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私の最終履歴  作者: 柿崎 知克
≒≪ニアリ・イコール≫
11/14

11. 疑念

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・国家・固有名称等は架空の存在であり、それに類似する実在ものとは一切関係がありません。


 亜希と沙希の思い掛けないサプライズを受けた私は、親友の霞の胸を借りて少し泣いてしまった。

 中学生組の4人とも、見ない振りで騒ぎ続けてくれた事も、とても嬉しかった。



 私の親友の祠堂霞しどうかすみと別れた私達5人。

 目指すは、階段下の出店だ。

「よーし、何喰ぉっかなー、臨時収入も有ったし」

「働いたからお腹空いたね~♪」

「甘いものがよろしいですわね」

 階段を降りている最中の3人娘の会話は、とても賑々しい。

 では4人目はというと、黙り込んでいた。

 よっぽど先程のシスコン疑惑が効いたらしい。

 いや若しかしたら、私が泣いている間に芳川さんが亜希を女の子と、勘違いしていた事実を知らされたのかもしれない。

 悪意の無い女性には何も言えない亜希だが、それでもやはり心中は複雑なのだろう。

 そうそう、先程の私が泣いているときの事だが、客観的には16歳の少女が14歳の少女を慰めているようにしか見えない。

 でも私の主観では20過ぎの女性が親友の胸を借りて泣いていたのだと言う事を申し添えておく。

 だから何だ、と言われれば特に理由は無いけれど。




 さて、屋台村|(仮名)に辿り着いた私達は唖然としてしまった。

 何故なら、出店の殆どが閉まっていたからなんだ。

 考えてみれば、社務所を出たのが3時過ぎ。

 今はもう4時近くだ。

 夏祭りとは違い、冬は日没が早いからお客のピークは午前中からお昼にかけての時間帯。

 だからこの時間帯、特に食べ物系は殆ど閉まっていた。

 無くなっていないのは、明日も営業予定だからだろう。

 だけど、そんな理由は出店を楽しみにしていた私達には関係が無い。

 だから落胆も一入ひとしおだった。


 開いている出店を探す私達。

 でもこの時間でやっているお店は中々無い。

 もう何でも良いから屋台を満喫したいと思った私は、横道の先にあるテントのような出店に気付いた。

 見たところ、中から灯りが漏れている。

 私は藁にも縋る気持ちで、出店の中に声をかけた。

「あの~、お店…未だ営業してますか?」

「ええ、開いていますよ」

 中から聞こえてくる肯定の綺麗な声。

 私は、漸く4人に報いる事が出来る喜びに、大声で皆を呼んだ。



「お姉ちゃん、ここ、何のお店?」

 沙希に聞かれて私も始めてここが何のお店か確認せずに呼び集めてしまった事に気付いた。

 私は布の横から頭を突っ込み、店員さん――店主さん?――に問いかける。

「…占いです。表にも書いてありますよ?」

 そう言われ、私が頭を引っ込めると確かにテントの側面にお店の名前と共に書いてあった。


「【占い】マダム・フォーチュンのお店、だってさ」


 読み上げる秋元さん。

(うん、確かに書いてある…あったかなぁ?)

