表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第七章 驚異になりうる存在

「へへ、バカめ!」


夜の茂みをなんなくすり抜け、脱走して来たノアは、ザバス城を遠目にほくそ笑んだ。

一時的に牢へ入れられるわけだったのだが、この混乱に乗じてあれやこれやと上手く逃げて来たのだ。

言うまでもなく、街は全面的に戦火だ。ほとんどの兵士が街で奇襲に応戦しているのだから、その反対側を悠々と歩いていればよかった。


「一時はどうなるかと思ったけど、どこぞの国が攻めて来てくれて助かったな」


街から火が上がっている。自分の幸運に感謝しつつも、燃え盛る大きな炎を見て胸を痛めていた。

何故、戦争をするのか?バジリア帝国が世界を管理していた時は、貧富の差に誰もが不満を持っていたらしいが、戦争なんてもので人が死ぬことはなかったと言う。

その頃は、ノアはまだ五歳程度。後から聞いた話だから、信憑性は正直分からない。

けれども、今の世の中が酷いのは事実。世界の権力者さえ葬ってしまえば、また平和になるんじゃないかと思っていた。

もっとも、シズクとサマエルに言われたことで、そんなことで世界が変わることはないと認識した。

だからと言って、諦めたわけではない。別の方法を探して、また世界に挑めばいい。

そこまでして世界を変えようとするのには、もちろんそれなりに理由はある。


「オイラは負けないからな!」


誰に言うでもないが、そう呟いた。

また訪れるだろう時期を待つべく、ザバスを去ろうと思っていた時、


「おい!お前!」


呼び止められる声があった。

それは、明らかに自分を指した声。ザバスの兵士か、奇襲を掛けて来たどこぞの国の兵士か、ノアは息を呑み振り向いた。


「なんだ、ガキか」


その言い草はこの際、無視する。そこにいたのは。マントを羽織った青年。だが、ただ者ではないことは確かだった。

何故なら、マントからはみ出るくらいの鎧のショルダー、足元はもはや隠す意図もないのか、暗がりでも分かるくらい赤光りしている。


「まあいいや。お前、そっちから来たってことは、この城の人間か?」


この非常時に淡々と口を開く青年は、よほどの“場慣れ”した人物であると、幼いノアにも想像出来た。


「い、いや、オイラは………」


野生の勘が働く。関わるなと。

雰囲気と言おうか、やけに威圧的な感覚があり、そう、サマエルのような。それでいて似て非なるもの。

なんにしても、この混乱に乗じて逃げなければ死刑にされてしまう。素早く逃走体勢を取ると、


「待てっての!逃げることね〜だろ!」


男に襟首を捕まれ、その機会を失う。


「頼みます!!見逃して!!」


ノアは、形振り構ってられないと土下座までしたのだが、


「あん?俺はただ城への侵入経路を聞いてるだけだぞ。…………ははぁん。さてはお前、犯罪者だな?」


ギクリとした。粗暴な言葉使いをするくせに、案外鋭く分析しやがる。


「ま、いいや。ほら、案内しろ」


青年はノアの二の腕を掴み挙げ、強制的に歩かせようとした。

 その力足るや、見た目以上のものだった。隙を見て逃げようとも、恐らく失敗するだろう。

 この青年が、何を望んで戦禍へ足を向けるのか知らないが、


「マジかよ………」


ただではすまないような気がしていた。

そして、その予感は当たることが予定されていたなど、この時のノアには分かるはずもなかった。

そう、やがて驚異になりうるのだと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