央では間違いなく火花が散っているに違いなかった。

 とは言っても、これも永年の親友である2人の『お約束』でしかないのだが。

「それで美加、何かあったの?」

「そうそう沙希、あの手紙って覚えてる?」

「手紙?」

「ほら、初詣の帰りに占って貰った結果の手紙だよ!」

「…ゴメン、忘れてた」

 そもそも正月以降から今日までの期間で手紙と言ったら年賀葉書だって手紙だ。

 どちらかと言えば、年賀葉書以外を思い浮かべる方が難しいだろう。

 だから、沙希も『占い師からの手紙』の事は、開封時期が1ヶ月先で有った事もあり、すっかり頭から消えていた。

「それでその手紙がどうしたのよ、美加」

「凄いぞ、あの占い師!」

「…話が繋がらないんだけど」

「だ・か・ら、あの占い師の結果を書いたあの手紙。

 あれがバッチリ的中したんだって」

「(そう言えば、詩織さんも同じ様な事を言っていたっけ。

 それに姉さんも)」

 先は元旦の一日を振り返ってみた。

 姉の瑞希は、初詣の帰り道に手紙の中身を読んだ途端、必死になって電話を掛けていた。

 家まで兄と送った詩織も、私の携帯電話へ当たった旨を伝えてきた。

 ならば、美加もきっと何かが的中したのだろうかと沙希は考えた。

「それで?何が的中したの?」

「いや~それがさ~恥ずかしながら受験票無くしちゃったんだわ」

「…詩織さんに伝えないと。

 私達の親友は馬鹿でしたって」

「過去形でありがと。

 それで必死に探していたんだけど、そのときに受験票の代わりにあの手紙が入った封筒が出てきてさ」

「…つまりその話の流れだと、その封筒を開封して手紙の中身を読んだら受験票の場所が書いてあったというところ?

 やっぱり伝えないと、私達の親友は間抜けでしたって」

「はいはい、私が悪かったですよ。

 でも単に書いてあるだけじゃ無くって、その理由まで書いてあったんだ。

 凄いよ、あの占い師!」

 美加は興奮して順番が前後していたが、要約すると『拾った母親が後で美加に渡そうと他のものと一緒に片付けたが、その片付けた事自体を忘れてしまっていた』らしく、一度は『受験票』の事を聞いたが「知らない」と答えた美加の母が、手紙に書いてあった通りの事を話したら思い出したらしい。

 そこまで凄い手紙なら、自分には何が書いてあるのだろうと沙希は考える。

 しかし、沙希の手紙の開封指定日はまだまだ先だから見無い方が良いんだろうとも考えた。

 良く当たる占い程、占い師の指示を守らないと手痛いしっぺ返しを喰らうと言うのは、この手のオカルトの常識である事を沙希は思い出していた。

「それでその中に、多分沙希宛の伝言が有ってさ…」

 親友の会話内容を頭の中で整理していた沙希は、突然に調子の変わった親友の語り口と伝言との単語に、意識を引き戻された。

「そ、伝言。

 何でも、詩織の手紙にも亜希さんへの伝言があったらしいじゃないか」

「確かにそう言ってた。

 それで?私に伝言って何?」

「えーっとだな、次の日曜日の夕方五時に……」

 それは指定の時間と場所に、沙希が一人で来て下さいとの依頼であった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 次の日曜日、沙希は伝言で伝えられた場所に行ってみる事にした。

