表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-13.真実の後、嵐来る前
62/434

13-(0) 教主の御前

▼第Ⅱ部『皇国トナン再燃』編 開始

 そこは、地上の何処とも形容しがたい場所だった。

 一見すると仄暗く、しかし視界全体に強烈に飛び込んでくるもの。

 刻一刻、淡々とその色彩を変え続けている光の柱だった。……いや、厳密には非常に高濃

度のマナの流れストリームであるらしい。

 それらが縦横無尽に複雑に入り組み、遥か天上へ、或いは底知れぬ深淵へと延びている。

 ヒトの営み、有象無象な雑踏のノイズ。

 それらとは明らかに一線を画す空間、静謐な世界の拡張。

『──そうか。元・七星が潜んでいたとはな』

 そんな中に彼はいた。

 青紫のマントを纏った気障な青年・フェイアン。

 隆々とした体躯を持った荒々しい大男・バトナス。

 継ぎ接ぎだらけのパペットを抱いた少女・エクリレーヌ。

 彼らは点在する分厚い硝子のような足場の上で、その静かに響いてくる声に跪いて耳を傾

けている。

「申し訳ありません。よもやあのような伏兵だとは斥候役の兵だけでは把握できず……」

『構わぬ。少なくとも六振りの内半分を回収できたのだ。上々とするがよい』

「はっ……」

 そんな低頭するフェイアン達に相対するのは、巨大な光球だった。

 マナの束が支柱の如く周囲を巡る中に鎮座するようにそれは中空に浮かんでおり、淡い紫

の光を揺らめかせながら静かに瞬きつつ、一人の男性──耳にする限りは老年らしき──声

を発している。

「ですが、どうします? もう一度体勢を整え直して残りを奪取に向かいましょうか? 今

度こそ邪魔な奴らは全員ぶっ潰して」

『その必要はない。目的は護皇六華であってそれを所有している者達ではないのだぞ』

「……す、すいません」

「そーだよ? “教主”様の言う通り。バトちゃんはいつも突っ走っちゃうんだもん」

「ぬぅ。任務ほったらかして遊ぶような奴に……あぁっ、止めだ止め! 埒が明かねぇ」

 予期せず退く形になったことが気に入らないままだったのだろう。バトナスは光球の主に

向かってそう進言しようとするが、彼はその言葉を遮り静かに諫めた。

 バトナスのような荒々しい好戦者すらも従える者。

 その光球の主──“教主”は暫しやり取りを交わすバトナスらを無言で眺めているかのよ

うにも見える。

『……ところで、レノヴィン一行のその後はどうなっている?』

「はい。目下残存の兵で追尾させておりますが、どうやら皇国トナンへ向かうつもりのようです」

「らしいな。でもそうなると色々面倒だぜ? あっちは……」

『うむ。護皇六華の出所に手掛かりを求めるつもりなのであろうが、そうなると我らの務め

に支障を来すやもしれぬ』

「ですよねぇ。でも生憎、俺達のとこには今充分な人形がいませんぜ? 竜帝の野郎にごっ

そりもっていかれちまったんで……」

 バトナスがごちるのを合図にするように、フェイアン達は暫し黙り込んだ。

 しんと静謐な空間にマナの色彩が変遷する。三人は目して漂う“教主”の応答を待つよう

にしてやや上目遣いに視線を送る。

『……ルギス。オートマタ兵の生産状況はどうなっている?』

「はいですねェ。現在発注数のおよそ五割になっておりますよォ?」

 すると次の瞬間、“教主”のそんな問い掛けを待っていたかのようにフッと薄暗さの中か

ら一人の人影が現れて答えた。

 痩せぎすの長身に撫で付けた褪せた金髪。ヨレヨレの白衣を引っ掛け、分厚い眼鏡の眼光

を怪しく光らせて笑うその声色は「奇人」のそれと言って差し支えないだろう。

 ふへへと、不気味な引き攣り笑い。

 そんな彼・ルギスにバトナスが片眉を若干しかめつつ悪態をつく。

「まだ半分なのかよ。もっと早く用意できねぇのか? “博士”の称号は飾りかよ?」

「はははァ、あまり無茶を言わないでくれたまェ。いくら無尽蔵に製造可能であるとはいえ

被造人オートマタもまた魔導の産物なのだよォ。これでもラインをフル稼働させているのだがねェ」

「……つまり、まだバトナスの言ったような兵力に物を言わせて強襲するという手は使えな

いと考えた方がいいね」

「んー。何なら他の連中から分けて貰うか?」

「冗談を。そんな真似、スマートじゃないじゃないか。任務といえど常に優雅に、だよ?」

 フェイアンが気障ったらしく髪を撫でて言ってみせるのを、バトナスは横目で鼻で笑って

いた。その間にも、時折ルギスは何やら腕に巻いた端末を操作している。

 そしてそんないがみ合う二人を制するかのように、やがて“教主”は静かに告げた。

『そうだな。できる限り各方面での計画に綻びが出るのは避けるべきだろう』

 フェイアン達がはたと彼に向き直り、低頭してその言葉を受ける。

 静かに濃淡と共に瞬く紫の光球。

 数拍の間を置いて、

『使徒フェイアン、バトナス、エクリレーヌ。それでは改めて命じる。レノヴィン一行から

の残り三本の回収を図り、その行動を阻害せよ。併行して皇国トナン方面の“使徒”らと合流し此

度の計画の成就を図るのだ』

 厳粛な声色で告げられる“教主”の命。

「はっ」「了解です」「任せて~」

 フェイアン達は更なる低頭を以ってその指令を承っていた。

 同じく数拍、深々と下げた頭を垂れると、三人は勢いよく立ち上がり出立しようとする。

「そうだ。エクリレーヌ」

「? な~に?」

 だが颯爽と踵を返そうとしたちょうどその時、フェイアンはふと何かを思い巡らせたかの

ように不敵に微笑むと、

「……ちょっと君には別な“お遣い”を頼みたいんだけど、いいかな?」

 そうこのパペットを抱いた魔なる幼女にそんな言葉を向けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