第九章 強さへ ~前編~
因果なものだと、サマエルは運命を感じていた。
かつては倒すべき敵だった羽竜。それが、十年前も
今も、共に戦っている。
「おい!サマエル!聞いてんのか!」
見た目は随分、成長をしているのに、口の悪さは変わっていない。だからこそ、強く因果を感じているのかもしれない。
「聞いている」
「だったら返事しろよな!………どうするんだ?コイツら、倒せば倒すほど増えてるぞ!」
「………このまま、くたばるまで戦うってのはどうだ」
「冗談のつもりかよ。笑えねーな」
サマエルと背中を合わせた。既に黒き鎧の戦士達に囲まれている。
「ククク。まさか、こうしてお前に背中を預ける日が来るとはな」
「昔は“貴様”とか呼んでたな。それは仲間ってことでいいのか?」
「好きに解釈しろ」
サマエルも羽竜も、特に深い会話をせずとも、どう切り抜けるか考えはまとまっている。
「よう、お前!」
羽竜は足下にいたノアに声をかけると、
「道作ってやるから、俺達に続けよ。本気で走らないと、御陀仏だぜ」
そう言った。
「ちょ………ちょっと!」
剣を振り抜くモーションを二人が取り、心の準備がと言いたかったが、
「行くぞ!サマエル!」
「言われるまでもない」
どのくらいの時間を稼げるか分からないが、などとは言ってる場合ではない。ノアのことを考えて“やれば”、少なくとも二分は欲しい。そう思い、二人共かなりの広範囲に及ぶ攻撃を放った。
何人いるかも知れない黒き鎧の戦士達は、吹き飛ばされる前に塵になって行く。
「よし!今のうちだ!」
羽竜が叫ぶと、サマエルと同時に走り出す。
慌ててノアも地面を蹴った。
もし置いて行かれたら………後ろは振り向けない。必死に走るだけ。
「ちくしょう!なんでオイラがこんな目に合わなきゃなんないんだ!?」
因果応報と言えばそれまでだが、それにしても酷くないかと愚痴りたくなる。
辺りは火と死体の海。これでは、ザバスは再建出来ないだろう。
戦争を止めたい。ただそれだけの想いで旅して来た。人と人とが殺め合う理不尽な行為。その成れの果てがこの有り様なら、もはや戦場ではなく地獄。
ノアは、地獄を走るサマエルと羽竜の背中に光を見る。
あの強さが自分にもあるなら………自分なら変えられる。誰も争わなくて済む世界へ。
力を失っていく足に鞭打つように、大袈裟なくらい大地を蹴る。
理想の強さに手が届くようにと。
それが、ノアの戦いの始まりだった。