 そうと言っても指定時間は夕方の5時。

 特に塾や予備校等には通っていない沙希にとっては、外で受験勉強が出来る場所など図書館程度しか思いつかない。

 親友達や姉兄と受験勉強を行うという手もあったが、時間を忘れたり、2人が心配してついて来る可能性もある。

 よって沙希は、図書館での勉強で時間を潰していた。


「ふ~~…」

 区切りが良い所で顔を上げ、一息付ける沙希。

 その時、図書館の学習室の時計が丁度視界に入った。

「丁度4時…かぁ」

 指定の時間は5時、そして約束の場所までここから歩いて20分程。

「(もしあの占い師の人が待っているのだとしたら、少し早めに着いて待っているのが良いよね。

 …あ、姉さんも兄さんも美加に詩織さんも占いの結果で助かったみたいだし、何かお礼の品を買ってゆけば丁度15分位に前には着くかも)」

 そのように考えた沙希は、参考書に栞を挿み鞄に詰めて図書館を発つ事にした。


「うん、美味しそうなクッキー見つけられて良かった~♪」

 スキップを踏み出しそうな調子で歩く沙希。

 沙希が指定の場所へ行く道は、あまり通った事の無い道だったのでどの様なお店があるのか途中で心配になったのである。

 しかし良い香りに釣られて寄り道した先には、お洒落な雰囲気の洋菓子屋があった。

 そこでクッキーを一つ試食した沙希は、その芳醇なカカオの香りと絶妙な甘さに心を奪われ、この店のクッキーをお土産にする事に決めたのである。

「帰りにまだ時間があったら、また買って帰ろうかな♪

 美加や詩織さんとお茶しに来るのも良いかも知れないし」

 その様な事を考えながら、歩いて行く沙希。

 しかし、そこで違和感に気付いた。

 先程から景色が変わらない(、、、、、)のである。

 具体的には同じ景色が繰り返されていた。

 感覚的には目的地に着いていなければおかしい時間を歩いている。

 時計を確かめる。既に時間は4時45分を過ぎていた。

 なのに着かないのである。

 そして先は未だ、気付いていなかった。

 先程から時計の針が微動ともしていない事に。


 歩き続けていると、漸く景色に変化が現れた。

 十字路が見えたのである。

 沙希は十字路に駆け寄り、十字路で左を見た。

 しかしその先に続く景色は、先程まで見えていた景色と同じだった。

 同じく右を見た。

 それも左で見た景色と同一のもの。

 そして来た道を振り返ってみても。

 その先は前方左右と全く同一の景色だった。


 途方に暮れる沙希。

 だが、沙希は取り敢えず前に進む事にした。

 途方に暮れ続ける、泣き叫ぶ、理不尽を恨む、恐怖に凍りつく

 これらは意味が無いと言う事を、2年前に経験している。

 そして兄と誓ったのだ、どの様なときでも前に進むと。

 だからこそ、沙希は不安に震える心を鼓舞し、冷静に且つ周囲に変化が無いか確かめながら慎重に進む。


 その時であった、この異様な場所で始めて聞く音に気付いたのは。

 その音は、子供泣き声のように聞こえた。

 音源に駆け寄る沙希。

 泣き声が段々と大きくなり、その音がはっきり聞こえる位置まで来ると、その声の持ち主が見えた。

 それは5~6歳位の女の子だった。

 電柱の陰に蹲っていたその子は、膝を両手で抱え、泣くのを必死に抑えようとしていた。

 残念ながらその努力は、完全には報いられていなかったが。

 その子は沙希の影に気付いたのだろうか、彼女の事を見て戸惑いの表情を見せた。

「(この子も私と同じくなのかな…?)」

 沙希はその子の横に座り込み、その視線の高さを合わせた。

「どうしたの、こんな所で?」

「…ぐすっ……わかんない…ぐすっ……いつの間にかここに居たの…ぐすっ…」

 べそをかいているが、意外としっかりした返事をする少女に沙希は驚く。

 この様な場所に一人で放り出されても、しっかりと現状把握をしようとしている事に。

「(そうか…。

 だったら、私は一層しっかりしないと!

