15-(4) 君の求めたチカラの形
カチリと乳白色の腕輪を左の手首に嵌めてから顔を上げる。
足を運んだ第三演習場は、アルスの予想していた通りの貸切状態だった。
他にこの場にいる人といえば、観客席の一角でぽつんと見守ってくれているシフォンと、
監視要員らしい職員が二人ほどで。
「よ~し、準備はいいな?」
後は正面に向き合って同じく腕輪を嵌めたブレアだけだった。
はいと短く頷いたアルスは、腰に手を当てて気安そうなブレアとは対照的に少々緊張気味
に見えた。
無理もないのかもしれない。学院での師から直接実践──人を魔から救い出す為の魔導の
ノウハウを、ずっと求めてきた魔道の形をこれから教わろうというのだから。
そんな相棒のちょっと真面目過ぎる眼差しと後ろ姿を、エトナは苦言こそ口にしなかった
が心配そうに見遣りつつ傍らに浮かんでいた。
「……そんなに硬くなるなって。実習つったって、本物の実戦とはまた違うんだぜ?」
「それは、そうですが……」
それはブレアもとうに気付いていたらしく、目の前の教え子にフッと苦笑を漏らしながら
言う。しかしアルスがまだ生真面目なままである事から、彼は少し前説を割いて解すことに
したらしい。
「本当は近場の忌避地で実際の魔獣とやり合うのが一番の実践になろうってものなんだ
がな……。学院が許してくれなかったんだよなぁ、これが」
「そ、それは仕方ないですよ。時期が時期ですから」
無理もない事だ。何せつい数日前に、その魔獣の群れがこの街を襲ったのだから。
まだこうしてアリーナの使用許可を出してくれただけでも感謝しなければ。
「だからといって、僕の為だけに此処を使うというのも申し訳ない気もしますけど……」
「なぁに、気にするな。名実共に学年主席だろ? それくらいどーんと受けとけって」
そこでようやく、アルスはぎこちないながらも苦笑を見せていた。
(さてっと……。これで少しは硬さも抜けてくれればいいんだが……)
過度の緊張は、足枷にしかならない。だからこそ訓練の内からそんな調子では困る。
するとブレアは、それまで気安かった表情を引き締め直すと、事前の講釈に入り出した。
「それじゃあ早速実習に入るぞ? 先ずはお前にとっての、対魔獣用の魔導はどうすれば最
善手となるのかをざっと説明しておく」
「……はいっ」
「対魔獣用に魔導を修めるということにフォーカスを当てるのであれば、どういう戦闘スタ
イルを採るつもりなのかでお前の注ぐべき方向性は決まってくる。あくまで自力で魔獣を倒
すのであれば、攻撃に特化した魔導を多く学んでモノにする『火力』となるし、逆に協力者
との共闘を前提にするのならば、補助に特化した魔導──具体的には魔獣の力やら瘴気その
ものを削ぎ落とす『技巧』を磨き上げる必要がある訳だ」
言いながら、ブレアははたとその場に屈んだ。
その背後には、石畳の地面が広がっており、その周囲をきめ細かい砂の地面が詰められて
いる。彼はそっと遅れて屈んでくるアルスを一瞥すると、
「それに……何よりも、この選択はお前自身の“先天属性”からもよく勘案して決めないと
いけない事でもある」
ささっと指先で、その砂地にとある図表を描き始めた。
それらは真ん中で線引きされた楕円形で構成されていた。
真ん中に横向きで二個、その左右に縦向きで一個ずつ。前者の線引き部分を目印にして、
後者の下部と接近させるように半個分ズラす形で横向きにまた二個ずつ。更にそれら六個を
挟むように今度は線引きのない楕円形を左右に一つずつ。
その図の大枠を描き終えると、ブレアは左右・上下の順でその区切られた楕円らの中に計
十四の文字を書き足していく。
「焔」と「銕」及び「聖」と「意」の横並び二つの楕円。
「鳴」と「天」及び「墳」と「魄」の縦並び二つの楕円。
「虚」と「冥」及び「蒼」と「流」の半ズラしの横並び二つの楕円と、それらの左右を挟
んで書かれる「界」と「刻」の文字達。
それは──魔導における十四種類の属性、その相関関係を示すものに他ならなかった。
「門属図、ですか。でもこれが何を……」
「まぁ、話は最後まで聞けって」
しかしアルスにとっても、多くの魔導師にとってもこのイメージ図は入門書の頃からこれ
でもかと叩き込まれている内容の一つであって。
今更、何故これを……?