 先程見たときは、ただの模様だった気もするが…単に見落としただけかもしれない。

「取り敢えず、中に入ってみる?」

 私が皆にその様に聞くと

「面白そう、やってみたい♪」

「まぁいいんじゃね?他に面白そうな出店は閉まってたし」

「御神籤も未だでしたからね、丁度良いかもしれませんわね」

 と三者三様な返事が返ってくるが、やはり女の子はこういうものに興味が尽きないらしい。

 亜希はどうすると聞くと、遠慮しておくと連れない答え。

 占い如きで亜希を女の子みたいなんて言わないのに。

 そう如きなのだ、占いなんて。

 正直なところは、私は【アーシア】で本物を見てしまっている。

 そして予言に絶対なんて無い、だから見世物としての関心しか無いのである。



 4人で中に入ると、顔にそれっぽい布――ブルカのこと――を垂らした女性いた。

 服装からその姿は一切見えないが、声からすると結構若い女性なのかも知れない。

 多分店名からすると彼女がマダム・フォーチュンなのだろう。

 そして彼女の前のテーブルには、カードや石、それに水晶玉が置いてあった。

 知る限りこの世界に於いてありきたりな『占いのお店』である。

「それで何方からお知りになりたいですか?」

 占い師さん――もう面倒くさいから、こう呼ぼう――は私達に訊いてくる。

 私は興味が無いし、そもそも3人へのお礼なので順番を譲った。

 3人は賑々しく言い合いながら順番を決める…どうやら、花京院さん、沙希、秋元さんの順で決まったらしい。

 先ず、占い師さんのテーブルを挟んだ対面に座る花京院さん。

 幾つか質問を行い、その答えを聞きながらカードを捲る占い師さん。

 多分この後、その占いの結果を花京院さんに告げるのかと思いきや、占い師さんは紙とペンを取り出しサラサラと書き綴り始めた。

 そしてその紙を丁寧に折り、封筒に入れ彼女に渡す。

「はい、占いを終えました。この結果は紙に記しておりますので…貴方の場合は、ご自宅帰ってから読んで下さいね」

 と言ってきたのに私は驚いた。

(…この世界では占いの営業方法まで改変されているのだだろうか?)

 しかし、そうでは無かったらしい。

「あの…この場で読んではいけませんのかしら?」

 良かった、私の常識がこの世界でも普通らしい。

「はい。

 占いには知るべき時と場所があります。

 残念ながら占う時は私に選べませんので、こような形を私は執っております」

 結構本格的な事を言う占い師さん。

 でも私は嘗て似たような言葉を聴いたことがあった。

 この世界では無い、魔術が普遍的に存在した世界【アーシア】で。

 そんな事を考えているうちに、沙希の順番が始まっていた。

 沙希も同様の手順で、但し時間は1ヶ月後との事。

 秋元さんも同様で、但し時間は先よりは少し早く2週間後の夜に。

 そんな占いのお店としての営業方針では、この世界で食べていけないのでは無いのだろうかと、逆に心配になってしまう。

 そもそもテント式の出店って事は、常連客もいないだろうし。

 そんな考えを見透かされたのか、占い師さんは私に視線を向けてきた。

「あなたも如何ですか?」

 私は先程迄と違い、随分とこの占い師さんに興味が沸いてきていた。

 やはり切欠は、あの営業方針だろう。

 試したくなった私は頷くと、席に着く。

 やはり今迄と同様に当たり障りの無い質問に答える私。

 私がこのなりで16歳だと告げると、占い師さんは「お若いですね」と返してくれた。

(うん、好感度高いよね♪)

 そして同様にサラサラと書き綴り封筒に……入れないで渡してきた。

「あれ、封筒に入れないんですか?」

「ええ、これは緊急性が高いので。

 ですから外に出たら街灯の下に行って直ぐにでも読んでくださいね」

 私の疑問にそのように答える占い師さん。

 だったら、今ここで読んだ方が良い気もするので、そのように尋ねると

「決まり事ですので…申し訳ありません」

 と、逆に謝られてしまった。

 一人当たり三千円を払った――随分と安いですねと訊いたら、「初回サービスです」と答えられた――私達が表に出ると随分と薄暗くなっており、その中を亜希が手持ち無沙汰で待っていた。

 神社といい、ここといい亜希には寒空で待たせっ放しだ。

(亜希、本当にごめんね)

 しかし、この占いの結果を早く読みたかった私達は、亜希への謝罪もそこそこに街灯の下に移動する。

 そして広げた紙にはこのように書かれていた。


『過去に四度の神隠しにあった貴女へ。

 今すぐに下記の時間迄に下記の場所へ人を向かわせる事をお勧めします。

 それでは、色々と大変でしょうが頑張ってくださいね。

 応援しています、それでは

  ――――MF―――― 』



「これ何て書いてあるの?」

「多分文字でしょうけれど…英語でも…イスラム語…でもありませんわね、何語でしょう」

「参ったなー、私達のもこんな変な字が書いてあるのか?」

 3人が首を捻りながら、色々と話している。

 違う、これは、英語やその他の言語じゃない。

 そもそもこの世界の言語ですら無い。

 これは【アーシア(・・・・)】の言葉だ!

 その上、この手紙には私が四度(・・)神隠し――異世界墜ち――したと書かれている。

 これは私しか知らない(・・・・・・・)【アーシア】の占い師の言葉だ。

 そう、本物の占い師(・・・)の!

