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第十一章 レメディ

「なあ、これからどうするんだよ〜?」


先を歩くシズクとサマエル、そして羽竜をノアは呼び止めた。

三人には共通の目的あるが、なにぶんノアには目的がない。

何処に行くのも、三人次第なのだ。徒歩は旅の基本だが、行き先を知らないというのは、これが案外しんどい。


「なあってばぁ。聞いてんのかよ」


「うるさいわね」


と、シズクが言った。どうにも、中々の短気に育ったらしく、冷静に言い聞かせるという思考は皆無らしい。


「うるさいってことはないだろ。勝手に巻き込んどいて、何処に行くかくらい言えよ」


「じゃあ帰れば」


「なんだって!?」


「羽竜が連れて行くって言うから一緒に居るだけで、私は別にお呼びじゃないもの」


「やっぱ性根腐ってやがる」


「なんか言った?」


「知らねーよ。喋るのも嫌になる」


「なら黙ってなさい!」


「お前、モテないだろ」


「な………」


「図星だな。ペチャパイ女」


「言わせておけば………!」


キレてノアに掴みかかろうとしたが、


「やめておけ」


サマエルが止めた。


「離してっ!!」


シズクとしては、性悪と罵られるだけならまだしも、ペチャパイと言われるのだけは我慢ならない。何故なら、気にしてるからだ。


「なんだよ、やるか!?女だからって容赦しないからな!!」


「上等よ!!脳みそ引きずり出してやる!!」


もはや、ケンカの域を越えつつあり、見かねた羽竜もノアの肩を掴み、


「ノアの言い分も最もだ。バジリア帝国に行くのもいいけど、あそこは強い結界で城には入れないぞ。この十年の間に、一回も行かなかったのか?」


穏やかに口を開いた。

ソニヤは多分、バジリア帝国にジーナスと居る。それが羽竜の見解だ。シズクとサマエルもまた、ソニヤが居る居ないは別にしても、ジーナスを締め上げればソニヤの手懸かりくらいはと考えている。

しかし………


「誰がバジリア帝国へ行くと言った?」


サマエルは否定した。


「お前の言う通り、あそこは結界で中には入れない。恐らく、ジーナスが全力でオレ達の侵入を拒んでいるのだろう」


「一回どころか、十一回は行ったわよ」


さっきまでの怒りはどこへやら、シズクが偉そうに言った。

そのあからさまな態度のシズクを見て、


「結界を破る条件でも見つけた………って顔だな」


羽竜は溜め息をついた。

シズクの性格からして、普通の会話をしてその条件を明かしてくれるはずがない。


「ふふん♪分かるぅ?」


シズクは、ごそごそメディスンバッグを漁り、


「じゃ〜ん!これよ」


昨夜ノアから取り返した赤い石を取り出して羽竜に見せた。


「宝石か?」


羽竜がそう言うと、案の定だったのか、


「やぁねえ。大人になって欲に目が眩むようになったわけ?」


「面倒くせぇから端的に言え」


シズクの調子に合わせまいと、事務的に話を進めた。


「いいわ。羽竜あんたには難しく話すより、ストレートに言った方がきっと合理的ね」


「見掛け倒しのインチキ宝石だもんな。銅貨にすら替えてもらえないんだから………」


「あんたは黙ってろって言ってんの!!」


「イテッ!!」


ノアの頭頂部に拳を見舞うと、何事もなかったかのようにシズクは説明を始めた。

まあ、その切り換えの良さがシズクの持ち味なのだが。羽竜もサマエルも、分かってはいるのだが、苦笑いするしかなかった。


「これはね、レメディっていう破邪の石よ」


確かに、端的で分かりやすいが、それではただ商品の紹介にすらなっていない。


「バカか、お前は」


サマエルがすかさず“合いの手”を入れた。


「バカって何よ!」


シズクとしては、きちんと説明をしたつもりらしい。


「それではレメディが何であるか分からんではないか」


十年こんな掛け合いをしてると、どうせこうなるだろうと予想はしていて、サマエルは至って平静に、


「羽竜、オレが十年もの間、何もしなかったと思ったか?」


「“オレ”じゃないでしょーよ!“オレ達”でしょ!!」


そして、シズクがやり返したが、


「テメ〜も黙ってろっ!ペチャパイ女!!」


「胸あるっつうの!」


ノアに茶々を入れられた。


「で、何なんだ?そのレメディって」


仕切り直して羽竜が聞いた。


「クックックッ。ま、話さなければならないことがたくさんあるが、どうやらジーナス以前にも遠い過去に、邪神と呼ばれた者がいたらしい」


「何だか頭痛くなりそうだな」


「そもそもゴッドインメモリーズは神々を召喚して世界をリセットする………そういう話だったのは覚えているか?」


「ああ。神々が争って、生き残った神が………あれ?」


「クックッ。そういうことだ。結局、誰が生き残っても世界はリセットされる。そんな無意味な魔法があるか?オレ達は勘違いしていたんだ。ゴッドインメモリーズは、媒介である者が使用者を指名して発動する。では、何の為の使用者が媒介を犠牲にしてまで魔法を発動させるのか………?」