アルスがそんな意図で頭に疑問符を浮かべて訊ねてくるのを、ブレアはやんわりと制しな
がらこう続ける。
「……結論から言うぞ。アルス、お前は魔獣と戦う魔導師としては他の連中よりも劣る」
「ッ!?」「えぇっ!?」
その言葉に、アルスがそしてエトナも驚愕の様子を隠さずにはいられなかった。
「ななな、何でよ! 今までだってアルスはずっと一生懸命……!」
「あ~……そう血相を変えるなって。何も不可能だって言ってねぇだろうが。人の話は最後
まで聞けっつってんだろ?」
衝撃と悔しさ。思わず哀しみに近いそれに顔をしかめる相棒に、エトナはずいっと相棒の
師であることも半ば忘れかけてブレアに食って掛かろうとする。
それでもブレアは大して動じた様子はない。
少々鬱陶しげにむくれ面になるエトナをむんずと除けると、明らかに瞳の奥を揺らして動
揺しているアルスの肩をポンと叩いて告げた。
「いいか、アルス? 魔獣という存在に最も効果的である系統は“聖”魔導だ。攻撃の面で
も防御の面でも、何より瘴気を純粋に“解毒”できる力はこの系統をおいて右に出るものは
存在しない。これは学問的な事実だ」
「……聖、魔導」
「聖職者の類がこの系等の魔導を好んで修める理由はここにある。まぁ大方の奴は治癒回復
に特化した術式が多いからって動機なんだけどな。……さて、お前の先天属性は何だ?」
「魄、です」
「そうだ。じゃあ、ここでさっきの門属図に戻る。見ての通り聖属性は“光門”で、魄属性
は“地門”に分類される。畑がそもそも違ってるんだ。特にお前はエトナっていう樹木の持
ち霊とも契約しているから、自身の先天属性の力により傾いている状態にある」
自身のことを言われて、流石に気の強いエトナも黙り込んでしまったらしい。
再びブレアに指し示された図に目を落としながら、アルスはじっと黙している。
「……だからさ。俺はお前にはその持ち味を存分に活かして貰いたいって思ってるんだ」
すると、次の瞬間、ブレアはそう言ってニカッと微笑んでみせたのである。
顔を上げて、暫く目を瞬いていたアルス。
しかしそこは頭の良さの彼だった。ややあって彼は目の前の恩師の言わんとしている事を
理解したようで、それまで暗くなっていた表情がパアッと明るくなったのだ。
「え? 何なに? どゆこと?」
「あ、うん……。えっとね」
「だ~か~ら。最後まで話を聞けっての」
アルスとブレアの互いを見遣って眉根を寄せて、そして相棒の表情を受けて何処か嬉しそ
うにながら。エトナは今度はずいっと二人に説明を求めて迫ってくる。
「要は相性と選択の問題なんだよ。確かに理屈の上じゃ、聖魔導が一番瘴気に有効だ。だが
それは聖魔導を扱う術者全てにとってイコールであるという訳じゃあない。アルスのように
先天属性が聖属性に遠い程、同じ術式を使ってもその効果はどうしても差が出ちまうんだ」
「なるほど。じゃあアルスがもし聖魔導を使ったらどのくらいになるの?」
「そうだな……。一般論で見立てたとしても、大体七十パーセントといった所だろう」
「あれ? 意外に高いじゃん。だったら別に……」
「言っただろ? 同じ術式を使っても個人によって差が出るってな」
エトナが示すそんな反応。
しかしブレアは予め彼女のそんな言葉を予想していたかのように、すぐさまその発言を途
中で遮っていた。地面に描いた属性の相関図。その楕円同士に、ブレアは一本二本と線を引
いてゆきながら語る。
「さっきも言ったが、光門と地門は別の系統の魔導だ。ここでエトナ、問題だ。もしアルス
が聖属性の術者と聖魔導を撃ち合えば、どうなる?」