 もしあの占い師さんが、異世界の本物と関わり合いがあるのであれば、この内容は本当に急を要するのであろう。

 嘗て【アーシア】で、そうであったように。

 私はこの住所を読み上げ、4人に尋ねる。

 ここが何処なのか知るために。

「龍宮先輩、この文字が読めますの?」

 私はその事については答えられない。

 第一答えて説明している時間も無い。

 手紙に書かれた制限時間まで1時間も無いのだから。

「その地名って確か、長野の戸隠にあるスキー場じゃなかったっけかな。

 昔、確か一度行った事があるし」

「あれ?それって美咲さんが友達と行っているスキー場じゃない?」

「沙希、それ間違い無いか?」

「…え~と、多分…」

 秋元さんの言葉に沙希が反応。

 私は事実を確認するべく美咲さんに電話を入れた。



「はいもしもし、香坂です」

「美咲さん!?」

 かけた電話は直ぐにでも出てくれた。

 結構騒がしいのはエンジン音の所為だろうか。

「美咲さん、これから言う住所の場所に行ける?場所は……」

 私の突然の要請に、何も訊かずに聞いてくれた美咲さんは、車で直ぐにでも向かえますと返事をしてくれた。

 お願いしますと頼み、電話を切る私に4人は問いたげな表情を向ける。

「…皆が訊きたい事は分かっているつもり。

 でも、今は訊かないで。

 私にも、何が起こっているのか良く解らないの」

 何も答えない私に空気が沈む。

 折角の今日の楽しげな雰囲気も、こうして霧散してしまい、今日はここで解散となった。

 この空気に呑まれ、あの占い師に確認しに行けば良かった事も、その出店が路地の先から消えている事にも気付かずに。


 しかし、この事件はまだ終わりを迎えていなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 亜希と沙希が、その結末を知ったのは、沙希の友人2人を家まで送り届け自宅に帰って来てからからだった。

 未だ振袖姿だった沙希は着替えに自室へ戻ったが、シーパンに黒のシャツとその上にジャンバーを羽織っただけだった亜希は、防寒着を片腕に持ちそのまま居間に入ってきた。

 そして丁度放映されたニュースでは、とある雪山の遭難救助について流れていた。

 そのニュースでは、このような情報が流れていた。

 長野県戸隠にあるペンションのオーナーが食料の仕入れに車で出たまま、音信不通の状態になったとの事。

 その車が山道の崖下に転落していたとの事。

 そこを偶々(、、)車で通りがかったスキー客の女子大生に発見され、彼女によって管轄の消防へ連絡が入ったとの事。

 現在救出活動は無事終了し、転落した車内に居たオーナーは意識不明だが、大きな怪我はしていないとの事。

 そして解説者は、あと一時間発見が遅れていたら大晦日から降り続く雪で車は埋まり、発見は困難になり被害者は助からなかっただろうと付け加えたいた。

 このニュースを立ちながら見ていた亜希は、ソファーに座りながらテレビを見ていた父に話しかけられた。

「良かったな、このペンションのオーナーさん」

「…そうだね」

 戸隠、スキー客の女子大生、この2つのキーワードが連想するのは、神社帰りの姉さんが香坂さんにしていたあの電話。

「(別の可能性もあるが……)」

 と考えていたら、その可能性を父が否定してきた。

「それで先程地元の警察から電話があったのだが、このスキー客の女子大生と言うのは香坂君だそうだ」

「(…やはりあの電話だったらしい、だが何故だ?)」

 亜希の中では、姉に対する疑念が生まれていた。

 あの文字とも絵とも言えるもので書かれていた手紙を、当たり前のように読み解いた姉の姿が脳裏に浮かぶ。

「(姉さんは、読み解いたのみならず、その内容にすぐさま対応を始めた)」

 また亜希は、手紙について一つ知りえた事がある。

 亜希と沙希が花京院を家まで送って行った後に、沙希の携帯電話に花京院から電話があったのだ。

 そこで花京院は、手紙の中身が日本語で書いてあった事。

 そして、今日の夕方に父が紛失したと物の場所が書いてあった事

 そして亜希への伝言も書いてあった事――出かけるときは忘れずに、とは意味不明であったが――

 この3つを伝えてきた。

 この事で亜希は姉宛の占い師の手紙も真実の内容が記されていたのだと悟った。

 きっと沙希が帰り道に、占い師は開封時間を指定したと言っていた。

 つまり、もしあの占い師が似非でないと仮定するならば、花京院に手紙を渡した時点では彼女の父親は、モノを紛失していない。

 よって紛失後である花京院が帰宅後の時間で無くては、意味が無い(、、、、、)

