18-(5) 苛烈なる皇の下に
突然トナン皇アズサが直々の会見を開いたのは、その日の夕刻だった。
会場となった王宮の一室には報せを受けて集まった国内外の記者達が群れを成している。
彼らは一様に、何が語られるのかの事前情報もなく忙しなかったが、それでも一応の目星
だけは付けていた。
言わずもがな、先日のトナン行き飛行艇への爆破テロの一件である。
「陛下のご到着だ。一同、粗相の無いように!」
やがて進行役らしき王宮の官吏がひそひそざわざわとする記者達を黙らせるように強い口
調で言い放つ。場が弾かれたようにしんとなった。緊張が否が応なく覆ってゆく。
「……」
壇上の幕袖からアズサが姿を現した。
背筋を伸ばした凛とした佇まい。
そこには、自国民が犠牲になって泣き咽ぶような弱音の気色は微塵もない。
颯爽と演壇に立って正面の記者達に向き合うと、トンと組んだ両手を卓上に置く。ちらと
目配せが飛び、官吏が会見の始まりを一同に告げる。
「へ、陛下! 今回は一体」
「その為に呼んだのよ。黙って聞きなさい」
相変わらずの威圧感だった。
思わずフライング気味に口を開きかけた若手記者を、アズサはその眼光と一言で押し止め
ると早速語り始めた。
「……今回の発表は他でもないわ。知っての通り、我が国へ向かう筈だった飛行艇が爆破さ
れたわ。犯人は結社“楽園の眼”。長らく世界中で暴れ回っている保守過激派の組織──
既に出ている犯行声明は報道関係各社からも報じられている所ね」
やはりか。記者達は誰からともなくお互いに顔を見合わせていた。
ならば皇はこの件に関し、何を語るのか?
手元のペンやメモを、写姿器(ストロボカメラのようなもの)を握る面々の手に無意識に
力が入る。
「今回、彼らは二つの過ちを犯した」
そんな面々をじっと見据えながら、彼女はそう静かに前置きを紡いだ。
「一つは、何よりも我が国への飛行艇を落としてきたという愚策。諸国によって対応が違う
としてもこの私が皇である以上、このままやられっ放しにはさせない。そしてもう一つは、
この“結社”が長らくこの国を混乱させ続けている反政府勢力を支援しているという事実──」
その言葉に、記者達が思わず大きくざわついた。
初耳だ。本当なのか? そんな声が方々から漏れてくる。
一旦官吏がその動揺を大きく手を打つことで鎮めると、アズサはその双眸に苛烈な強気を
込めて続けた。
「本日十六大刻・三十小刻(=十六時三十分)付で、トナン皇国軍の総力を以って今回の
首謀者“結社”と奴らと結託するレジスタンスへの掃討作戦を開始する。ただ長く地下での
不穏分子で在ることに飽き足らず、世界を騒がす“結社”とも結託した彼らの罪は最早看過
できない所まで来てしまった。犠牲になった人々の鎮魂の為にも、我々は決して彼らを野放し
にしてはならない」
語られたのは、宣戦布告──先の爆破テロに対する報復作戦の発表だった。
目を見開きざわつき、驚く記者達。同時にメモを取るペン音が、写姿器のスイッチが押さ
れストロボが焚かれる発光が次々に重なってゆく。
レジスタンスと“結社”が手を結んでいるという皇の、即ちトナン政府の発表。
初めこそ記者達は戸惑いの中で驚いていたが、気付けばそこに疑いを持つことを皆が皆忘
れてしまっていた。
それは間違いなく“逮捕されたんだから犯人だろう”といった、限りなく黒に近い疑惑と
いう名の心理に人々が一斉に靡いたからで。
「……これは、我々にとって非常に大きな戦いとなるでしょう。でも決して我々は負けては
