第六章 十年の沈黙
「退くなっ!!ここより城に近付けてはならんっ!!」
シグナスの声が夜空に届く。
街に突如として現れた黒い鎧の兵士達。ザバス国を奪うべく、どこかの国が奇襲を掛けて来たのには違いはなかった。
その数たるや、津波の如く。ザバスの兵士も結構な数を誇っているが、比ではない。
「何をしてる!怯むなっ!」
馬上から指揮を取るも、そう上手く動いてはくれない。いつもなら、こんなことにはならないのだが、奇襲を掛けて来た黒い鎧の兵士達の強さが尋常じゃない。そして数でも圧してくる。持ちこたえてるのが奇跡に近い。
「くそっ!なんなんだコイツら!!」
シグナスが業を煮やすのも無理はない。
他国と何度も戦争をして来たが、全身黒の鎧の兵士は見たことがなかった。
奇襲にはうってつけのスタイルだと感心しながらも、その大半は皮肉だ。
「手こずってるようだな」
そんなシグナスを見兼ね、サマエルが声を掛けた。
「サマエル殿!」
情けなくは思うが、サマエルの顔を見た瞬間、安堵してしまった。
「すごい数じゃない。何よ、アイツら?」
その横で、シズクが顔をちょこんと出した。
「見覚えがあるだろ?」
サマエルがそうシズクに尋ねる。
「見覚え?さあ………」
頭を捻るが、シズクにはもっぱら記憶にない。
「記憶力の悪い女だ」
「余計なお世話!!分かんないものは分かんないんだから、しょうがないでしょ!いいから、知ってるなら教えなさいよ!」
「………ジーナスの手下だ」
「あっ!」
「フン、思い出したか」
「そんな………まさか!?」
「そのまさかだ。あの艶のない黒い鎧………冒涜の都にいた連中だ。ジーナスめ、十年も結界の中に引きこもって何をしてたかと思えば………ぬかりはないってことか。クックックッ。とんでもない予言をしたな?」
「茶化すのは後!大体、余裕噛ましてる場合?なんだってこのタイミングなわけよ?」
二人で盛り上がって来たところだが、
「すまないが、なんの話をしてるんだ?」
シグナスにはなんのことやらだが、どんな重要な話だったとしても、今はこの窮地を脱することが指揮官としての使命。敵がどこの国の兵士かはその後で調べればいい。
「いや、こっちの話だ」
サマエルはニヤリと笑うと、
「久しぶりに暴れてやるか」
愛剣・カオスブレードを抜いた。
「サマエル殿、私も切り込む。ああ、馬は………」
「馬などいらん」
「え?」
そう言うと、韋駄天の如く速さで駆け出した。
その速さにはシグナスも舌を巻いたが、
「シズク殿は下がっておられよ」
とりあえず、驚くのは後回しにして、責務を果たすことを優先させた。
「ジーナス………なんで急に………」
シズクは、十年の沈黙が破られたことを感じていた。