第十四章 覚悟
どうやら、世界の情勢というか事態は、ノア達が思うよりずっと深刻なようだった。
一行は、レメディを求め次の町へとやって来たのだが、
「ウソだろ………」
ノアの目に映るのは、凄惨に堕ちた人無き町。
住人は老若男女問わず殺され、辺りは血の海。
「うっ………ダメ、吐く」
口を抑えシズクは隅っこへ姿を消す。
見るに耐えないとはこの事で、羽竜とサマエルも流石に滅入っていた。
「見ろよ、サマエル。教会が焼かれてるぜ」
「………オレ達とヴァルゼ・アーク以外にもレメディを欲する輩がいるようだな」
「ジーナスじゃないのか?」
「可能性は低い。レメディが欲しいのなら、十年前にそうしていたはずだ」
この町にレメディがあったかは分からない。しかし、手掛かりはあったのだろう。これは明らかな口封じだ。
「ここまでする必要があるのかよ?」
憤りを感じる。ノアはカッとなりそうな自分を抑制した。
もう逃げる訳にもいかず、それならば呑み込まなければならない。何が起きているのか。
「ノア」
不意にサマエルに呼ばれた。
「これがこの世界の真実だ」
サマエルは振り返り、凄惨な町の景色を見るようノアに促す。
見たくないと首を横にしたが、頭を鷲掴みされ正面に向けられる。
「よく見ろ。そして目に焼き付けろ。権力者ひとり暗殺したところで、何も変わりはしない。世界は根深い闇に喰われているのだからな」
もう言われなくとも気付いていた。世界を変えたいのなら、倒すべきはこの世界の創造主。身震いする。やるのならば、羽竜やサマエルのような強さも必要になるだろうし。
「何の為にこんな下劣な真似をするんだ?何の為に………!!」
ノアのストレートな疑問だった。
「ジーナスに会おうとする輩が複数いるのなら、ジーナスに直接会った方が早い。その為にもレメディを手に入れるしかない」
「サマエル。オイラに剣術を教えてくれ」
「………それは弟子入り志願ということか?」
「許せるかよ。こんなこと。だから、強くなってオイラが誰にもこんな真似をさせないっ!」
「そうか。それは羽竜の役目だと思ってたが………」
サマエルは天を仰ぎ何かを思慮してみせ、そして彼自身何かを覚悟したように、威風たる気迫で言った。
「よかろう。だが覚悟しろ。訓練などと呼べる生ぬるいものではない。オレが貴様に教えられるのは、命のやり取りだけだ」