ならない。長らくこの国を、世界中を恐怖に陥れて来た“結社”とその共犯的勢力を掃討す
る大きな転機であるのだから」
ごくりと、記者達は息を呑んでいた。
数秒ばかり沈黙する場。
アズサ皇は一度そんな面々をぐるりと見渡してから、
「世界を乱すから罰? 冗談は井戸端でやっていなさい。高みを──強さを豊かさを求めず
して何が皇か、何が国か。人々を豊かさに導かない政こそ権力の愚。今こそ我々は彼らに示
さなければならない。怯えてしまった世界に先立って、我々が長らくこの国で培ってきた武
芸の力を、結束の力を。……世界を乱しているのは、進むことを放棄した怠け者達の怨嗟で
しかないことを、彼は知ることになる」
あくまで大義を宣言し、映像画面の向こうにいるであろう無数の人々に訴え掛ける。
「……へ、陛下!」
「りょ、両者の繋がりとは本当ですか!?」
「い、一体どのようにして政府はその情報を……」
「静粛に静粛に! これより質疑応答を始める。質問がある者は順に挙手するように!」
そして凛と響いた彼女の声色の後に、たっぷりと呆気に取られた後。
彼女から「一先ず演説は終わり」と目配せを受けた官吏の怒号に似た声を皮切りに、記者
達の怒涛の質問ラッシュが始まる。
「追加伝令! サノマとニエ、ルリザのアジトにも皇国軍の襲撃あり!」
アズサ皇の発表と期をほぼ等しくして、掃討作戦は実行に移されていた。
それはジーク達が身を寄せる森の中のアジトも例外ではなく、外からは断続的な銃撃、及
び魔導による障壁と攻撃術とが互いにぶつかるけたたましい交戦の轟音が響いている。
「くっ……! ここからでも分かる。数が、違い過ぎる……。急いで退路を確保するんだ!
今まともにぶつかったら間違いなく潰されるぞ!」
入れ替わり立ち替わりに入って来ては、仲間達から報告される各地の同志らの危機。
サジは得物の槍を片手に、周囲──アジトの外で応戦防戦に出ている仲間達を心配しなが
ら叫んでいた。
「退路っつっても……。逃げ場なんてあるのかよ? さっきからおっさん達のアジト、あち
こちで落とされてるみたいじゃねぇか」
ジーク達一行もまた、彼らに混じって一箇所に集まり、何時でも応戦できるように臨戦態
勢を取っている。ただでさえ古い建物が、外の衝撃の度に細かい石煙を伴って揺れている。
「そもそもよく今まで軍隊に攻められてもってたもんだぜ。初めてじゃないだろうによ?」
腰に下げた刀に手を添えたまま、ジークがぽつりとこんな状況になった要因を問う。
「確かに攻勢を掛ける・掛けられるは今に始まった事ではありません。それでも私達は各地
にアジトを分散し、秘匿しておく事で柔軟な退路網を作ってきたのです」
「それなのに、今回はそこほぼ全部を一気に攻められてる……と」
「どうやらその様です。今まではこんなケースはありませんでしたし、そもそも国軍に勘付
かれれば、すぐに破棄して別な立地を探す体勢も取ってあるというのに……」
どうにも妙だ。
サジの返答はそんなニュアンスを多分に含んでいた。
実際、彼の言う通りなのだろう。
臨機応変に拠点を立ち回る実に地下組織的なフットワークの軽さ。故に二十年近くアズサ
皇の攻勢から逃れることができたこれまで。
しかし今回の掃討行動は、その仕込みすら凌駕するものだった。……だとすれば。
「事前に、隊長達の拠点の一つ一つを把握していたと考えざるを得ないな。でなければこの
状況を恣意的に作り出す事など不可能だ」