「それは世界のリセット………なんだろ?」


流暢りゅうちょうに話すサマエルは初めてだ。それだけに、羽竜もその先が聞きたい。


「違う。ゴッドインメモリーズは世界に神を創造する魔法だ。古い書物には、そう書かれてある」


「待てよ。書物に書かれてあることが事実だとして、神を創造してどうすんだよ?それじゃ、世界のリセットも神々の召喚も、一体何なんだ?」


「その“神”というのが曲者だ」


羽竜は既にちんぷんかんぷんだ。

全て否定するのなら、十年前の戦いはなんだったのか。受け入れるにしても、サマエルが仕入れた情報の書物。その信憑性が知りたい。


「サマエル、お前が見た書物って………?」


「バイブルだ」


「まさか、んなもん信じてんのか?」


「まあ最後まで聞け。バイブルによれば、この世界はたった二人の神によって創造されている。だが、その二人の神は、いつか訪れる死を恐れ、転生の魔法を創った。………ゴッドインメモリーズだ」


「じゃあ、神を創造ってのは………」


「ククク。正確にはバイブルに出てくる二人の神のうち、いずれかが転生するということだろう」


「なるほどな。その話が人から人の手を経て、話が曲解されてったのか」


「無論、お前の言う通り所詮はバイブルという名の書物だ。信憑性は完璧ではないかもしれん」


「でも、お前はその話を信じたんだろ?」


「他にも様々な書物を読んだが、どれにも書かれてなかったレメディの話が、バイブルにだけは書かれてあった。そして、レメディを見つけた。信じるには充分だと思わんか?」


面白い話だろう?そう言わんばかりに口角を上げた。


「レメディも、その二人の神が創ったのか?」


「バイブルには、どちらかひとりのみが転生出来る魔法と書かれているが、転生出来なかった神が、転生した神に干渉出来得るよう、 その転生を無かったことにする石も同時に創ったとも書かれてある」


「何だかよくわかんねえけど、なんだってそんな石を創る必用があるんだ?」


だから羽竜は神と称される存在が嫌いなのだ。

転生する魔法を台無しにする。それならば、転生する意味がない。神とは矛盾することを簡単にやる。わがまま。そういう存在なのだろうけれど。


「二人の神は自分達の創った世界を溺愛していた。だから、ひとりだけの転生で好き放題されるのを嫌がったのかもしれん。転生という禁じ手を公平な手段にするには、全てを無かったことにする禁じ手で対抗するしかなかったのだろうな」


「ま、何となく読めて来たな。ジーナスも、それ以前に存在した邪神も、どっちも世界を創造した二人の神ってことか」


「推測だがな」


「もっと推測してやろうか?自分達の意思で転生出来ない二人の神は、転生に不公平が無いようにルーレットのような運任せの方法として、媒介と指名された者による魔法の発動をシステムとした」


「その辺の詳細は推測しきれん。しかし、大まかなあらすじは、そういうことだろう」


「それじゃ話は簡単だ。そのレメディを持ってジーナスのとこに行けばいい」


「残念だが羽竜、レメディは記されている数が九つ。オレ達はまだひとつだけしか見つけていない」


「………なんでよぉ、神ってのはそういうものを数多く造るんだ?ひとつでいいだろうよ………」


「不満を言ってもレメディは九つ以下にはならん。当面、オレ達の目的はレメディの収集だ」


サマエルはやっぱり不敵に笑い、やっぱり楽しんでるように見えた。

二人の話を聞き終えたシズクは、


「分かった?私たちの旅はこの世界を救う旅なのよ。あ、因みにその赤いレメディはワイルドローズっていうのよ」


ノアにそう言った。


「何だかスケールがでかすぎじゃないか?オイラなんか、何の役にも立てない気がするぞ」


ノアは羽竜を見て、自分が連れて行かれる理由を訊ねたが、


「感じるものがあるんだよ」


軽く流されるだけだっだ。

だが、ノアなりに理解はしている。盗人稼業でもしてた方がマシかもしれない。そう思うには遅すぎていると。そして、 九つのレメディ。それらを集めた時に、世界が救われるかは約束事にもならないことも。


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