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第五章 襲撃

「チョロいぜ!」


真夜中。得意気に城へ侵入したノアは、意気揚々としていた。

如何に警備を厳重にしようと、ノアは必ず手薄になる箇所を探して忍び込む。なければ工作して作る。それが彼の仕事。泥棒だ。

だが、それは少し前の話。泥棒稼業は引退している。なら今は何をしてるのか。


「案外、無防備なんだな」


断じてセキュリティの甘さを指摘して、 有能な自分を売り込み仕官を要求しようなどとは思っていない。

ノアの目的は国王の命。そう暗殺だ。

まだ十代前半の少年は、その若さで泥棒稼業をしていたくらいだから、当然、育ちがいいとは言えない。

城の内部を慎重に歩いているが、どういうわけか外より手薄になっている。


「………怠慢ってやつだな。自分だけは大丈夫だと思ってんだろ」


国王の部屋の場所は分からないが、大体上に行けばそれらしい部屋に行き着くだろうと思っている。

その考えが正しかったかどうかはさておき、十中八九間違いないだろう部屋の前に着いた。

我ながらスムーズに来れたと感心する。部屋の扉の両脇には、ドラゴンを形どったオブジェ。見張りがいないところを見ると、今夜はツイてた。騒ぎになれば暗殺は諦めなければならなかったかもしれない。