「ああ。だがしかし、アズサ皇はどうやって……? まさかずっと気付かぬ振りを?」
「……いえ。間違いなく“結社”の仕業、でしょうね」
そんな混乱の中にあって、そうした疑問点はリュカが展開した分析にって解消をみた。
サジらレジスタンスの面々は眼前の事態の対応に追われていたが、かねてより“結社”と
の衝突を繰り返してきたジーク達にとって、今回アズサ皇の発動させた軍事作戦はどうにも
“出来過ぎている”感が否めないのだ。
「具体的に誰の入れ知恵かまでは知りようもないけれど、アズサ皇と“結社”はものの見事
に今の状況を利用してきたと考えるべきね。向こうは既に自分達が手を組んでいることを勘
付かれたと把握した上で、敢えてそれを大っぴらにする作戦に──先手を打ったのよ。さっ
きの会見で語っていたように、爆破犯の“結社”と繋がっているのは自分ではなく、レジス
タンス──ひいては私達なのだと記者達の前で大芝居を打ってみせた……」
「何でだよ!? 大嘘じゃねぇか、そんなもん誰が信じ」
「落ち着け、ジーク。確かに実際は逆だ。だが君が以前話していたように、世間的にみれば
トナンは“開拓派”な国で、結社は“保守派”──その中でも相当の過激派だ。この前提で
第三者が今の状況を俯瞰すればどちらがより説得力がある?」
「……」
サフレが挟んできた補足に、ジークは思わず眉を顰めていた。
つまりアズサ皇らが企んでいるのは、世の人々に対する壮大なミスリードなのだ。
自国への飛行艇を“結社”が爆破した。
その弾劾を彼らに──いや本当の目的であるレジスタンスに被せる事で自分達を一気に始
末しようとしているのである。
サフレが語るように、対外的には多くの人々にとって敵対や畏怖の対象である“結社”へ
の報復──率先した反撃攻勢であるとのアピールであり、諸外国もその大義名分には容易に
(否定的な)介入はできない。
加えて、今の皇国をアズサ皇のクーデター政権を黙認したのは、他でもない各主要勢力圏
の国々なのだ。もしここで下手な介入を行えば、二十年前の件も併せて蒸し返されてしまう。
そんなリスクを負ってまで他国が積極的に動くとは思えない。
「──状況は、はっきり言って最悪よ。実際にあれだけの大軍に囲まれているし、ここを抜
け出せたとしても暫くは追撃の手は止まない筈だから」
場の面々は一様に押し黙っていた。
リュカが苦渋の表情で語るに違わず、状況は圧倒的に不利だった。
「大変です! 防衛ライン突破されましたッ!」
ちょうどそんな時、応戦していたメンバー達からの通信が耳に飛び込んでくる。
刹那、一際大きな爆発が聞こえた。思わずジーク達はその場から飛び上がり、窓の陰から
遂にアジト内へと突入を始める皇国軍の様子を確認する。
(……どうして)
不意にスローモーションになるかの如き世界の中で。
(どうして、こうなっちまうんだよ……?)
ジークは唇を噛み締め、拳を握り締め、言葉なくこの状況を呪った。
ひび割れる窓から覗く眼下、森のアジトの外には点々と赤々と血を流し、或いは魔導や砲
撃で大きな穴ぼこ共々消し炭になったレジスタンス達の無残な姿。
此処だけではない。他の場所のアジトでも同じような惨状が作られている筈……。
ドクンと。身体中の血液が沸き立つ気分だった。
広く言えば興奮。しかしそこに「快」など微塵もありはしない。
只々、自身の心を打ち始めるのは、重苦しい「不快」と映写機フィルムの如く脳裏にちら
ついてくる、かつて辛酸の日の惨状で。
──俺がいるから、駄目なのか?