「え? えぇっと……。アルスも私も魄属性だし。もしかして、撃ち負け……ちゃう?」
「その通り。つまりそういう事なんだよ。仮にどれだけ魄属性のアルスが聖魔導に拘っても
根本的に聖属性の術者に七十パーセントの力で挑む構図になるんだ。勿論、努力次第でこの
差を埋めることは不可能じゃない。だがその差が埋まるまで、相手は悠長に待ってくれはし
ないだろう? こっちが苦労して親和属性でも準親和属性でもない魔導を鍛えて百パーセン
トにしても、その頃には相手は百パーセント超の力になっている。……正直不毛な努力だ」
「た、確かに……」
見かけによらない(と言えば失礼なのだが)ブレアのそんな論理的説明に、思わずエトナ
は心なし仰け反りつつも、頷きざるを得なかった。
──いそいそと短所を埋めるよりも、持っている長所をとことん伸ばす方が有意義だ。
ブレアの言わんとしていることは概ねそんな内容だった。
決して、自分に道が閉ざされた訳ではない。そんな恩師と相棒のやり取りを見、聞きなが
らアルスは内心大きく安堵して胸を撫で下ろしていた。
「さて、ではここからがアルス、お前にとっての本題になる。確かにお前が聖魔導を扱おう
とすれば百パーセントのポテンシャルの術者に劣る結果を招く。何よりこのパフォーマンス
の差は間違いなく実践の場で響いてくる筈だ。相手が情けなんぞ掛ける訳のない魔獣なら、
それだけでお前らが討ち死にするリスクを高める羽目になる」
「……はい」
「じゃあ、どうすれば……?」
「視点を変えるんだよ。そもそも“解毒”っていう攻撃的な方法じゃなく“中和”っていう
補助的な方法でお前達の魔導の主力を組み立てるんだ」
再びブレアが地面の図を指差して語り出す。
その「魄」属性には親和属性同士である、一つの楕円の中に収まった「墳」が隣り合って
いて、そして……「魄」から延ばされた線は「意」と「流」に繋がっている。
「俺がお前らの先天属性と、これまでの学習レベルを見ながら考え抜いた最善手がこれだ。
アルス、お前は意魔導を磨け。全般じゃなくていい。聖属性とは離れていても、意属性とな
ら魄属性は準親和関係だ。一般論なら九十パーセント前後のパフォーマンスが期待できる。
それに意魔導は攻撃力こそ劣るが、その操作性の高さは他の系統に比べて抜きん出ている。
技巧で以って魔獣と対抗する予定のお前に、これほど好都合な性質はない」
了解しました。
そう言いたげにアルスは顔を上げてブレアを真っ直ぐ見つめ、頷いた。
その後も暫しブレアは具体的な説明を続けた。
──瘴気“中和”の基本は「瘴気と閉じ込める」こと、そして「ストリームを遮断」して
ゆくことで瘴気自体を一時的に濃縮し、その後一気に汚れていないマナを注ぎ込んでその瘴
気の「毒素を薄めて無害化」することにある。
その為に必要な要素は大きく三つ。
一つは瘴気を閉じ込める結界。二つはストリームを迅速かつ精確に遮断する技巧。そして
三つ目は中和を完了するまでの魔導的な集中力と持続力だと。
だからこそ、ブレアはアルスに操作性の高い意魔導を勧めたのである。
「よし……。じゃあこれで能書きは終いだ。試しにいっぺんやってみてくれ。流石に魔獣は
用意できないから、今回は俺の使い魔をターゲット代わりに実践するぞ」
「は、はい!」
「よーし、ばっちこーい!」
立ち上がり足で砂地の図を消しながら、ブレアは二人に言った。
いざ、実践。アルスも傍らに浮かぶエトナもすっかり気合が入っている。
(おいおい、また硬く……いや、これはイイ感じの高揚感だな)
そんな教え子の姿が何だか滑稽に、いや愛しく思えて、ブレアは思わずフッと口元に孤を
