10. 絆
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・国家・固有名称等は架空の存在であり、それに類似する実在ものとは一切関係がありません。
亜希がその男に気付いたのは、あの感動劇――最後さえ良かったら完璧だったのだが――から暫く後の事であった。
あの祠堂霞にとって行方不明であった親友との感動の再会シーン。
しかしそれは中学生4人組――亜希、沙希、秋元美加、花京院詩織の4人――の目前で、絵に描いたような見事な転倒振りを見せた瑞希と祠堂霞の2人によって壊された。
神社境内の玉砂利の上に倒れる、巫女と振袖姿の少女。
「おいおい、大丈夫か、アレ」
「うわっ、痛そーぉ」
「動かねーぞ」
「人を呼んだほうが良くね?」
等と2人を半円形に囲む、周囲の初詣客の声が聞こえ始める。
人を呼ぶも何も周りは人だらけなのだから誰かが助ければ良さそうなものだが、多数の視線が集まるこの状況で中々最初の一人になれないのは、日本人の悪い癖と言えよう。
だが、あまりにも見事な喜劇っぷり――主演女優二人があそこまで見事に台無しにしてくれた感動劇、これを喜劇と呼ばずして何と呼ぼう――に呆けていた4人も、ここまで人が集まっては流石に黙っている訳にも行かず、2人を助け起こした。
その後は誰かが呼んだ巫女――アルバイトの巫女、所謂≪バイト巫女≫らしい――の案内で社務所の奥の関係者休憩所へと中学生4人――主に、亜希――で2人を運び込んだ。
しかし、2人の傷の治療と着崩れた振袖と巫女装束の着付け直しをする事となった為、亜希は自ら一人で社務所の外に出たのであった。
「(あの巫女も他の連中も、誰一人として俺に外へ出るよう言わないのは何故なんだ…)」
社務所横の自動販売機で缶コーヒーを買いながら、亜希は自問する。
確かに気を失っていた女性二人を運ぶのは、沙希達の手には余る重労働だろう。
「(……だから、結局は俺が一人で運んだ事については、異論も不満も無い)」
しかし運び込んでから後も、さも当然のように大学生くらいに見えるアルバイトの巫女が、俺に二人の服を脱がして傷の手当の手伝いを求めてくるのどうかと思う。
そもそも、あの部屋は女性専用の部屋だったのではなかろうか?
沙希は姉の一大事に大慌てであった。
だから他のアルバイト含む女性陣は、緊急事態だった為に男も女も無く手伝いを求めた……と、思いたい。
よって、自分の外見が中性的――やや、女性寄り――な事を多少成りとも自覚している少年にとっては、そう考えたい一幕ではあった。
まさか、歳上の女性が亜希を完全に女の子と勘違いしている事に気付いた沙希の親友である同学年の少女2人が、その様子を面白がっていたとは露とも思っていない亜希であった。
その後、缶コーヒーを飲みながら社や社務所の周囲をぶらつくこう、と歩き始める亜希。
「まぁ、1時間ばかり時間潰すか…」
神社の周囲をぶらぶらと散歩する事に決めた亜希。
これは特に意味がある訳でも無く、単なる暇潰しである。
しかし社の方から裏を大きく周り、半分崩れた石碑を避け、社務所の裏側にたどり着きそうな位置に来た時の事だった。
亜希はハンチング帽を被ったジャンバー姿の男が樹木の陰に身を潜めた人影が、社務所の方を伺っている事に気付いた。
足を止めて藪に身を隠し、藪の隙間から人影を確認する。どうやら未だこちらには気付いていないと判断した亜希は、対応を考える事にした。
「(さて、これは痴漢か覗きか変質者か…)」
犯罪的にはどれも似たようなものだから、対応する方策も似たようなものとなる。
つまり捕まえて警察に届ければ良い。
「(まぁ若しかしたら、未だ未遂かもしれないから捕まえるのは早計だろう。
ならばどうするか)」
等と考えているその矢先に、男に動きがあった。
襟元で口元を隠したのである。
「(いやあれは…。
襟元の通信機で話している?)」
僅かに見える肌の部分が僅かに動いていることから、多分間違いでは無いと亜希は見定めた。