だったら……。この状況を切り抜けるには。
「何処に行く気だ、ジーク!?」
ふと仲間達が気付くと、ジークはゆらりと一人部屋の出口で向かおうとしていた。
逸早くその足音を耳にしたダンを筆頭に、皆が彼の背中へ呼び止める声を叫ぼうとする。
「……投降する。残りの六華と俺自身で、この馬鹿げた芝居を止める」
「い、いけませんジーク様! 貴方にそんな危険な真似をさせる訳には……!」
「滅多なこと言うもんじゃねぇぞ。奴らがそんな交渉に乗る性質だと思ってんのか!?」
「分かってますよ、そんな事ッ! だけど……。だけど、このまま俺がいるってだけで皆を
死なせるなんてこと、できねぇんだよ……!」
「……。お前」
「ジーク、さん……」
それでも、仲間達の説得にジークはそんな吐露じみた叫び声をぶつけていた。
仲間達もそこでようやく彼の心中に気付き、それぞれに苦渋の表情を浮かべて引き止める
声を、駆け寄ろうとする足を止めさせてしまう。
「──それでいい」
何処からともなく抑揚のない声が響いてきたのは、まさにその時だった。
ジークが歩いていこうとして仲間達から取った、距離。
その両者の間に割って入るかのように、突如としてどす黒い靄が発生したかと思うと、そ
こから彼らは姿を現したのである。
「……てめぇらは。そうか、新手の“結社”の連中か」
現れたのは、一度サンフェルノで交戦した荒々しい大男・バトナス。
そして白髪の剣士・ジーヴァと、緋色ローブの女・フェニリアの三人。
ジークが一瞬怪訝に眉根を寄せたが、バトナスの姿や現れ方に見覚えがありすぐに向こう
から“迎え”に来たのだと悟る。
「ジーク様!?」
「止せっ! ……迂闊に手を出したら、冗談抜きで死ぬぞ」
咄嗟にサジら場にいたレジスタンスの面々が得物を放とうとした。
しかし一度彼ら“使徒”の実力を味わった──そして何より新たな面子が二人もいる事も
踏まえ──ダンがすぐにそんな彼らを片手で制する。
だがそれでも、諦めた訳ではない。
その証拠に仲間達の表情はすぐに飛び込んで助けに行けない自身の力不足、悔しさといっ
た感情で歪んでいたのだから。
「……いいのかよ? ここでまとめて潰しちまった方が楽だろうが」
バトナスは残り二人に言いながら、横目でダン達一同の様子を窺っていた。
力を込めた五指がビキビキと魔獣人のそれへと変化しかかっている。
少なくとも彼自身は、合図さえあればいつでもこの場の者達を抹殺することを厭わない気
でいるようだった。
「……ジーク・レノヴィン」
「何だよ?」
だが、対するジーヴァは。
「お前は残りの六華を対価にこの内紛を終わらせたい、そう言ったな?」
そんなバトナスの質問には答えず、代わりに間合いの内にあるジークにそう問い掛ける。
「ああ。……約束しろ、兵を退かせて皆をちゃんと逃がせ」
ジークが答え、ジーヴァが場の面々がしんと黙り込んだ。
こうしている間にも、トナン軍はアジト内の攻略を進めている筈だ。
すぐに返って来ない応答にジークは徐々に表情の険しさを深めていったのだが、
「……分かった。約束しよう」
ややあって、ジーヴァはそう顔色一つ変えずに答えたのである。
「おぃ!? 乗るのかよ? 後でまた小言を言われるぞ……?」
「聞き捨てて置けばいい。ああいう女だ」
バトナスがそんな仲間の返答に弾かれたように詰め寄ろうとしたが、それでもジーヴァの
淡々とした様子は変わらなかった。
ばさっと羽織る黒革のコートを翻し、彼は傍らで様子を傍観していたフェニリアに何やら
合図を送る。
すると……どうだろう。
ぶつぶつと何かを呟いた彼女の動作がスイッチとでもなったかのように、フッと兵士達の
姿が気配が遠退き始めたのだ。
特に動揺していたのは、サジ達レジスタンスの面々だった。
ジーヴァらが特に邪魔をしてくる様子がないことを用心深く確認すると、内何人かが仲間
達に促されるように窓際から外を覗いたり、状況確認の為の通信を取り始める。