 今度は、自分だけでなくこの子も励まさないと駄目だよね!)」

 自分の頬を両手で叩いて気合を入れる沙希。

「そうだ、お腹空いてない?」

「…空いた」

 そのとき『く~』となる少女のお腹。

 食べ物と聞いただけで反応を示す少女に、それを微笑ましく思いながら沙希はクッキーの入った袋を取り出す。

 お姉ちゃん、丁度クッキー持っているんだっ。

 食べる?」

「…うん」

 まだ少々沈んだ表情の少女にクッキーを差し出す沙希。

 そして少女は、怖ず怖ずとそのクッキーを口にした。

 そして沙希が気に入って買ったクッキーは、少女の口にも合ったらしく残りを一気に頬張った。

「美味しい?」

「うん!」

 やはり、お菓子は悲しみの特効薬らしく、少女は幾分か元気を取り戻した。


 クッキーを分け合い、持っていた水筒から幾分冷めたが未だ温かい紅茶を頂いた2人は、随分と落ち着いた。

 そして2人で話し合う。

「そっか、家族と逸れちゃったんだ」

「うん」

 少女は自らの名前を『みーちゃん』と名乗った。

 きっと家族にそう呼ばれているんだと思った先は、少女に自分の名前を教える。

 沙希にとってこの会話は、まるで妹が出来た気分だった。

「それじゃ、沙希お姉ちゃんと一緒に捜しに行こうか!」

「うんっ!!」

 そして電柱の陰から立ち上がり、歩き出す沙希。

 しかし、その時。

 背後の十字路の陰から、嫌な気配を感じた。

 それは絶対に近づいては為らないと、武道家の端くれとしての本能が囁く気配だった。

「…どうしたの?お姉ちゃん」

「ううん、何でもない。

 さっ、早く行こうか?」

「うんっ」

 少女の元気の良い返事と共に歩き出す2人。

 そして、2人は景色の変わらない道を進み続け十字路を幾度と無く越えて歩き続ける。

 頼りになる人と出逢った所為か、うろ覚えな歌を口ずさむ少女。

 その歌に合わせて歌いながらも、沙希の嫌な予感は一層強くなってゆく。

 十字路を越える度に。

 十字路を曲がる度に。

 益々強くなってゆく気配。

 この気配は間違いなく私達を害する意思がある≪敵≫だと沙希は感じた。

 しかし、絶対に振り向いて視認してはいけないと、勘が囁いてもいた。

 だから沙希は、人生で初めて感じた≪敵≫をこの目で確認しなければならないと言う理性と、見てはいけないという直感を秤に掛けた。

 そして、沙希が選んだのは直感(、、)だった。

 歩き続けるしか無い沙希と少女。

 途中で少女が疲れた様子を見せた為――少女は気丈にも、自分で歩くと主張したが――に、少女を背負い歩き続ける。

 気配は更に強くなった行ったが、この少女の為にも沙希は諦める訳にはいかなかった。


 それは少女を背負ってから更に幾度かの十字路を曲がったときに起きた。

『どんっ』

「「きゃっ」」

 沙希は不意に何かにぶつかり、倒れこみそうになる。

 しかし沙希は、転倒を避けて何とかその場で踏み止まった。

 前方を見る沙希。

 その視線の先には、見た事のある人が沙希と同様に転倒を避け踏み止まっていた。

 その人は…。

「祠堂先輩?」

「沙希ちゃん?」

 そう、沙希の姉の親友であり1年先輩であった祠堂霞しどうかすみであった。

 先方もぶつかった相手が、親友の妹だったとは気付かなかったようであった。

「先輩、どうしてここに……まさか先輩も?」

 霞は巫女服を着ていた。

 若しかしたら、神社から用事で外出した際に、この場所に来てしまったのではないか、沙希はその様に考えたのだ。

「沙希ちゃんこそどうしてここに…そっか、入っちゃったんだ」

 しかし、霞は不思議な事を口にした。

「(入っちゃった…?ってそんな場合じゃない!)」

「先輩、急いで逃げましょう。

 私達の後ろから来る何か(、、)に追いつかれちゃいけないから」

