第十五章 岐路
酷く浅い睡眠が毎夜続いている。
ストレスかと言われれば、そういうわけでもない。
ノアは、丑三つ時に宿から抜け出し、ひとり町中をぶらついた後、川原にて想いふけっていた。
「これからどうなるんだ………?」
レメディを集めて、バジリア帝国の結界を解く………ただそれだけなのに、憂鬱な気持ちになる。
なんだか知らないうちに巻き込まれた感じはしているが、逃げ出すことに不思議と抵抗感がある。
「ソニヤ………みんなが探してる」
どんなヤツなんだろうか。会ってみたい。
「なにやってんの?」
「シズク」
いつの間にか、後ろにシズクが立っていた。
まさか自分を追って来たわけではないだろうが、暗い気持ちに呑まれそうなところを助けられた気がした。
「別に。ただの気分転換だよ」
「ふうん」
「なんだよ、意外って言いたげだな」
「まあね。だって、あんたに繊細なハートが備わってるとは思わなかったから」
ニヤニヤしてるのが暗がりでもわかる。
やっぱ性悪だと再認識しながらも、今は毒づく気にはなれなかった。
「本当に世界は変わるのか?」
毒づかれるのも避けたいノアは、真面目に尋ねてみた。
「あんた、そればっかね。何がそうさせるのよ?」
「……………」
「言いたくないなら無理に聞かないけど」
「村が壊滅させられた」
「え………?」
「バジリア帝国が力を無くしてから、世界を我が物にしようとしたヤツらが戦争を起こしただろ?その犠牲になったんだ」
「そうだったの………」
「オイラはたまたま村にいなかったから助かったけど、今日見たあの町みたいに、とても見れた状況じゃなかった」
「だから世界を変えたいの?」
「ああ。悪いか?」
そう言われ、シズクは首を横に振り、
「わたしの村も、バジリア帝国に滅ぼされたわ」
「なんだって?」
「わたしを狙ってね。村のみんな、わたしの為に死んだようなものよ」
その横顔は、至って冷静を装おっていたが、心中は思い出したくない過去を思い出してるのだろう。
「だからね、この旅は途中でリタイア出来ないのよ。きちんと終わらせなきゃならない」
「ソニヤってヤツも探し出してか」
「………そうよ」
簡単にはいかないのだろう。だから十年も旅をしているのだ。
しかし、ここに来て流れが変わったとサマエルは言っていた。
羽竜とヴァルゼ・アーク、そして自分。運命が動き出している。
そう思った矢先だった。
「シズク!!」
「シッ!静かに!」
人の気配がする。それも多勢。
なるべく気配を殺し、橋の梺まで移動する。すると、しばらくして気配は大きさを増し姿を見せた。
「あれは………ザバスに攻めて来た黒い騎士!」
ノアが身を乗り出しそうになるのを抑え、
「うん。間違いないわ。 ジーナスの手下よ」
始まる。そう予感した。ヤツらはザバスを壊滅させたように、この町も壊滅する気だろう。
「シズク………」
「ソニヤ、あんたは羽竜とサマエルを連れて来て!」
「連れて来てって………シズクはどうすんだよ!」
「尾行する」
「は?」
「ザバスはその歴史に似合わない軍事力があった。だから、ジーナスは潰したんじゃないかと思ってた。けど、この町には軍事力なんてものはないわ。せいぜい治安維持隊が居るくらい。重要視する要素なんて何もないわ。なら、何をしに来たのか確認するいい機会じゃない」
企む笑顔は天下一品と言える。
最も、好奇心の強さもだが。
「やめとけよ!わざわざそんなことしなくてもだな………」
「いいから!頼んだわよ!」
全く一方的に言い放って行ってしまった。
「勝手な女だ!」
そう怒ってはみるが、行ってしまったものは仕方がないわけで、
「ああっ!面倒くさいッ!」
シズクが無茶をし出す前にと、羽竜とサマエルを呼びに走り出した。
先の見えない旅の岐路であると知らず。道を間違えば、簡単に地獄へ堕ちることもあるのだと。
何も知らない方が幸せなのだと。