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第九章 強さへ ~後編~

 寝付けなかったと言うのが本音だろう。あんなことがあった夜だ。無理もない。ノアは、自分に言い聞かせながら重い瞼を開けていた。

なのに、傍らと正面で熟睡するこの二人はどうだろうか?

寝息すら聞こえないサマエルと、真っ正面でいびきをかきながら寝ている羽竜。この二人は余程、図太い神経をしてるに違いない。


「ふがっ………んん……ふわあ………」


羽竜が大きなあくびと共に目を覚ます。

明らかに深い眠りをしていたことを告げるような起床に、ノアは不満に思ったが、


「なんだ、起きてたのか」


羽竜にそう言われ、呆れて口を開くのをやめた。

よくもまあ、そこまで熟睡出来たものだ。ノアにしてみれば、死線デッドライン間際から生還したようなもの。精神的に疲れ果てたと言える。


「寝られた方が不思議だけどね」


そう皮肉ったつもりだったが、


「夜になったら眠くなるのは常識だろ」


「………」


最もな意見で返されてしまった。

そして、もうひとり。サマエルがムクリと起き出した。


「よう」


羽竜が朝の挨拶をする。サマエルは特に何も言わなかったが、


「フン」


鼻を鳴らしてみせた。どうやら寝起き早々に考え事らしいが、どうせ昨晩のことなのだろう。


「なあ、お前この十年なにやってたんだ」


羽竜には人様の思慮など関係ないのか、サマエルにそう尋ねた。それを聴くからに、十年前には会っていたと推測出来た。


「そういうオマエはどうなんだ」


「決まってんだろ。探してんのさ………」


「ソニヤか」


「ああ。あの日、世界を呑み込んでしまうほどの邪悪なオーラを感じた。あれは紛れも無いソニヤのオーラだった。直ぐに向かったのに………」


「村は火の海。肝心のソニヤは居なかった」


「そこまで知ってるってことは、あの場所に居たのか?」


「話すと長くなるが、色々あったんだ」


「何があった?」


「ソニヤが闇に堕ちた理由は、詳しくはオレにも分からん。だが、確実に言えるのは、ソニヤがジーナスの子供で、ジーナスはソニヤに眠る邪神の血を呼び覚ます為に、わざと村の連中から真実を聞き出すように仕向けたということだ」


「なんだよ、その真実って?」


「言っただろう、詳しいことは知らんと。………しかし、恐らくは村の連中がソニヤの育ての親を殺した………そんなところだろうな」


それなら納得出来ると言わんばかりに、羽竜は空を見上げた。


「あ、あのさ、なんか重い話をしてるみたいだけど、あの性悪女はどうしたんだよ」


ノアは、シズクが居ないことに違和感を抱かないサマエルに嫌悪した。

どんな関係かは知らないが、仕事か何かのパートナーであったことは間違いない。あの戦禍の中に置き去りにしてなんとも思わないのかと。


「性悪女?誰のことだ?」


羽竜はそう聞いたが、思い当たる人物を知っている。


「心配いらん。勘と要領とツキだけは天下一品だ。そのうちフラッと現れる」


そうサマエルがほくそ笑みを浮かべると、


バコンッ!!


ノアの後頭部にメディスンバッグが飛んで来て、見事な音を立て命中した。


「だ〜れ〜が〜性悪女なのよ!このクソガキ!何回言えば名前覚えるの!?頭悪い!」


覚えられないのではない。そっちの方がピンと来るだけ。


「いってぇ………」


「私の名前はシズク!!いい?今度性悪女って言ったら、唇縫い付けてやるからね!」


潜んでたんじゃないかと疑いたくなるようなタイミングで現れたシズクを見て、ノアとは別の意味で驚いたヤツがいた。言うまでもく、羽竜だ。


「おま………シズクか?」


「………誰って………まさか、羽竜!?」


お互いに大人にはなったが、面影はある。


「なんだ、サマエルと一緒だったのか!!」


「あんたこそ、今までどこに居たのよ!?」


言ってやりたいことは両者共に山ほどあるのだが、十年という年月を責めても何も出て来ないだろうし、目的は同じ、ソニヤの捜索。そして、この描かれたような再会は、必然でなくてはならない。


「相変わらずうるせー女だな」


「あんたの口の悪さも健在みたいね」


皮肉り合っているのに、何故か二人は嬉しそうに見えた。


「どうやら、また一緒に旅しなきゃなんねーみたいだな」


羽竜がそう言うと、


「しょうがないわね。まあいいわ。私の権限で許可するわ。文句は言わせないからね、サマエル」


「………文句だと?クックックッ。オマエのおりをしないで済むのなら、文句など出るものか」


「なんですってぇ!ほんとムカつく!」


それは、サマエルなりの歓迎の表現。


「じゃあ決まりだな。そういや、ずっと気になってんだけどお前誰?」


後頭部をさするノアに羽竜が言った。


「オイラは………」


ノアは一度言い淀んだ。なんで名前を言わなきゃならないのか。

ザバスという国は既に存在しない。つまり、暗殺しようとした事実も、その罪も、もう存在しないのだ。これ以上、サマエル達に付き合う必要性は無いのだ。つまり自由。


「ノア」


なのに、言ってしまった。


「そうか、ノアか。俺は羽竜はりゅう。よろしくな」


羽竜は自分が巻き込んだことを忘れているのか、握手を求めた。

差し出された手を、ノアは恐る恐る握った。


「ちょっと!そのガキは関係無いわ!」


それを不満に思い、シズクが騒いだが、


「口悪いなあ、お前」


「羽竜に言われたくないから!」


「アハハハ!ヒステリーか」


「うるっさいっ!」


話は流されてしまったようだ。

きっと、これからもこの調子なんだろうとノアが思っていると、


「一国の国王を暗殺しようとしたんだ、どうせ身寄りはないんだろう?」


サマエルが話し掛けて来た。


「羽竜が貴様と出会ったのは運命なのかもしれん」


「運命………」


「世界を変えたいとかほざいてたな。ならば、世界とはなんなのか、真実を探してみるといい」


「どういう意味?」


「クックックッ。意味などあるものか」


「はぁ?」


「貴様の思う世界が、貴様の思う形をしているか………この世界が貴様を求めているなら、きっと辿り着くはずだ」


それは羽竜とは違った勧誘なのか、よくわからなかった。しかしどうしてか、断る選択肢がノアにはなかった。

強くなりたい。強くなれば、理想に近づける気がする。

少なくとも、サマエルと羽竜のようになれば………ひとりの少年が、強さへの道を選んだ瞬間だった。

見下ろした景色は、一夜にして陥落した城。一体、何人の人間が死んだのか。

胸に飛来する無力感に、今はまだ向き合えなかった。


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