その辺りの知識は、師匠である藤崎に仕込まれているからだ。
「(…だとすれば、対応は変わってくるな)」
報道関係者――所謂、パパラッチだ――が瑞希の追跡調査をしているとも考えられるが、それにしてはあの不審人物の動きは素人の動きとも思えない。
取り敢えず、手持ちのスマートホンの無音撮影アプリを起動させる。
社会では犯罪行為に用いられると一部の自称良識者からは不評であるが、このような時には便利だ。
要するに、道具は使いようなのである。
人物の方から光が入らないように気をつけ、スマートホンを構える亜希。
ここでレンズの反射で相手に気付かれている様では、無音にした意味が無いからだ。
出来るだけ撮影倍率を上げ、撮影を終える亜希。
無事撮影を終えれば、次は相手を捕まえるか退散させるかだが、亜希は後者を選んだ。
今日は手持ちに大した道具は無いからだ。
徒手空拳や代用品で何とかする事の出来る自信はあるが、そもそも相手の実力が判らない内であり以上、過信は禁物である。
捕まえるのでなければ、そう難しくは無い。
「(そもそも相手は隠れているのだから、誰かに発見される恐れが出てくれば自ら撤退する筈だ)」
そのように判断した亜希は、足元に落ちている枯れ枝を拾い、自分と相手とで三角形を作る位置の茂みに、枯れ枝を投げ込む。
当然の如く、茂みの方から音がした。
その音に反応する不審人物。
そして次に亜希は龍宮流裏の技法【木霊】を用いて、まるで遠くから近づいてくるかのように、声を変調して発する。
「おーい、小早川ぁー。
こっちにいるのかー」
シチュエーションは友人を探して雑木林に踏み込んだ少年だ。
この状況で相手がどの様に動くのかを、亜希は見定める。
「(退散するならそれで良し。
しかし茂みに向かって行くのならば…)」
相手は自分の方に向かってくる少年を害する意図がある、と考えられるからだ。
「(その場合には、捕縛の為の戦闘行為も仕方ない……)」
しかし、結局相手は撤退を選んだらしく、雑木林の向うに消えていった。
一体、何が目的だったのか。
然しながら亜希がそれを知る術は無かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
流しの方から引き戸を開けて、巫女姿の少女が入ってくる。
嘗ての――主観では7年、この世界の客観では2年が経過している――瑞希の、そしてつい先程に親交を取り戻した、親友である祠堂霞だ。
「さぁ瑞希、お茶を入れたわよ」
と言って、お盆の上の急須と湯飲み、そして菓子入れを円形のちゃぶ台の上に置き、私に声をかけた。
何故、私だけかと言えば、現在この部屋には私と霞しかいないからだ。
そして沙希、秋元さん、花京院さんの3人はと言えば、初詣客相手に巫女として頑張っている。
どうしてそのようになったかと言うと、霞が神職の業務から抜けた事により人手が足りなくなってしまったからだ。
先ず私、次に霞が意識を取り戻した。
(…と言うと聞こえは良いけれど、転んで意識を無くした事自体が恥ずかしいよね)
そして私は着付けが乱れてはいたけれど無傷だったが、霞は転んだ拍子に左足首を軽く捻ってしまったのである。
怪我自体は少々休んでいれば痛みは和らぐ程度のものだが、巫女の仕事は基本的に立ち仕事――少なくともこの神社では――である。
なので、霞は強制的に休憩と言う事になってしまった。
しかし困ったのがローテーションである。
一人既に食事の為に休憩に入っており不在。
そこに主軸である、本職の霞が抜けてしまった。
まだ霞の代理は先程の大学生アルバイト巫女さんが行う――彼女は、長くこの仕事をしているベテランアルバイトだそうだ――にしても、今度はその穴を埋めて行くうちに最終的には手が足りなくなるらしい。
そこで手を上げたのが我が妹、沙希だ。
「お姉ちゃんがかけちゃった迷惑だから、私が手伝います」
との事だけど、私も霞も自爆だぞ?
