第一章 予言者と用心棒
ここ十年の間に、実に五つの国が新たに誕生し、世界は元より世界を治めていたバジリア帝国を加えると六つの国になっていた。
しかし、国としての機能を失っていたバジリア帝国に世界を統治する力はなく、各地で国が出来たというわけだ。
人の知恵と力は、十年で造り上げた国とは思えないほど完璧に近く仕上げていた。
そのひとつがザバス国。
「陛下、謁見を求めてる者がいるのですが………」
とは言え、完璧に近いのは城や町の外観。町は元々あったいくつかが合併したもので、住民性の違いから問題は色々ある。
社会としての機能は完璧とは言えないのが実情だ。
もっとも、どんなに文明が進もうと、国が栄えれば栄えるほど問題は山積みだ。それを考えれば、完璧と言える社会は問題の数と質に比例するのかもしれないが。
「余に会いたいと?誰だ?」
口髭と顎髭を生やしたザバス国王は、五十歳という年齢ながらも、若々しい印象を受ける。
「それが………若い女の予言者とその用心棒の男でして」
「予言者?」
「遅いわね!いつまで待たせるのかしら!」
黒いマントとターバンに身を包んだ若い女は、謁見を申し出てまだ数分だと言うのに苛立って見せた。
産声を上げて間もない国とは言え、ザバス国は既に六年経っている。こういう雑用くらいは、スムーズに流れて然りじゃないか。そう思って止まない。
「風体の怪しい者が表れて、いきなり国王に会わせろと言ったところですんなり会わせるわけないだろ」
門の前を右に左に右往左往する女を尻目に、“用心棒”は常識を語った。
「そんなこと、あんたに言われなくても分かってる!」
こうなると何を言っても無駄。
後は放っておくのが正しい選択だろう。
「それにしても遅いわね!」
これから国王に謁見しようとしている態度には見えなかった。
そこへ、門番が駆け寄って来て、
「おい、お前ら!陛下がお会いになるそうだ」
胡散臭い者との謁見が不可解に思えるのか、門番は納得いかないと言いたげな顔をしている。
「ホント!?サマエル!」
用心棒に嬉しさを伝えようとしたのだが、一人颯爽と城へ歩いていた。
「何をしてる?早く行くぞ」
そう言って、止めた歩みをまた進めた。
「ちょ………なんなの!?勝手なんだから!!」
門番にまで置いて行かれた予言者は、
「待ってよ〜!」
慌ててその後を追うのだった。