描いていた。
しかしそれもほんの束の間、すぐにその表情を真剣なそれに変えると、
「……出番だぜ。煌」
マナを込めた指先で中空に文字を書き連ねると、サッとその下部に線を引いて召喚の術式
を実行する。
「オ、オォォォォ──ッ!!」
そしてその中空の紅い文字の下線を境目にし空間を突き破って現れたのは、全身を眩しい
までの赤と炎熱で纏った巨大な一つ目入道風の使い魔だった。
顕れて、開口一番の絶叫。
流石にそのあり過ぎる迫力に、アルスもエトナも見上げたまま暫し固まっている。
「お~い、ぼさっとしてるな~? 始めろ~?」
「あ。は……はいっ」
だがややあってブレアがそう声を掛けると、二人は我に返っていた。
再度、ギロリと見下ろしてくるこの使い魔・オーエンを見遣って深く深呼吸を一つ。
アルスは教わった通りに、学んできたもの全てを一斉に脳裏で再生させながら呪文の詠唱
へと移行する。
「意を渡るる橙霊よ。汝、我が意思を彼の者へと渡し給え。我はその指先より伝う糸を良き
結びへと成すことを望む者……」
背後のエトナとシンクロするように振り上げ、下ろされた片腕。
するとオーエンを囲むように、二重三重の結界がその巨体を覆っていった。
大きな一つ目が怪訝の眼で空を仰いでいる。その間にもアルスの足元には橙色の魔法陣が
展開され、次いで詠唱も完成をみる。
「盟約の下、我に示せ──群成す意糸!」
呪文が紡ぎ終ったその瞬間、アルスの両手五指から無数の淡い茜色の糸がするすると伸び
始めた。オーエンが、ブレアがその様を怪訝と様子見の眼で見つめている。
(結界の維持と同時に……)
しゅるしゅると、まるでアルスの意思に応えるかのように。
五指から伸びるマナの糸達は彼のその手捌きに合わせ、やがて編み物のように集まり合っ
て形を成していく。
(ターゲットに流れるストリームを……断つ)
それは、一言で例えるなら無数の大きな手術刃や鉗子だった。
それらをマナの糸で手繰り寄せ、中空に浮かせて操りながら、アルスはじぃっと目を凝ら
すと、オーエンとそこに流れてゆく多数のストリームの存在をしっかりと視認する。
ぐわんと、マナの糸で編まれたメスと鉗子らが動いた。
アルスは眉根を寄せ、必死に集中しながら、オーエンに向かって流れているストリームの
一本を鉗子で掴み、メスで切り離そうとする。
だがまだアルス自身が操作に慣れていないこと、編み上げた道具らがまだ精緻な作りに届
いていなかったこともあり、その作業にアルスは大いに苦戦を強いられた。
それでも、背後でエトナが結界の維持に援護を加えてくれている。
投げ出す訳にも、そのつもりもなかった。
「……よしっ! これで一本」
だが、そうしてようやく一本目のストリーム──マナの流れの束を切断する事に成功し、
アルスの表情に一抹の喜びが漏れた、次の瞬間だった。
「オォ……。オォォォォゥッ!!」
「ッ!?」
それまで結界に押さえ付けられていたオーエンが、ぐぐっとその身体を捩って突破を図り
始めたのである。
一本目を切断できて安堵した隙を衝かれた部分もあったのかもしれない。
猛火を纏った拳を一発、二発、三発と。
続けざまに突き出されたその打撃に、アルスとエトナが張っていた重ね掛けの結界は程な
くして限界を迎えた。
衝撃に耐えかねてガラスが割れるようにバラバラになる結界、ボロボロに砕かれる糸達。
そしてそのダメージは術者である二人にも勿論、反動として逆流してくる。
件の腕輪型魔導具が瞬時に展開した障壁のおかげで直接的なダメージこそ免れたものの、
二人は弾き飛ばされるように大きく後ろに転倒してしまっていた。はらはらと、アルスが先