 仮に帰宅する前――例えば、あの街灯の下などで――に読んだ場合は、どうなったであろうか。

 色々と考えてみたが、直ぐに止めた。

 この予想はあの占い師が似非で無いとの前提条件だ。

 だとすれば、彼女が帰宅後まで手紙を開かないと知っていたとの結論に帰着する。

 だから今の場合に於いて重要なのは、手紙が真実であったという事ではなく、姉が手紙を真実だと知っていて(、、、、、)行動した事だ。

 更に、亜希は始めて姉に疑問を持った夜を思い浮かべる。

 それは先月の夜間に行われた、隠密処理の鍛錬だ。

 あの状況で姉は、亜希に向けて掌打を放ってきた。

 だがそもそも掌打は、特定の部位に放たなければ効果は薄い。

 そして掌打は、抜き手や拳に比べて、更に僅かながら射程が短いデメリットを持つ。

 しかしそのデメリット以上のメリットは、自らが怪我をし難いと言う事だ。

 つまり姉がとっさに執ったあの行動は、拳や抜き手が通用しない硬い相手が常態であったという事になる。

 その相手は、高度なボディアーマーを着けていたのであろうか?

 それとも中世の騎士のように鉄板を身に纏っていた?

 それともまさか…本当にまさかとは思うが、人外を相手にしていたのだろうか?

 最後のような組織が国内に複数ある事は、風の噂で聞き及んでいる。

 なんでも隣の県にもあるらしいのだから、案外身近なものなのかもしれない。

 あの手紙だって、その組織の暗号文であったとするならば説明はつく。

 しかし、そうであるのならば姉は何故その事を隠すのか?

 もしそれが真実ならば、姉は記憶喪失などになっていないと言う事になる。

 解らない。だが解らない事は本人に聞くしかない。

 案外、あの姉の事だから、

「訊かれなかったから言わなかっただけだよ~」

 と拍子抜けするほど軽く話してくれるかも知れないと亜希は考えた。



 姉は居間にも食堂にも台所にも居なかった。

 ならば自室かと当たりをつけ、亜希は姉の部屋の扉をノックした。

 だが返事は無かった。

 その時、亜希は気付いた。

 扉がしっかりと閉まっていない。

「姉さん、寝ているのかい」

 と疑問に思いつつも部屋の中を覗く。

 そこには脱ぎ散らかされた振袖が散乱していた。

 まさかとの思いが亜希の脳裏を過ぎる。

 それは振袖をしまう暇も無く部屋を飛び出したのでは無いかとの予想。

 だから急いでいた為に部屋の扉が完全に閉まってはいなかったのではとの連想。

 そしてその予想は当たっており、瑞希の靴は無かった。



 何処に行ったのか、

 考えられるのはあの占い師の店だ。

 ならばどれ程前に隠れて外出したのかは知らないが、追いかければ間に合うかもしれない。

 咄嗟に連想したのは昼間のあの不審者。

 そこらの裏の人間に遅れを取る姉ではないが、姉は未だ対人戦闘の勘を取り戻していないのだ。

 少なくとも、亜希に遅れをとる程度には。

 急ぎ家を出ようとした亜希は、帰り道に聞いた花京院からの伝言を思い出す。

「あれは、こういう事かっ!」

 玄関から自室に一旦戻った亜希は片腕に持っていた防寒着を放り投げ、クローゼットからジャケットを羽織り、腕を通す間も無く玄関から飛び出た。

 姉に追いつく為に。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あの場の空気に耐えられなくなった私は、秋元さんと花京院さんを送ってくるという亜希達と別れ、一足先に家に帰っていた。

