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第十二章 町 ~前編~

「未来から来た自分に会っただと?フン、馬鹿馬鹿しい」


そう言って、サマエルはグラスの酒を飲み干した。


「なんで信じねーんだよ!」


羽竜もまた、そう言って酒を煽った。

小さな町の酒場は、これでもかと言うくらい賑わっていて、二人の遠慮ない会話さえ掻き消されている。


「そんな戯言、信じられるか」


「ウソじゃねーって!クダイに負けそうになった時に、俺を助けてくれたんだ。そんでよ、なんだか知んねーけど眠くなって寝ちまったんだ。それで目が覚めたら大人になってたんだ!」


「羽竜」


「あん?」


「過去へ行くことは不可能だ」


「あのなぁ………」


「未来から何者かがやって来るということは、既に未来が存在しているということだ」


「んなこと知るかっ!会ったもんは会ったんだからしょうがないだろ!」


何を言われても確かに未来の自分と会ったのだ。理論上、それが可能かどうかは知ったことではない。


「羽竜、未来が既に存在しているのなら、現在いまのオレ達の行動も既に決まってるということだ。だとすれば、悩み、決断することに意味がなくなる。それすらも決まってると、お前は言えるのか?」


「ヴァルゼ・アークはそう考えてたぜ」


「くだらん。だからお前達はいつまでも答えのない旅をする羽目になるんだ」


人が行動すれば、因果による未来は確かに創られる。しかし、それは頭の中で描く未来。今日何かをすれば、明日にはそうなるだろうと予測は可能だが、それは明日にならなければ分からない。

もし、羽竜の言う通りならば、クダイとの戦いから救うなんて道を選ぶより、加勢する方を選ぶことの方が合理的と言える。


「現にクダイの野郎も、過去に行って自分の世界を壊したとかなんとか言ってたぜ」


羽竜も負けじと事実と思われることで応戦する。


「お前が見たわけではあるまい」


「そりゃあ………まぁ」


「百歩譲って未来から来たお前は、最悪だと言った未来を変える決定的なことが出来たはずだ。それはクダイからお前を助けることではないだろう?事実、ソニヤは闇に堕ち、邪神としての力を覚醒させてしまった」


「それが最悪かどうかは分かんねーだろ」


「何かを止めるのならば、お前を助け出した時点で未来の出来事を誰かに伝えることが最善策だとは思わんか?」


「過去に来る時間が限られてて、そこまでは出来なかったとか。俺が死ねば自分も死ぬから、助けることが最優先だったんだよ、きっと」


「それはない」


「なんでだよ?」


「未来から来たと言うならば、お前があの時に死ぬことはない。成長をした自分が来たのなら、お前の死期は成長を遂げた後の話だ。でなければ説明がつかん」


「なら俺が会ったのは誰なんだ?説明つかねーだろ」


「お前に扮した何者か。それ以外に考えられん」


言われても、実際に会った者とそうでないものとでは、解釈に温度差があるのは否めない。

羽竜としては、サマエルの言い分に素直にはなれない。

誰が何のために………?いつかその答えが出るのだろうか?


「羽竜」


「んあっ?」


すっきりしない羽竜は、やや不機嫌に返事した。


「そう悩むことはない」


「へいへい。どーせ、いずれ分かるとか言うんだろ」


「それもあるが………」


「なんだよ?」


「悩んでるお前は見るに耐えん」


「………お前、ろくな死に方しねーな」


「ククク。褒め言葉と取っておこう」


サマエルは空のグラスに酒を注ぎ、キャンドルにその赤い色を透かした。

そこには、まだ見ぬ苦難の道が映っていたのかもしれない。


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