「…そうね、急ぎましょう。

 沙希さん、どうやら多少疲れているみたいね。

 その子はこちらに…仲村さんっ」

「はい」

 良く見ると、彼女の後ろには初老と青年の2人の男性が付き従っていた。

 突然の展開に吃驚するもの、霞が沙希の背中の少女を受け取ろうとする事について、沙希は拒絶する。

「私は大丈夫ですから、急ぎましょう」

 実際には、確かに疲れてはいたが少女を守る義務感が、疲労に勝った。

「わかりました。

 それでは、榊さんと仲村さんは殿しんがりに付いて下さい。

 行きますよっ」

 合図と共に駆け出す霞に、遅れまいとついて行く沙希。

 そしてその後ろを走る榊と仲村。

 5人は霞の先導で、景色の変わらない世界を駆け抜けていった。


 霞の先導のままに走り続けると、景色に変化が訪れて来た。

 建物や地面はそのまま変化は無いが、空の景色が昏くなっていったのである。

 そして周囲に微かな音が聞こえ始めたとき、霞の足は止まった。

「どうしたんですか?」

 霞に問う沙希。

 だが、沙希は何時の間にやらあの≪敵≫の嫌な気配が消えている事に気付いた。

「ここが分岐点です。

 その子をここに降ろしてあげてください」

 不可思議な事を言って少女を降ろすように告げる霞。

 意味は不明だが、姉の親友であり自分達を導いてあの≪敵≫から離れる事が出来たのもこの先輩の御蔭だと考えた沙希は、その言葉に従った。

 降ろすと目を覚ます少女。

「…んにゃ?」

 寝ぼけまなこで目頭を擦る少女。

 そのあまりの愛らしさに、心が温まる沙希。

 しかしその所為か、何時から少女は眠っていたのかという事や、あの走り続ける揺れで目が覚めなかったことに対する疑問には気付かなかった。

「お姉ちゃん、だぇ」

 未だ寝ぼけているのか、その言葉は舌足らずだった。

「お姉ちゃんは、このお姉ちゃんの友達よ。

 それよりもさぁ、あなたの家族が捜しているわ」

「えっ…………本当だっ!」

 その事に驚く沙希が耳を澄ますと、確かに少女の名前を呼んでいるかのような声が聞こえた。

「さぁ、お父さんもお母さんもあっち。

 急いでいってらっしゃい」

「うんっ!」

「ちょ、ちょっと、祠堂先輩!?」

 声の聞こえる方向に少女をいざない、それに素直な返事をする少女。

 あまりの展開に沙希は霞の行動に疑問を呈した。

「まだこれだけ声が離れているのに一人で行かせるなんて。

 私、最後まで見送って」

「駄目です」

 走り出そうとする沙希を止める霞。

 その間にも少女は闇の向こうへ走り去って行く。

「沙希さん、これ以上私達があちらへ踏み込む事は、互いの為に良く有りません。

 彼女は私達の世界の住人では無いのです」

 その様に説明しつつも沙希の肩を抑える霞。

 その説明に反論しようとした沙希であったが、霞が震えていることに気付き反論をやめた。

「貴女に何かあったら瑞希が悲しむ。

 だからお願い、ここは私に従って…」

 姉の名前を出されて、これ以上の行動を封じられた沙希。

「沙希お姉ちゃ~ん、ありがと~~~♪」

 そして走っていった少女は、途中で沙希達を振り返り大声でお礼を言いながら手を振っていた。

 その少女に手を振り返す沙希。

「み~ちゃ~ん、またお姉ちゃんとクッキー食べようね~~」

「う~~ん……」

 もう既に少女は走っておらず、手を振っているだけであるにも関わらず遠ざかる声。

 そして沙希が見守る中、少女の声は消えていった。

 最後に少女が幼い子供を2人連れた両親に、満面の笑顔で飛びついた姿が沙希には見えた、ような気がした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後、霞の案内で別の方向へと進んだ4人は、突如喧騒に包まれた。