「ただいま~」

「おう、瑞希お帰り。

 亜希と沙希はどうした?」

「もう暗いから、友達達を家まで送りに行ってる」

「わかった」

 そんな感じに三和土で靴を脱ぎ、今に居た両親や住込み弟子の方々との挨拶もそこそこに部屋に戻る。

「はぁ…失敗したなぁ…」

 私の口から出るのは、溜息と愚痴ばかりだ。

 あの最後さえなければ、きっと楽しいままに一日を終えられたに違いない。

 なのに最後の最後で、【アーシア】の文字で書かれた内容とその中身に反射的に対応してしまい、自分がその文字を読める事が以上である事を失念していた。

 しかしあの文字で書かれている以上、はったりや悪戯だとは思え無い。

 もしあの手紙を無視していたら最悪の事態が訪れかねない事を、私は実体験として知っていたからだ。

「でも、今日のあの時で無くても良かったのに~~」

 私はベットに倒れこみ、ゴロゴロと転がる。

 振袖が皺になるのも、お構い無しだ。

 ちょうどその時、携帯電話が鳴る。

 相手は……美咲さんだ。

「もしもし、龍宮です」

「瑞希さん?良かった~電話が通じて」

「お疲れ様です。

 如何でしたか、あの場所は?」

「そうそう、その事で電話したのよ。

 瑞希ちゃん、何であの場所で事故があった事を知っていたの?」

 電話に出た私に、ほっとする美咲さん。

 そして私が要請した事の結果を問う私に、美咲さんは逆に問いかけてくる。

「いえ、知りませんでしたよ…って言うか、事故があったんですか?あの場所で?」

「そう、もう大変だったのよ。

 瑞希ちゃんは切羽詰った様子だっただか、悪戯だとは思えない。

 でも山の中は雪は降っている上に、もう暗くなっていたから中々思い切った事は出来ない。

 結局、私と友達で私達以外の轍の後が崖下に続いているのに気付いたの。

 それで友達が消防に連絡入れている間に、車載のワイヤーを命綱代わりにして転落車両まで私は降りて行って、中の人に声をかけつづけていたら連絡を受けた救助隊が来てくれて。

 そしてついさっき、無事に救助作業を終えたばかりなのよ」

「それは大活躍でしたね、美咲さん」

 流石、美咲さんだ。

 うちの道場でも1、2を争う女傑。

 その行動力は、街の軟弱男顔負けだ。

「まぁ車の中に居た人も、無事にヘリコプターで市内の病院に運ばれたけれど、意識が無いだけで大きな怪我は無いみたいだし、疲れた甲斐があったわ」

 美咲さんは疲れた中にも満足気な声をしていた。

「それでさっきの質問なんだけど。

 事故の事は知らなかったにしても、何かがある事は判っていたのよね?

 それはどうしてなの?」

 美咲さんは直球で答え難い事を訊いて来る。

 色々と誤魔化す言葉は思いつくが、多分通用しない。

 父の推察力とは別に、美咲さんは直観力で相手の嘘を見抜く。

 彼女が全国2位になった最大の原動力でもある。

 なのである程度は本当の事を話さざるを得ない、後は黙秘だ。

「ふーん、占いでねぇ」

 確かに心理的には信じられないかも知れないが、美咲さんは私が本当の事を言っているという自分の直感から信じてくれた。

「分かった。

 でもその事は警察には話せないから、私がこの場所に来た理由は誤魔化しておくわ。

 だから帰ったら、もう少し詳しい話を聞かせて頂戴。

 ……いま警察官が来たから電話切るわね」

 と言って電話を切る美咲さん。

 うーん、勝てる気がしない。



 美咲さんとの電話が終わった後、私は考える。

 あの占い師は何者なのかと。

 そう考えると勉強も手につかなそうな気もするので、私は確かめに行く事にした。

 本当は、あの電話を美咲さんにした後に、直ぐに行けば良かったのだが、あの時は対応とその後の気拙い空気でそれどころで、すっかり失念していた。

 私は執りえず振袖を脱ぎ、片付ける時間も惜しんで動きやすい服に着替えて家を出る。

 夜中にこっそりと言うのも余計な心配をかけるから、神社に忘れ物を取りに行って来ますと両親に大声で呼びかけ裏口より家を出た。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 神社の階段下にある横道に入ったとき、私は驚いた。