……ってそんな事は無いか。
私が失踪後行方不明になったのがそもそもの原因だし。
また、沙希に合わせて秋元さんと花京院さんの2人も、手伝いを申し出てくれた。
「一度やってみたかったんだよね、巫女さんってさ」
「私は、お2人だけでは心配ですので」
なんて言っていた。
本当に、2人とも良い子だよ。
勿論、沙希もだけど。
(だから神社に来る途中に決めた『胸揉み』刑は勘弁してあげよう)
そんな訳で2人で、霞の休憩も兼ねてお茶なんてしている訳だ。
(……ん?一人忘れているような……??)
「それで瑞希、大丈夫だったの?」
「ん?私は特に怪我していないよ。
霞だけだね」
「…そっちじゃ無くて!」
私が先程の転倒で無傷だった事を改めて伝えると、霞はこの様に言って来た。
(??…あぁ、行方不明だった間の事か)
考えてみれば、霞にしたら行方不明だった2年前の親友が、仕事先に突如現れた。
それも何事も無かったように、2年前の姿で。
先程の転倒もその所為だろう。
そもそも多少ドジなところは有ったけれど、簡単に転ぶような運動神経の持ち主では無いのだから。
「そっちも大丈夫だよ、霞。
見ての通り変わり無し。
…いや、変わら無過ぎて少々寂しいけど」
と言いつつ、自分と親友を見比べる。
霞は本当に綺麗になっていた。
背中伸ばしていた髪をポニーテールにあげて竹刀を振っていた剣道小町は、腰まで綺麗に伸ばした黒髪を髪紐で一つに纏め、更に女性らしくなった隊形もあり、静粛な巫女さんに変りまるで別人のようだった。
言葉使いは変わらなかったお陰で第一声で霞だと気付いたが、そうで無く単に遠目で見ただけでは気付けなかったかもしれない。
「新聞では、2年前私達の母校で行方不明になった少女が無事保護されたと書いてあった。
名前は伏せてあったけれど、私にはこれが瑞希の事だと直ぐに判ったわ。
でも同じく、記憶喪失であり絶対安静の面会謝絶とも書かれていた。
だから連絡を取りたくても、怖くて連絡がとれなかったのに…どうして?無事だったのなら、私の事を覚えていたのなら、連絡をくれなかったの??」
身を乗り出して私を問い詰める、霞。
それに私は本当の事を答えられない。
私も、霞が親友として存在しているのか怖くて連絡を取れなかったのだから。
それはつまり、私がこの世界の歴史とは違う歴史の世界から来た事を教える事に他なら無い。
それは到底出来ない相談だ、少なくとも安全性が確認出来るまでは。
なので咄嗟に嘘をつく、……心苦しさに耐えながら。
「あのね、聞いたら気を悪くするかも知れないけれど…本当はね、今日はリハビリだったの。
歩き回る事で、世間に溶け込む事で2年前の記憶を取り戻す手掛かりになるかもしれないって」
これは、保護され入院していた当時、精神科の医師が言っていた本当の事だ。
因みに私にとっては半分嘘半分本当の記憶喪失だけれど、この世界の当たり前の知識が無い事は、記憶喪失と同じ症状だから仮病である事は幸いにもばれなかったから。
「だから本当はこの神社も霞の事も、記憶に靄がかかっていた様ではっきりと覚えていなかった。
だから、霞の事を思い出したのはついさっき。
霞の声を聞いた時なんだよ……ごめんね、友達甲斐の無い親友で」
最後の『ごめんね』だけは、本当の気持ち。
本当にごめんね、本当の事を言え無くて。
「ううん、そんな事無い!…私の事思い出してくれたんでしょ?それだけでも充分だよ!!
