第十六章 究極の運命
黒い鎧の騎士達を追って来た先は、ただでさえ静観な町。その外れ。暗闇の静寂の中に佇む一軒家。
その一軒屋を取り囲むように黒い鎧の・・・ジーナスの手先らがいる。
明かりが燈っているところを確認出来ることから、中に誰かいると思われる。シズクは、離れた茂みの中から様子を伺っていた。
「誰かを迎えに来たのかしら?」
襲撃に来たようではなさそうだが、それにしてはやけに大所帯だ。
成り行きを見守ってはいたが、黒い鎧の騎士達がアクションを起こす様子はなく、気の短いシズクにはそれは拷問に違いなかった。
数分経った頃だろうか、ようやくアクションを起こしたのは、一軒家の扉・・・ではなく、中に居た人物だった。
消されることのなかった家屋の明かりが手伝い、その人物の姿は暗闇の中では特に映えていた。
「…女?」
シズクが見たのは、いたって普通の若い女の子。ノアと同年代、まだ十代前半だろう。
どことなく虚ろな目をした女の子は、迎えに来るのが分かっていたらしく、特に表情を変えなかった。
そして、彼女を護衛するように囲み、歩き出した。
「ちょっと、どこに行く気?」
後を追おうと茂みから出ようとした時、入り組んだ枝に行く手を阻まれ転倒してしまった。静寂を裂くような大きな音が鳴ったのは言うまでもない。
「イタタ・・・・・・って、ヤバ!」
起き上がろうとした時には、数人の騎士が眼前で見下ろしていた。
「あは・・・ははは・・・・・・こ、こんばんはぁ・・・」
どんなに勝気なシズクの性格でも、命の危機を感じればさすがに低姿勢に成らざるを得ず、
「あ・・・なんかお呼びじゃないわよね・・・・・・」
ゆっくり起き上がると、敵を観察しつつ素早く身を翻して逃亡を謀る。・・・が、
「きゃっ!」
一歩を成功させることなく何かにぶつかり、派手に尻餅をつく羽目になった。そう、既に後ろも塞がれていたのだ。
退路の無くなった今、命の危機は現実的となり、シズクから血の気を奪う。
黒い鎧の騎士達は、各々が剣やら槍やら構え、獲物に照準を合わせた。
こんなことなら、一人で来るんじゃなかったと、後悔に後悔を重ねるしかなかった。
「・・・・・・私としたことがしくじったわ」
抵抗は無意味だろう。状況を打破する為の力も知恵もやる気も無い。
そこへ、黒い鎧の騎士達を潜り抜けるように、あの迎えられていた少女がやって来た。
「あなた・・・わたしに用事があるの・・・?」
囁くような声で、そう口を開いた。
薄い水色のショートカットが妙に印象付けた。修道服によく似た白いドレスは、神話の女神にさえ思わせる。
「用事って・・・まぁ、そうとも言えるかなぁ・・・」
少女を狙って来たわけではないのだが、ここまで来れば黒い鎧の騎士達よりもその正体が気になる。
「あなた、名前は・・・?」
少女が聴く。
「私はシズク。あなたは?」
「レグザ」
そう名乗り、尻餅をついたままのシズクを見つめ、
「わたしは・・・魔法。・・・世界唯一の魔法、ゴッドインメモリーズ」
そう肩書を付け加えたのだった。