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第八章 再会の日

「くっ!一体何人いるんだっ!?これじゃキリがないっ!」


サマエルには完全敗北をしたものの、シグナスはそれでもかなりの手練れだ。しかし、そうあっても愚痴を溢さざるを得ない。黒き鎧の戦士達は、倒せども数が減らない。それどころか、数が徐々に増えているような気がする。


「サマエル殿ッ!」


助言を求めるわけではないが、この異常な事態に頼れるのは自分の部下にはいない。一瞬の判断を誤れない状況を、サマエルなら幾度と潜り抜けて来ただろうと確信があって尋ねている。


「確かに、ここで応戦していても、いずれこちらの数が減らされる一方だな」


かと言って、敵の指揮官らしき人物の確認が出来ていない。遅かれ早かれ、ザバスが落ちるのは目に見えている。

サマエルがいかに強くとも、一騎当千がまかり通らないのでは意味がない。


「シグナス。ザバス国王を逃がした方が得策かもしれん」


「国を捨てろと仰るのか!?」


「兵達ももう持たんだろう。民まで逃がすことを考えれば、ここが潮時だ」


ザバスの人間でもないのに、そこまで考えてくれたのかとシグナスはサマエルに敬意を表したくなる。

ただ、サマエルの言うことは最もであり、国王を逃がし、国民を避難させるなら、これ以上の深追いは厳禁だ。例え不本意であっても。


「サマエル殿、どのくらい持ち堪えられる?」


「これだけの数だ。全て相手には出来ん………が、出来る限りの手は尽くそう」


「すまぬ。危険な真似を、今日出会ったばかりの者に………」


「クックックッ。気にするな。これもまた修羅になる為の試練なのだろうからな」


そう言って笑うサマエルの心情が、シグナスには理解出来ないものの、


「かたじけない」


それだけの理由があるのだろうと察することは出来た。互いに、強さへの執念を持ち合わせてるのだから。


「ああ、そうだ。あのじゃじゃ馬はほっといて構わん」


忘れていたかのようにサマエルが言った。


「シズク殿を置いて行けと?」


「クックッ。要領のいいヤツだからな。そう簡単には死なんさ。実際、もう既に何処かに隠れてるだろう」


自信満々に言うのだから、きっとそうなのだろう。

 今はサマエルのシズクに対する信頼を信じるしかない。どうか、二人共死なないでくれと。


「サマエル殿、いつか生きてまた………」


サマエルは答えなかった。それは死を覚悟したからではなく、再会を約束する理由がないからだった。

そんなことも知らず、シグナスは近間の部下に声を掛け城へ退却して行った。


「面白いものだ、人間と言う生き物は」


出会って間もない相手でも、同じ時間を過ごすと必ず再会を願う。

愚かしいとは思うが、不思議と悪い気はしない。いや、むしろシグナス達が無事逃げるまで戦おうと思う。

そして、力一杯にカオスブレードを振り回す。

刃は当たらずとも、風圧で敵を吹き飛ばし、陣形を乱してやる。

人数が多ければ多いほど、陣形の乱れは致命的になる。各々の役割が明確だからだ。


「そうら!命が惜しくないヤツだけ掛かって来いッ!」


どうせ命など大切に思う思考もないのだろうが。

 そんなサマエルの期待に応えるべく、黒き鎧の戦士達は一斉にサマエルへと襲い掛かる。

小振りの利かないカオスブレードでなんとか応戦する。

何せ、1対数百程度。いかにサマエルが強くとも、手を駒根いてしまう。おまけに、


「………やはり数が増えている」


シグナスが国王を連れて逃げるまでギリギリか。国民は無理だろう。残念だが、ザバスは今日で終わりだ。

無関係の人間の為に、こんなことまで引き受けるとは、いつからお人好しになったのかと自分に問う。溜め息を混じりながらも、そんな自分も嫌いじゃないと思える。

無我夢中で剣を振るう中、足元に何かが転がって来た。


「いってぇ………」


転がって来るやいなやぼやいたその“何か”に気を取られていると、黒き鎧の戦士が隙を突いて来た。


「!!」


しくじったと、サマエルが間に合わないだろう剣にモーションを掛ける。


「どけっ!」


と、後ろから声がして、新たな“何か”が頭上を越え黒き鎧の戦士を倒した。


「お前が戦いの最中に気を取られるなんて………歳でもとったか?」


そう言った青年は、炎揺らめく深い紅の鎧を纏っていた。


「久しぶりだな、サマエル」


「貴様………羽竜はりゅうか?」


サマエルの知る羽竜は、まだ十代の少年。今、目の前にいる羽竜は二十代くらいだろうか。背も伸び、とても男らしい顔をしている。


「きっとまだ、この世界にいると思ってたぜ」


羽竜はニンマリ微笑むと、


「これは“貸し”にしとくからな」


そう付け加えた。


「ククク。肉体は成長したようだが、言葉使いまでは成長出来なかったようだな」


それに負けじと、皮肉で返した。


「るせー。ほっとけ」


口を“へ”の字にして、不満気にしてみせた。


「なんだよ、あんたの知り合いかよ」


すると、サマエルの足元に転がって来たノアが立ち上がった。


「………貴様もつくづく運に見放されてるらしいな。クックッ。大方、混乱に紛れて逃げようとしたところを、羽竜に捕まったってとこだろう?」


見てたのか?突っ込んでやろうかと思うほどに的確だった。


「なんだ、お前サマエルの知り合いだったのか」


「別に」


「ふぅん……まあいいや。んなことより、コイツらを片付けるのが先か」


羽竜の登場で警戒してるのか、黒き鎧の戦士達は距離を取っている。


「そういうことだ。コイツらはジーナスの手下だ。人間ではないだろう。遠慮はいらん」


サマエルの心に力強さが湧く。


「遠慮なんかするかよ!何の為に十年も旅して来たと思ってんだ!」


「フン。安心したぞ。活きの良さは健在で」


「話は後だ!久々に暴れてやる!」


羽竜は真っ先に飛び出した。

 その後をサマエルが追い、


「ちょ………オイラはどうりゃいいんだよ〜〜〜!!」


ノアはひとり残された。

 サマエルと羽竜。敵でもなければ味方でもない。ただ、二人共分かっている。この再会が、新しい戦いの始まりなのだと。


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