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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-66.御遣い達の輪舞曲(ロンド)
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66-(4) 混迷の武祭

「──陛下、これは……」

「うむ。何故“神”までが彼らを……?」

「──おいおいおい……。一体何がどうなってるんだよ? とにかくお前ら、至急統務院に

繋げ。じきにハウゼンの爺さん達も連絡を取ってくる筈だ」

「はっ!」「直ちに!」

 天使ユリシズによるルール無視の殺害未遂。

 その一部始終は勿論、地底武闘会マスコリーダの一幕として確と世界中に配信されてしまっていた。

 恐怖と悲鳴、戸惑い。或いは事態を呑み込めぬが故の苛立ちから来る怒号。

 それはさながら散在するパンデミックのようだった。

「……ったく。神託御座オラクルの奴らは何考えてんだ……?」

 顕界ミドガルド四大国の王やシノ、レノヴィンの盟友達。

 クラン・ブルートバードに縁ある人々を始め、各地で人々は大いに混乱し、奔走する。


「団長!」「イセルナさん!」

 ユリシズの凶刃を辛うじてイセルナが止めた事により、ミアは首皮一枚ながら何とか命を

長らえる事ができた。

 彼女の飛翔・突撃によって破壊された通用ゲートを抜け、やや遅れてジークとアルス、エ

トナが地下の控え室から追いついて来た。ギリギリ……。その間も飛翔態のイセルナはユリ

シズの大剣を止め、一進一退の鍔迫り合いを続けている。

「ミアちゃん、を早くっ! こいつは……私が食い止めるッ!」

 三人と、痛みと無念で倒れたままのミアを背にイセルナは叫んだ。ジーク達は殆ど反射的

にコクと頷き、出血でかなり汚れ始めているこの友を救助しに掛かる。

「……ごめん。ボクは……」

「愚痴なら血ぃ止めてから幾らでも聞いてやる。だから、今は喋んな」

「とにかくここはイセルナさんに任せて! すぐに控え室へ連れて行きます!」

 朦朧とした意識。だがそれでも詫びが真っ先に出るのは、生真面目な彼女だからこそか。

 だが敢えてジークはそんな言葉を遮るように彼女の両肩に手を回した。アルスも、兄ほど

ではないにせよ消耗を諌め、彼女の両脚を持ち上げる。

「ジーク……。アル、ス……」

 そこでミアの意識は途絶えた。兄弟が、それとほぼ同時に彼女を担ぎ上げて一目散に来た

道を駆け出していく。


「──天使エンゼルだと? そんな情報、選手登録の際には何も載っていなかった」

「は、はい。種族は人族ヒューネス、出身は器界マルクトゥムのコートルーフ。神の尖兵だのという申告は一切書か

れていません」

「おそらくは神の中にレノヴィン一派を狙う者が──“結社”と関係を持っている者がいる

のではないかと。ただの邪推だと、信じたいのですが……」

 映像越しに見る甚大なアクシデント。本棟上階より見下ろすコロセウムの全景。

 ウルは現在進行形のその映像と、部下達から寄せられる報告を受け、深く深く眉間に皺を

刻み込んでいた。

 強烈な威圧感だ。そのあまりの不機嫌さ・怒り様に、さしもの部下達もとばっちりを恐れ

てビクビクとしている。

「……先ずは何よりも観客達の避難誘導だ。現場の人員総出で本棟へ逃がせ。地下の非常用

シェルターに取りあえず収容するぞ。今日の試合は中止だ。奴は失格だ。そもそもに身分を

偽り、場外での殺害を企てた。このコロセウムの秩序ルールに真っ向から喧嘩を売って来やがった

んだ」

 全く、年に一度の興行が台無しだ……。

 言いながら、彼は一度深く葉巻に火を点け、吹かした。部下達が立ち止まっている。それ

をぎろりとウルは睨み、彼らを慌てて動かさせる。

「それと、奴の主を探せ。基本、天使エンゼルは戦闘に特化しているが、その他の能力はどんどん磨

耗していくからな。指示を出している神格種ヘヴンズがいる筈だ。躊躇うな、捕まえろ。奴を止めて

イセルナ・カートンを救う」

『……』

「何をしている、行け!」

『は、はい~っ!』


「皇子! 此処に居ましたか」

「ウゲツさん。それに……ディアモント?」

「ああ。嬢ちゃんは大丈夫か? 血ぃ、だばだば出てんぞ?」

「は、はい。すぐに医務官さん達に手当を頼もうと。多分ダンさん──ミアさんのお父さん

達もあれを見てこっちに向かって来てると思いますけど……」

 ミアを抱え控え室に舞い戻ったジークとアルス、エトナは、ちょうど同じく上階から降り

て来ていたウゲツ隊や彼らと話し込んでいたディアモントに声を掛けられた。

 じろり。一方でエイカーは我関せずと言わんばかりに、しかし五月蝿いぞとも言わんばか

りに椅子に持たれかかって暇を持て余している。ジーク達はムッとした。だが今は彼に説教

をしている場合ではない。互いに情報を交換して、とにかくミアとイセルナ、そして暴走し

始めたユリシズを止めなければ。

「それなんだがな。嬢ちゃんと別件でウル・ラポーネがあの天使野郎のご主人様を捕まえて

くれって言ってきてるんだ。まだこのコロセウムの何処かに、あいつに指示を出してる神が

いる筈なんだとよ」

「そこで、皇子達にも助力を願おうと。マーフィ殿らには先ほど部下達を伝令に走らせまし

た。手分けしてこの混乱を収拾したいと思います」

「嗚呼そうか、親玉がいるのか……。なら是非もねえ、俺で良ければ手を貸すぜ。アルス、

エトナ。悪いがミアを……」

「うん、分かった。レナさんやリュカ先生が合流して来れば傷を塞ぐ事は出来ると思う」

「ああ……。頼む」

 そしてウゲツ達──ウルからの要請で、ジークは別行動中の仲間達と共にユリシズの主神

を捜す事になった。ミアの事はアルスや駆けつけた医務官達に任せ、彼は早速同隊と、協力

を申し出てきたディアモントと共に階段を駆け上がっていく。


「──連中の神、か。余計な真似を……」

 故に、彼らは知る由もない。

 そんなコロセウムを覆いだしたにわかの混乱の中、密かにフードの男が小さく舌打ちをし

ながら踵を返し、歩き出して行ったことを。

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