 それは夕方の町並み。

 目の前に立つ複合商業施設のビルに取り付けられた巨大な時計は。

『16:45』

 と表示されていた。


「沙希さん?」

 目前の時計の表示時刻に驚く沙希に、霞が声を掛けてきた。

「お疲れのご様子ですが…お茶でもご一緒しません?」

 正直、色々な事がありすぎて疲れていたのは事実であったが、霞に尋ねたい事が山程ある沙希は、その提案に頷いた。


「このお店はココアが美味しいんですよ」

 と言って沙希にもココアを勧める霞。

 席には霞と沙希の2人のみが着き、榊と仲村と呼ばれた2人組の男性は霞の後ろのテーブルに着いていた。

「お待たせしました」

 と運ばれてくる2つのココア。

 その一つを美味しそうに飲む霞のその姿は、巫女服でありながらも店内の内装とココアという飲み物との間に違和感を醸し出していなかった。

「(どう見ても、和菓子と抹茶しか似合わない姿のなのに…)」

 そんな事を考えながら、自分のココアに口をつける。

 ココアに口を付けた途端に涙腺が緩み始める沙希。

 その姿に、対面の霞が慌てる。

「ど、どうしましたか、沙希さんっ」

「い、いえ、何でも」

 実際、何が有った訳でも無かった。

 ただそのココアは……あの少女と食べたクッキーの味がした、それだけの事だった。


「それで、…あれは何だったんですか、先輩」

 ココアの味と共に少女の笑顔が脳裏に浮かんだ沙希は、涙腺の緩みを誤魔化すように一口飲んだだけで質問を始めた。

 沙希の質問にカップをソーサーの上に置いた霞は、沙希の視線を正面から受け止める。

「あの場所は、この世界とは薄くて厚い壁に隔てられた、別の世界です」

 霞の返答は、あまりにオカルト的なものであった。

 これを昨日までの沙希が聞いたのであれば、信じる事は無かったであろう。

 しかし、今の沙希はこの事を信じる事が出来た。

「但し、あの世界は自然のものではありません。

 …と言いましても人の手によるものでは無いと言う意味では、自然のものなのですが…

 とあるナニカが作為的に作り出したものです」

「人では無いナニカ…ですか?」

「はい、そうです。

 古来よりこの日本では、その様な世界に迷い込んでしまった人を『神隠し』にあったと言います」

「『神隠し』…ですか」

 更にオカルトな方向へ話が進む。それはもう既に、昔話や童話の世界だ。

「そして沙希さん、貴女はあの世界で『私達の後ろから来る何か(、、)に追いつかれちゃいけないから』と仰られていましたね。

 多分ですが、その『何か』が先程申し上げた『ナニカ』です」

 いきなり沙希の実体験に繋がる話になった。

 そして沙希は思い出す、あの後ろから迫って来る『ナニカ』の気配を、自分達を害する意思を感じたあの予感を。

 あの気配を感じ取ったとき、傍にあの少女が居たから頑張れた。

 今ではそう思う。

 一人では途中で心が折れ、足を止めて立ち向かおうとしただろう。

 無謀と勇気を履き違えて。

「ですから沙希さんがあの『ナニカ』から徹底して逃げようとしたのは正解です。

 私達と出会う前に足を止めていれば、確実に貴女とあの少女は『ナニカ』の餌食となっていたでしょうから」

「でしたら、あの子はあれからどうなったんですか、先輩」

 霞から少女の話が出た事を皮切りに、少女の安否を訊ねる沙希。

「大丈夫です。

 あの少女は無事に家族の下へ帰りました。

「無事なんですね?」

「はい、間違い無く。

 そう、貴女が助けたんですよ、沙希さん」

 その言葉に沙希の脳裏に浮かぶのは、両親に満面の笑みで抱きついたあの少女の姿だった。

「あの少女は満面の笑みで両親に飛びついていましたからね。

 きっと幸せだと思いますよ」

「そうですか、あの光景は間違っていなかったんですね。

 …良かった」

 霞の言葉に、漸く安堵の息を吐く沙希だった。

 しかし逆に、霞の表情は凍り付いていた。

「沙希さん…貴女、見えていたんですか?」

「え?何をですか」

 いきなり問われて、逆に質問で返す沙希。

 その沙希に霞は、真剣な面持ちで更に訊ねる。

「あの少女が、両親に満面の笑顔で抱きついた光景を、です」

「…え、えぇ。気のせいかもとは思ったのですが、先輩も見えていたみたいですし本当の事だったみたいです。

 みーちゃんが嬉しそうで本当に良かったですよね」

 沙希の言葉に霞は少し考え、そして頷いた。

 その頷きを沙希は、自分の思いへの同意と勘違いした。

「ですよね~」

「いえ、違います沙希さん。

 私が納得したのは、貴女があの場所に居たのは偶然では無いと言う事に、です」

「…へ?」

 いきなりの言葉に――祠堂先輩との会話はいきなりばっかりだ、と思いながら――間抜けな声を返す沙希。

 霞はそんな沙希の奇行には目もくれず、腰元の茶巾袋から名刺入れを取り出すと、沙希に名刺を渡した。

 その名刺を疑問符だらけの頭で受け取り、沙希は見た。

『厄払い  祠堂 霞』

 そこにはこの6文字と電話番号のみが記された質素な――紙質自体は高級品であるが――名刺であった。

「沙希さん、貴女の今の状態はとても危険です。

 今のままでは、高い確率で再びあの様な場所に引き寄せられるでしょう。

 ですから、少しでも何か異常を感じたら何時でも構いません。

 直ぐに連絡を下さい」

「………」

 流石に、霞のその言に言葉を失う沙希。

 その様子に、沙希が疲労の限界と見て取った霞はお茶会の終了を告げる。

「沙希さんもお疲れの様子ですし、このお話についてはここまでと致しましょう。

 このお話の続きは、また後日にでも」

 そして霞は背後に控える初老の男性に話しかける。

「榊さん、沙希さんを自宅まで御送りさしあげて下さい」

「はい」

 霞の言葉に即座に頷くと車を店前に回す為、店を先に出る榊。

 そして伝票を二つ持ちレジに向かう仲村。

 そして大人2人に指示を出す祠堂霞。

 その物語のような現実に、沙希の頭は既に麻痺していた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから数日後。

 とある雪山の山中。


 この場所に於いて車両転落事故が発生してから、既に20日以上経過していた。

 事故検証の為に沢山の人が集まった山も、既に新雪がその跡を全て覆い隠し、すっかり落ち着きを取り戻していた。

 そんな雪の上を雪兎が跳ねる。

 きょろきょろと左右に大きな耳を向け、捕食者が居ないか警戒する雪兎。

 しかし、兎のそのような行動は全くの徒労であった。

 何故なら次の瞬間、兎の身体は急激に膨れ上がり弾け飛んだからだ。

 新雪の上に飛び散り広がる、兎の血と臓物。

 しかしその死に方も異常であれば、残された臓物も異常であった。

 飛び散った臓物は、つい先程まで生きていた動物の臓物であった筈なのに……まるで兎の剥製が爆散したのかと思う位、生物の気配が残っていなかった。

いつも読んで頂き、誠にありがとう御座います。

お陰様で小生のこの連載も1000アクセスを超えました。

今後ともよろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