いえ、本当は貴女が私の事を覚えて居なくたって、無事だった事だけでも喜ばないといけなかったのに。
誤らないといけないのは私の方。
ごめんね、言い難い事聞いちゃって」
「ううん、私も嬉しいから気にしないで。
霞が私の覚えているままの親友でいてくれた事が」
これは本当。色々な事が違っているこの世界で変わらないでいてくれたものが有る。
家族のときもそうだったけれど、これは本当に、本当に嬉しい事だったから。
その後、笑いつつも互いに許しあった。
正直あのままでは限りが無かったのだ。
そして互いに近況報告をした。
それによると霞は――と言うか、私の同窓生達全員なのだが――、無事に我が母校である中学校を卒業できたとの事。
クラスメイトの何人かとは未だに連絡を取り合っているそうで、少し早いけれど私の無事を祝って同窓会を開こうかとも言ってくれたが、私は断った。
一応建前は、『未だ記憶の靄は晴れておらず、霞の事は運良く思い出せたが、もし集まってくれた中に思い出せない人が居たら悪いから』と言うのが表の理由。
然しながら実際は、霞の話を聞いていても多少歴史が違う事が判ったからだ。
全てを思い出せない振りなら問題は生じないが、もし迂闊にこの世界の歴史と違う事を口にしたら疑念を抱かせる。
それはどうしても避けたい。
だから、もう少しリハビリを続けて皆の事を思い出せたらお願いすると伝えると、霞は微笑みながら承諾してくれた。
暫くすると3人が戻ってきた。
時計を見ると既に3時を回っている。
どうやら私達は結構な時間をおしゃべり費やしてしまったらしい。
女子大生アルバイトの巫女さん――芳川さんと言うらしい――も一緒に戻ってきて、このまま4人とも明日以降もアルバイト出来ないか熱心に誘っていた。
どうやらこの3人、初仕事ながら中々手際も良く、力仕事もこなせるものから意外と重宝したらしい。
確かに知っている限り、花京院さんは物事をテキパキとこなす天才肌だし、秋元さんもスポーツ万能体育会系だ。
そして沙希はあんな外見だが、家ではしっかりと空手の修行をこなしている一端の武道家だから、その辺りの同年代の娘達と比べたら腕力もある。
……のだが、4人《、、》?
私も含めている?しかしそんな事は無いだろう、だって私はここで話し込んでいただけなのだから。
「あのこの娘と瓜二つの、双子の娘。
お姉さん?妹さん?どっちだか良く知らないけれど、あの娘も」
「…え?」
私には訳が判らない。
どう言う事だろうか??
確かにさっきまで失念していたが、亜希はどうしていたのだろうか。
まさか一緒になって巫女をしていた筈もあるまい。
人に本気で頼まれれば断れない弟だが、目端の利くあの子はそのような事態になる筈に姿を消すのが常だ。
(あっ、3人が笑っている……さては、芳川さんが勘違いしている事に気付いていて黙っているな、コイツら)
その後、あまりに熱心な芳川さんに霞が事情を尋ねると、アルバイト巫女の一人がナンパ男にしつこく付き纏われていたらしい。
流石に先輩のアルバイトが、相手を窘めようとしたが、今度は暴力に訴えようとしたらしい。
そこまで聞いてもうその先は予想出来た。
多分、亜希がその不埒なナンパ男を叩きのめしたのだろう。
亜希は『儀を見て施ざるは勇無き也』なんて格言を地で行く子だし、それ以前にナンパ男が嫌いだ。
……これは普段沙希と出歩いていて、双子の少女と勘違いされナンパされるのがあまりに多いからだ。
そんな訳で、ナンパされる側が嫌がっていなければ別だが、そうで無い場合には容赦をしない。
しかも後で問題が起きないように、傷跡を残さない且つ最大限に痛みを与える方法で制裁をする。
その様子は相手の方が可哀想に思えて来る位だ。
……止めようとは思わないけど。
そして先程の私の予想通りの結果だった。
つまり芳川さんは、用心棒巫女として雇いたいらしいが……多分、いや確実に無理だろう。
第一、この子達――私を含む――は受験生だ。
この後、帰宅してからは受験勉強が待っている。
草々アルバイトに時間を費やしている時間は無い筈だ。
私はこの事を霞に話し、霞から芳川さんを説得して貰った。
「…残念です」
芳川さんは、本当に残念そうながらも諦めてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