程まで操っていたマナの糸らも術者の維持を失い、消滅してゆく。
「よし──。そこまでだ!」
やがて、そんな一部始終を見守っていたブレアがうんと小さく頷くと、声を張り上げた。
エトナに支えられ、少なからず息を荒げて起き上がろうとしているアルス。そっと隣に立
った主によって送還されて姿を消す使い魔・オーエン。
「お疲れ。よくやったな、アルス」
「……いいえ。僕は失敗しました。一本切っただけで油断して……」
ブレアはそう努めて朗らかに微笑むと彼に手を差し伸べたのだが、当のアルス本人に笑顔
はなかった。指摘されるよりもずっと早く、自らの失敗を既に振り返り、分析さえし始めて
いる。いや……悔しがっていた。
「何言ってんのさ。始めはそんなもんだよ。むしろこっちが驚いてるんだぜ? 前もって必
要な座学を詰めてたとはいえ、初っ端からストリームを切り離す所までやっちまうとは正直
思ってなかったんだから」
ぽむと。ブレアは不安げに顔を上げたこの教え子の頭を荒っぽく、だが優しく撫でた。
ぐずる子供を宥めるように、しかし呟かれた言葉は彼自身の偽りなき本音で。
「……気持ちは分かるが、そう焦るな。今までだってこういう努力をコツコツと積み重ねて
ここまで来たんじゃねぇのか? 大丈夫。今まで通り、その努力を重ねていけばいいんだ。
そもそも俺が言わずとも、お前は入試でも今までの試験やレポートでも成績を残してる。今
できなくたって焦ることはねぇんだ」
「……うん、そうだね。アルスなら大丈夫だよ。私も一緒に頑張るから!」
「先生……エトナ……」
暫く浮かない顔をしていたアルスだったが、二人に励まされてその顔色は徐々に元の穏や
かなそれに戻り始めていた。
「基本部分は合格点だ。後は練習あるのみだろう。俺も、身体が空いてりゃあいつでも相手
になってやるからよ」
「……はい。ありがとうございますっ」
確かにまだ今は未熟だけれど、それでも昔に比べれば確実に目標への道は拓かれている。
大丈夫。頑張ろう。もっと……もっと。
恩師と相棒に励まされて、アルスは穏やかな微笑みと共に優しい声色を返す。
「……」
一方で、そんなアルス達をシフォンは観客席からずっと見守っていた。
いや、何処か観察していたと言ってしまった方が正直なのかもしれない。
とはいえ他意はない。ただ、友の弟という優秀な魔導師の卵がどんな想いでこの街に来た
のか、この学院へ入学したのか、興味があったからだ。
(魔獣から人々を救う為の魔導……か)
まだ出会って間もない頃、彼が兄について、自分達兄弟について語った幼い日の記憶、そ
の際に垣間見たあの優しくも哀しい表情。
なるほどと思った。同じ辛苦の記憶を背負っているのだから、ある意味当然の運命の巡り
合わせだと言えるのかもしれない。
でも……だからこそ、危ういと思った。
同じなのだ。彼も友も、自分自身も。
仲間の為に自分を擲ってもよい覚悟。いや、かつて力が足りなかった故の、ある意味脅迫
観念的な補償行為。
似ている。だからこそ僕らは分かり合え、友に仲間になれて──。
(……全く、放っておけないな。ジーク。君も、君の弟も)
だからこそ、護らなければと思った。護りたいと強く思った。
アリーナのグラウンド内ではどうやら実習を終えているようだった。
アルスがこちらに向けて手を振ってくれている。
終わりました~。戻りましょうか? そんな合図でもあるのだろう。
(きっと護るよ、ジーク。僕もあの子を、失いたくない……)
そんな友の弟に、護りたい仲間に静かに手を振り返しながら、シフォンは確かに思った。