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第三章 魔手

 兵士の訓練場に通されたシズクとサマエルは、ザバス国王が自慢したがるほどの指揮官を待っていた。


「この国は、人を待たせるのが流行りなわけ?」


予想通りの不満をシズクが漏らしても、サマエルは何も言わない。


「にしてもさぁ、あんた敬語なんて使えたんだ。ビックリよ。十年付き合ってて初めてだもの」


「……………。」


「それだけじゃないわ。慣れた感じだったわ。そう、ただ単に敬語を話したってのとは違ってた」


サマエル曰く、打算出来ないくらいの永い時間を生きているらしいから、過去にそう言う生活をしていてもおかしくはないが、アウトローの塊な彼からは想像するのに苦労する。

十年。その長い年月を持ってしても、サマエルという男は謎。ニヒルを崩したところさえ見たことがない。

サマエルからすれば、全く余計なお世話。迷惑だ。

そんなことさえ顔にしないのだから、シズクには到底分かり得ない未知の世界なのだろう。

ミステリアスな男は、女性を虜にすると言うが、どうにもサマエルはその類いとは別物のようだ。


「過去に王宮に仕えてたことあるんじゃない?」


どちらかと言えば新種の生き物だろうか。矢継ぎ早にシズクが質問責めにするのは、そんな目線だからかもしれない。


「ねぇ、聞いてんの?」


待ち時間をサマエルで埋めようと思っているのだが、


「うるさい女だ。あのまま終わるよりよかろう。浅知恵しか働かんお前に代わって知恵を働かせただけだ。少しは感謝したらどうだ」


「な………」


なんて言い草だ。まともに口を開けば皮肉ばかり。

当然、待たされてサマエルも苛立っている。やっと見せた感情が怒りかよと、シズクは頬を膨らませ目を三角にしてみせた。


「あったまきた!なんなのかしら、その態度!!」


人目も憚らずぶちギレたシズクを、周りで二人を監視していた兵士達が驚いている。

それでもサマエルは、また普段通り沈黙した。

そして、ちょうどよくザバス国王を筆頭に訓練場の入り口から、“それらしき”人物がやってきた。数人の部下を引き連れて。


「待たせたな」


ザバス国王が言うと、シズクは慌てて愛想笑いを作り上げ、


「とんでもございません!」


予言者の演技に戻った。


「サマエル、紹介しよう。我が国最強の戦士、シグナスだ」


ザバス国王の紹介を受けると、シグナスはサマエルに歩み寄り手を差し出した。が、サマエルが応じる意志がないと知ると、すぐに引っ込めた。


「なるほど。陛下のおっしゃる通り見るからに強そうだ」


そして、隣のシズクを見て、


「予言者にしておくには勿体ない美貌だ」


シグナスは肩まである髪を掻き上げた。

無精髭を生やしてはいるが、よく見れば中々のハンサムな顔立ちをしていて、どこかクダイを思い出させる雰囲気に、シズクは好きになれそうにはないなと内心思った。


「あ、ありがとうございます」


とりあえずは愛想笑いを続けてみるしかない。


「さて………」


そう切り出し、シグナスはサマエルを見た。


「なんでも陛下のお命を狙う輩を退治したいそうだな?」


少し、どことなく敵意を感じるのは、シグナスがサマエルとシズクに不信感を持っているからだろう。


「生憎だが、陛下の護衛は我らの仕事。君ら一般人が口を出すことではない」


ああ、やっぱりクダイに似ていけ好かない。


「そもそも、素性の知れない君らこそ陛下を狙う者かもしれないじゃないか」


「……………。」


「ま、陛下も幾ばくか君らに興味があるようだし、一回きりの勝負だ。己の無能さを知るといい」


「フン………よく喋る奴だ」


「な、なんだと!?」


「腕に自信があるのなら、さっさとかかって来い。暇じゃないんだ」


わざと怒らせようなどの意図は無い。それはシズクも理解しているが、思わぬ“返し”を喰らい歯を食い縛ったシグナスを見てせいせいした。

同時に、サマエルの強さを知らないシグナスの自信が、崩れるだろうすぐ先の未来に同情してやろうと思った。


「無礼な奴め!腕試しとは言え、うっかり腕の一本でも落とさないように気をつけるんだな!」


シグナスは、勝負開始の合図を待たずして剣を抜いた。







「やっとザバスに着いたぁ」


強い日射しに邪魔されながらの一人旅は、少年にはキツイものだった。

安く買ったレザーの胸当てと短剣だけが頼りの旅は、心臓に悪いこともよくあることだ。

それでも、少年にとっては代わりの無い御守りと言え、片時も手離すことはない。

出来たばかりの国にしては、意外にも人々が居着いていて、活気もある。

少年の名前はノア。十代半ばの端正な顔立ちをしたノアは、巾着を開け小さな銀貨が二枚落ちて来たのを確認すると、


「こりゃあ、明日まで飯はお預けかな」


目先の空腹を我慢しなければならない自分の立場に溜め息を吐いた。

ノアには目的があった。それさえ果たせば、当面の生活に困ることはなくなる。銀貨二枚ではパン一口分にしかならない。バジリア帝国が世界を統治してる時は、銀貨二枚でパン一斤買えたが、今は世界に国が六つある。ひとつはバジリア帝国だが、他の五つは出来たばかりの国。貨幣価値も国の発展状況で左右されてしまう。

このザバスは、目覚ましい発展を遂げて来た国だけに、生活水準が高い。銀貨二枚など、子供の小遣いにしかならないのだ。

事前に学んだ知識が役に立って良かったと、そう思うのと一緒に何のために世界情勢とやらを学んでまで旅をしているのか、思い起こし瞳を閉じ噛み締める。


「見てろ!オイラが世界を変える!」


開いた瞳の中に、強い信念が灯をともしていた。




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