振袖に着付け直しをした私達4人と霞が境内に出ると、そこには寒空の中で静かに佇む亜希が居た。
流石に寒かったらしく、足元には缶コーヒーの空き缶が何本か積まれていた。
「うわっ、亜希。
待たせてごめんね!」
「いや、問題無い」
謝る私に無愛想に返事を返す亜希。
でも流石に悪いと思った私は、階段下の出店で何かご馳走してあげると約束した。
そして私達5人は漸く、社に参拝をした。
午前中から初詣に来ていたのにこの時間に初詣となってしまうとは、我が事ながら皆に申し訳が無い。
ここはお姉さんらしく、亜希のみならず皆に振舞わねばなるまい……お財布の中身大丈夫かな?ちょっと心配だ。
参拝が終わると、今度は絵馬に願い事を書く。
私達5人は受験生だから、当然合格祈願だろう。
……若しかしたら、この内の一人くらいは恋愛成就かも知れない。
是非見ておかなくては、姉として。
一人一人、絵馬に願い事を書く。
霞の前だから口にしないが、私は神様を信じていない。
だからこれはまぁ、受験生のお約束みたいなものだ。
よって、その中身も簡単に合格祈願と学校名の記入だけで済ます。
私は書き終えると、さっさ自分の絵馬を絵馬掛に奉納する。
(はい、これでお終いっと)
さて、お楽しみタイムの始まりだ♪
私の次に来たのは、秋元さん。
中身は順当に合格祈願で、その学校名は確か…有名なミッション系のお嬢様学校だった筈だ。
意外と言えば意外である。秋元さんなら確実にスポーツが一流の高校を目指すものと思っていた。
次が花京院さん。
彼女なら、なんて期待は大外れで、彼女も順当に合格祈願。それも秋元さんと同じ高校だった。
もしかしたら沙希と3人で同じ高校を目指すつもりなのかもしれない。
そして最後は亜希と沙希。
きっと沙希は彼女達と同じ高校に合格出来ますようになんて書いてあるに違いない。
(…もしも沙希が合格祈願で無くて恋愛成就祈願だったら、お姉ちゃん驚くぞ?)
そして亜希は想像すら出来ない。
まぁ亜希の性格からして、無難に近所の公立高校なんていうのも考えられる。
しかし、私の想像は外れていた。
2人とも合格祈願であったのは合っていたが、その学校名は…!?
「亜希!沙希!」
「なぁにお姉ちゃん」
「何だい、姉さん」
「この高校…どういう事よ!?」
私は2人を問い詰める。そこに書いてあった高校名、そこは私が受験予定の学園の名前。
単に祖父の知人が経営しているだけの、有名でも無ければ近くも無い、そして絵馬の通りなら親友とも別れる事になる別の学校。
「どう言う事もなにも……ねぇ」
「だな」
心底不思議そうに私の問いに首を傾げる2人。
「沙希、貴女この学校を選ぶって事は、秋元さんや花京院さんと別れるって事なんだよ?
それでも言いの??
それに亜希、貴方もそう。
態々遠くの高校に通おうなんて、鍛錬の時間が減るだけじゃない。
2人ともどう言う風の吹き回しよ?」
私があまりにも必死に見えたのだろう。
2人はきちんと答えてくれた。
「別に別れるなんて大袈裟な……美加とも詩織さんとは親友だし会おうと思ったらいつでも会えるし」
「そうだな。別に鍛錬はやる気になれば何処でも出来る」
「だったら何で」
更に説明を引き出そうとした私に、2人は声を揃えて言った。
「「こんどこそ、姉さん(お姉ちゃん)を助ける」」
その言葉に、私の言葉が詰まり動きが止まってしまった。
言葉通りだとすれば、2人は私の為に自らの未来の選択をしたということだから。
友誼も時間も捨てて私の為に!!
そんな私に秋元さんと花京院さんが話しかける。
「沙希さんの気持ちを分かってあげて下さいませ、龍宮先輩」
「そうだね。
沙希も私らと散々話し合った上での結論なんだ。
お姉ちゃんの傍で手助けしてあげたいってね」
「ふふふ。
まぁ、お2人ともシスコンって可能性もあるのかもしれませんけれど」
「あ、それは私も心配していたんだ、詩織」
「……誰がシスコンだ、誰が」
「私シスコンでも、いいも~ん」
「お、開き直ったぞ!沙希は」
「あらあら、亜希さんも認めてしまえば楽に成れますのに」
「俺は苦しんでいない」
4人の喧騒が私を包む。
こんな風に想ってくれるなんて…私はきっと幸せ者だ。
第9話をお届けします。