 道は直ぐに行き止まりとなる袋小路となっていたからだ。

 そして、そのどこにも出店テントがあった形跡が無い。

 これはまるで…

「…魔術」

 そう、【アーシア】に於いて時の権力者に命をその身と能力を狙われ続けた、占い師(ホンモノ)達。

 彼らが隠れるために編み出した術にそっくりな現象だった。

 しかし仮にそうであれば多分今なら追う事が出来る。

 幻術を破りその根源を追跡する竜魔術【幻竜】

 それは現実と夢の泡沫の狭間に棲み、その魔力を喰らう【幻竜】の力を擬似的に真似る、知覚強化系及び身体強化系の複合魔術だ。

 図らずもこの起動が、この世界始めての起動になってしまった。

 因みにこの系統分類は以前話した事象変換系及び神話再現系を含めて、私の勝手な命名だ。

 知覚強化のみ、身体強化のみの術があるから、自分で認識し易くする為にその様に整理している。

 そしてこの竜魔術とは、竜が別の竜の能力を擬似的に得る為に生み出した魔術であって、人間が竜を真似る為に生み出した魔術では無い。

 だからそもそもが人間が扱うように出来ておらず、竜の基礎体力及び基礎魔力を基本持っている事を前提に作られている。

 では何故そんな代物を私が使えるのかと言えば、まぁあまり思い出したく無い事実なのでここでは省略する。

 そういう魔術なので、一瞬の発動ならいざ知らず、継続的に発動には慎重に慎重を重ねるぐらいで丁度良い。

 この【幻竜】だって安全性は高い方の竜魔術だが、失敗すれば夢の世界に取り込まれる危険性があると、ディヴァインからもくれぐれも注意するように言われていた。


 魔術を発動し、注意深く袋小路を観察する。

 すると奥の突き当たり手前の側面に、揺らぎが視得た。

 現実世界では地蔵のある辺りだろうか、そこが多分現実と夢の狭間。

 そこを通れば、多分あのマダム・フォーチュン――多分、偽名だろう――の居る場所、若しくは居る場所に通じる場所に出る可能性が高い。

 私は慎重にその狭間に手を伸ばす。

 【幻竜】を発動中は、自分もその竜に近づくから幻影に近い存在になる。

 失敗したらどうなるのか、想像に難くない。

 しかしその時、袋小路の入り口から車のヘッドライトと思しき光が飛び込んで来た!

 直ぐに手を引っ込め魔力接続を切る。

 そしてそのまま地蔵の頭を超えて裏側に飛び込んだ。

 そして、先程まで私がいた場所を超えて停車する自動車。

 これはボックスカーと言われるタイプの自動車であったが、その後部扉が開き男が2名降りてきた。

 急激な魔術の切断の影響が抜けきらなかった私に対して、一人の男は私の両腕を羽交い絞めにして押さえ身動きを封じ、もう一人は私の口元に布を当てる。

 今度は逆に、魔術の影響が抜け切らなかったのが幸いし、無意識に【毒竜】――あらゆる毒を喰らい毒を吐く竜を真似た竜魔術――が発動する。

 お陰で私にはこの布に染み込ませている薬品――クロロホルムだろうか?――の効果は私の体内で分解し、効果を上げない。

 だがこのままではいけない、しかし少なくとも10秒は欲しかった。

 10秒の準備時間があれば、私は戦闘に於いて竜魔術の発動を意識的に抑える事が出来る。

 しかし抑え無い状況で敵に抵抗すれば、私の身体は自動的に竜魔術を起動してしまう。

 単純な身体強化系だけでも、石を砕く程の威力が出るのだ。

 恐らく、今のまま羽交い絞めに抵抗すれば、羽交い絞めしている男の両腕を引っこ抜いてしまう事は想像に難くない。

 だからこのまま気絶した振りをして、車に乗せられれば多分10秒は稼げるだろう。

 そうすれば後は単純にCQB(閉所戦闘)だ。

 狭い車内であれば、拳銃よりも私の拳の方が間違い無く早い。

 しかしその目論見は霧散した。

 私の目の前の男が右腕と右腿を押さえたのだ。

 目前の男の腕と腿に見えたあれは、【礫】それも戦闘用の針である。

 これをこの当たりで撃てる人間と言えば、師匠の藤崎さんか若しくは弟の…


「亜希!」



 その後の男達の動きは徹底していた。

 一人が増援に負傷させられたと判断するや否や、私を羽交い絞めにしていた男は私を解放する。

 そして怪我をした男を後部座席に積み込むや否や、ドアを閉める間も無くバックで急発進。

 車を避けた亜希を尻目に、車は階段前で切り返すと猛スピードで走り去っていった。

 私も亜希も当然ナンバープレートを確認しようとしたが、ご丁寧にもしっかりと何か――多分テープ――で隠され、確認する事は出来なかったのだ。

「姉さん、怪我は?」

「大丈夫、問題無いよ」

 私の安否を心配する亜希に、無事を伝える私。

 その返答に安心したのか、亜希の残心は解けたが、そのまま今度は事情を訊いて来る。

「今の一体…」

「…逆に私が聞きたいくらいよ」


 永かった元旦の1日。

 色々とあれど、然しながら謎は余計に深まっていくばかりだった。

いつも読んで頂き、誠にありがとう御座います。

お陰様で小生のこの連載も800アクセスを超え、お気に入り登録をして下さったかたもおりますようになりました。

小生は、遅筆ながら今後とも連載に励んでゆく所存です。そしてアクセス数やユニーク数、そして何より感想やレビューは何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。

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