「大丈夫…やれる」


ノアは、重厚な扉を少し開けて僅かな隙間から顔を入れる。

中は真っ暗だが、よく目を凝らしてベッドの位置を追う。

それと金目の物も。大金にならなくてもいい。売っても怪しまれない物であれば。

暗がりに目が慣れた頃、だだっ広い部屋の一番奥にベッドが見える。その少し手前に暗闇でも光る物が見えた。


「金の燭台か。よし、あれは頂いて行こう」


言っておくが、泥棒は引退している。あくまで手間賃の認識だ。

狙いを定めて部屋に侵入すると、即座にベッドに向かう。既に短剣は鞘から抜かれ、後は一思いに………


「悪いね。あんたらみたいな存在さえ居なければ、戦争なんて無くなるんだ」


振り上げた短剣に力と祈りを込め一気に降り下ろす。


「えっ!?」


ところが、強い力がそれを阻止した。


「また会ったな………小僧」


「おま………なんでここに!?」


ノアの腕を掴んでたのはサマエルだった。


「クク………さあな」


月明かりに照らされ、暗闇に浮かぶサマエルの顔が不気味に見える。まるで獣だ。


「お前がいるってことは………


嫌な予感がして、ノアはベッドを見下ろす。すると、いきなり蹴りらしき産物が顔面に入った。


「ぐわあっ!!」


「ざまあみなさい!子供が暗殺だなんて甘いのよ!」


ベッドの上に仁王立ちしてるのは、敢えて紹介はいらないであろう………シズクだ。


「くっ………性悪女」


「なんですって!?誰が性悪女よ!!だ・れ・が!」


そしてもう一撃蹴りを腹に見舞った。

やっぱり性悪女だ。ノアは顔を歪めながらシズクを睨み付けた。ただ、たいした威圧感も無いのだが。


「まあいいわ。これで面子は保ったし」


「チキショー。まるでオイラがここに来るのを分かってたみたいだな」


段取りが良すぎる気がした。裏切られるような仲間がいるわけでもないし、誰かに話した記憶もない。ノアには、サマエルとシズクが偶然ここに居ただけとしか思えない。


「分かってたのよ!」


ノアの疑念を払ってやるようにシズクが言った。

すると、シズクはなにやら腰の辺りから取り出すと、観念しろと言わんばかりにそれを見せ付けた。


「あっ!!それは!」


それは大まかな世界地図。町や村、城がある場所のおおよその配置図。


「なんで性悪女が持ってんだ!?それはオイラのだ!!」


そう一目で分かるのは、ザバスを丸で囲んであるのが目印だからだ。

地図は貴重な代物。大まかな物であっても、結構な値段がする。そんな高価な物に行き先を丸で囲むヤツなど、そうはいない。


「あんたがこの前、私から石を盗んだ時に落として行ったのよ。しかも、ご丁寧に行き先を書き込んであるもんだから、助かったわ」


「ついでにこれもな」


シズクの言葉に繋ぐように、サマエルが懐から小さな書物を取り出し、シズクへ投げる。

もちろん、ノアには見覚えがありありだ。

赤い表紙の古びた書物。ノアの日々の記録。つまりは日記だ。


「ここにちゃんと書いてあるわよ。“世界を変える為にザバス国王を暗殺する”って。バカウケしちゃった」


「人の日記を盗み見して、バカにすんのか!?」


「うるさいガキんちょね。泥棒に言われたくないセリフよ」


「こんの………性悪女め!」


「うるさいって言ってんの!自分の立場わきまえなさい!」


「お前は殺す!おい!青い髪!離せ!この女、絶対許さねー!」


バタバタ暴れだしたノアが厄介になったのか、サマエルはあっさりと解放したが、


「オレはうるさいのが嫌いだ。死にたくなかったら口を閉じろ」


ギロリとノアを睨み付けた。

その威圧感と言ったらなかった。逃げようと思えば逃げる自信はあるのに、遺伝子レベルの本能が、この男には逆らわないほうがいいと言っている。

サマエルとノアではくぐり抜けて来た修羅場の数も質も違う。無理もない話だ。

おまけに人相が悪すぎじゃないか?と言いたくなる。シズクはシズクで、尚も勝ち誇ったようにニヤニヤしてやがった。


「くそっ!あと一歩だったのに!」


「なぁにがあと一歩なのよ。暗殺で世界が変わるなら、誰だってそうするわよ」


「何もしないよりはマシだ!」


「あんたねぇ、いい?王様が殺されれば、代わりの人が王様になるの。その人が殺されたら、また次。考えたら分かりそうなもんだけど?」


なんの不満があって暗殺で世界を変えようと思ったのかは知らないが、所詮は子供の浅知恵だというところだろう。


「そんなことより、私から盗んだ石はどこ?出しなさい」


シズクに言われ、ノアはしかめっ面をしたが、サマエルの冷めた視線に負け、巾着から赤い石を出してシズクに放った。


「うん。間違いないわ。私の石だわ」


艶やかな赤色の石。何度見ても自分の物に違いはなかった。


「けっ。その石がなんだってんだ。見た目は派手なのに、金にはならなかったぞ」


若いとは言え、ノアは泥棒で生活していたのだ、目利きのスキルは自信もあるし、同業者からも信頼されていた。だから、まさか金にならないとまでは思わなかったのだ。


「そいつはツイてなかったな」


サマエルは座り込んでるノアの首根っこを掴み立たせると、


「こっちの用事は済んだ。後はザバスの連中に任せるか」


「ちょ、ちょっと待て!任せるってなんだよ!?」


「決まってるだろう。一国の王の命を狙ったんだ。罪は裁かれなければならない」


「マジかよ………逃がしてくれるんじゃないのかよ!?」


「貴様を逃がせば、オレ達が罪に問われる。貴様を差し出すのは当然じゃないか?ククク」


冗談じゃない。この若さで死にたくなんてない。そう思ってみても、サマエルが立ちはだかる以上、ノアにはどうすることも出来ない。


「さあ歩け」


「オイラどうなるんだ………?」


「………死刑だろうな」


簡単に言いやがる。だが、それもやむ無し。失敗することを想定していなかっただけだ。

 肩の力が一気に抜けていく。世界を変えようと思った気持ちに偽りはなかった。そりゃあ、浅知恵だと言われればそうかもしれない。それでも、他に方法は思い付かなかった。育ちの悪い自分には、知識も知恵も養ってないのだから。我に返れば、夜更けに何をやってるんだと情けなくなる。認めよう、稚拙な浅知恵だったと。

 サマエルに促されるまま歩いて部屋を出ようとした時だった。


「サマエル殿!シズク殿!」


兵士がひとり、慌てながらやって来た。

 その様子から、サマエル達の成り行きを見に来たわけではないようだった。作戦を中断させてでもサマエルとシズクを必要としている。それが意味することはただひとつ。


「あ、ちょうど暗殺者を捕まえ………」


「それどころではありません」


シズクの言葉を遮るように息を荒立て、


「いや、もしかするとその暗殺者と関係が………子供!?」


ノアを見て驚いてみせた。


「いいから続きを話せ」


サマエルは兵士に言うと、


「あ、はい!実は奇襲が!」


「奇襲?」


「とにかく、陛下がお呼びです!直ぐに来て下さい!」


よほど切迫しているのか、兵士は先に戻ってしまった。


「奇襲って………何かしら?」


シズクは唖然としながら聞いた。


「奇襲は奇襲だろ。バカかお前」


「うるさいっ!」


「イテっ!」


茶化したノアにゲンコツを見舞った。


「ククク。どうやら予言が当たったようだ」


何故か嬉しそうにサマエルは微笑んでいた。


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