「……間違いありません。軍勢が退いていっています。他のアジトからも全く同じ報告が」
「まさか。本当に……?」
サジらが、ダン達が驚きで目を見開いてジーヴァらを見返していた。
本当に彼ら“結社”がアズサ皇と繋がっていたと、目の前で実証されたも同然な状況にで
はない。むしろこの瞬間は、それ以上にすんなりとジークからの取引に彼らが応じたのがよ
り驚愕に値したのである。
「約束は守る。相手が“シキ”の子孫ならば、尚の事……」
「あ? 何を──」
「シキ? それは“剣帝シキ”の事? ジークと同じ女傑族の──」
ダンが怪訝を、リュカが問いを投げていた。
しかし既に当のジーヴァらは、取引は果たしたと言わんばかりに動き出していた。
眉間に皺を寄せたままのジークを囲んで三角形を作るように彼らは立ち位置を改め、そっ
と場の面々へと向き直る。
「命拾いしたな? よく分からんが、こいつの変な真面目さに感謝しとけ?」
「そうね。思う存分逃げ惑いなさい? もう逃げられないわ。貴方達は、いつでも殺れる」
「……。行くぞ」
そしてそんな捨て台詞を残して、ジーヴァが翻したコートの動きに呼応するかのように再
びどす黒い靄が彼ら──ジークを含んだ四人を包み込んだ。
ものの数秒も経たない内に、その姿は跡形もなく掻き消える。今日の技術では実質上不可
能な筈の、単独無詠唱の空間転移。
『…………』
空寒いほど、辺りが静かになっていた。
残されたのはより一層破壊されたアジトの骨格と、その内外で累々となった犠牲者達。
「……。くそっ!」
ガツンと、ダンがじわっと沸き上がった憤りに任せて傍らの壁に拳を叩き付けていた。
円形状に奔る壁のヒビ、握った拳からつぅっと滲む赤。
「馬鹿野郎が……」
自分を犠牲にしたジークに、彼を連れ去っていったジーヴァ達に。
そして何よりも、その様を目の当たりにして何一つ手を打てなかった己自身に。
残響し虚しく消える拳と悔恨の音の中、誰一人として仲間達は続く言葉を口にできずに。
「──これは、大変な事になったわね……」
一方で、勿論というべきか、アズサ皇の会見をイセルナ達もまた視ていた。
酒場『蒼染の鳥』の壁の一角に掛けられたスクリーン型の端末画面、その向こう側で語る
彼女の姿に、イセルナは団員らや酒場の客達に交じって不安げな表情を漏らしていた。
ジーク達は一体どうなったのだろう? ちゃんと合流できているのだろうか?
最後にダン達からあった導話は「ジーク達の居所が分かった」という、一旦皇都の宿を出
るといった旨のものだった。
その後の経過の連絡は、まだない。
話ではアズサ皇がジークの身を狙っているとも聞いているので、何か事件に巻き込まれて
いて一段落がつかないのかもしれない。クランの団長として残った皆を、アルスを預かる立
場にあるとはいえ、正直不安は拭えないのが本音だった。
「だ、団長~ッ!!」
ちょうど、そんな時だった。
酒場の奥の方、ホームの宿舎側から何やら慌てた様子で数人の団員らが駆け込んでくる。
「どうしたの? そんなに慌てて」
端末画面の向こうでは、アズサ皇が記者達からの質疑応答を凛として捌いている。
イセルナを始め、シフォンやカウンター席のハロルドらが何事かとこの団員らの方を怪訝
気味に見遣ってくる。彼女はこの団員らに小さな怪訝で以って訊ねていた。
すると彼らは、ぜぇぜぇと少々息切れした呼吸を整えてから、
「た、大変なんです! アルスとエトナの姿が何処にないんです!」
「代わりに、部屋にこんなものが……」
パサッと。皆の集まるテーブルの上に一枚のメモ紙を置いて訴えてくる。
「……。えっ!?」
イセルナ達は、それを読んで驚きに目を丸くした。
何故なら。
『やっぱり兄さん達がどうしても心配なので、僕らもトナンに行って来ます。皆さんには迷
惑を掛けてしまいます。ごめんなさい。──アルス&エトナ』
そのメモはアルス直筆の、そんな書き置きが記されたものだからだった。