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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-65.凛として力(こころ)咲く
406/434

65-(3) 比翼の炎雷

『皆さまお待たせしました! 後半戦、開始ですっ!』

 結局各リングの復旧作業には午前を丸々、大きく越えて掛かったようだ。

 大抵の人々が昼休憩も済ませた十四大刻ディクロ

 コロセウムの四方四つの会場は、再び満員の観客達で溢れ返っている。

『さあ、それでは早速入場して貰いましょう! 第五から第八ブロックの選手達です!』

 おぉぉぉ──ッ!! 既に観客達のボルテージは上がり調子だ。

 各リングで実況役のアナウンサーが叫び、地下からの扉が口を開くと、続々と予選後半の

選手達がやって来る。

『──』

 北棟・第五ブロック。剛の者達に交じり、得物を担いだダンとグノーシュが嗤っていた。

 東棟・第六ブロック。やはり目を引くのは、第二皇子アルスとその仲間達か。

 南棟・第七ブロック。唯一ブルートバードの面子がいない中、各々が静かな殺気を纏う。

 西棟・第八ブロック。歴戦の戦士達の中にあって、イセルナの存在感は静かで鋭利だ。

「いよいよだね」

 一方でリオ達観戦組も、既にスタンバイ完了済だ。

 順にクロム班・ブレア班・リオ班に分かれ、仲間達がしっかり見える位置に陣取る。第五

ブロックで試合開始の時を待つステラも、じっと目を閉じ座っているクロムの横でそう若干

緊張気味に呟いている。

「……?」

 ふと、同じく同席するミアが何者かの視線を感じた。すぐさま眉間に皺を寄せつつ、その

主を人まみれの観客席の中から探す。

「? ミア、どったの?」

「……。ううん、何でもない」

 気のせいか……?

 されどこちらの様子に気付いたステラに声を掛けられ、どうせこんな大人数の中からそれ

を見つけ出すのは困難だと思い直し、程なくしてミアは警戒心を脇に置いた。

『既に前半戦を観戦の方もいらっしゃるでしょうが、念の為。本日第一日目は予選──各ブ

ロック毎によるバトルロイヤル方式となっております。ダウンから三十細刻セークロが経つか、リング

外に出てしまった時点でその選手は失格となります!』

『さてさて、後半戦は一体どのような戦いが繰り広げられるのでしょうか? 前半第四ブロ

ックではジーク・レノヴィン選手の強烈な一撃がありましたが、こちらでもクラン・ブルー

トバードは台風の目になるのか? はたまたもっと別のスターが生まれるのでしょうか?』

 互いに映像と声を中継し合い、アナウンサー達が直前まで興奮を煽っている。

 観客達は目を輝かせ、今か今かとその時を待っていた。

 映像越しに彼ら四人が目配せを。各リングの上では既に選手達がスタンバイを。

 大会本部からの通信しじが飛ぶ。一斉に、四人のアナウンサー達が叫んだ。

『それでは、選手各位、準備は宜しいでしょうか?』

『大会一日目、予選後半戦──開始スタートッ!』

 ゴゥン……ッ! そして実況席横の係員達が、大きなドラを鳴らしてその開戦の火蓋を切

って落とした。刹那、観客達の沸き上がる声に呑まれながら、選手達が一斉に地面を蹴って

互いにぶつかり合っていく。

「グノ。それじゃあ、打ち合わせ通りに」

「ああ。“たくさんぶっ飛ばした方が本選に出るかち”な!」

 勿論その中には、ダンとグノーシュも交じっていた。戦斧と幅広剣。それぞれ得物を振り

被りながら、怒号轟く戦塵の中へと突っ込んでいく。

『──色装!』

 その、次の瞬間だった。二人が全身にオーラを滾らせたその直後、それぞれの身体が突然

燃え盛る炎と迸る雷に包まれたのだ。

「なっ?!」

「“紅猫”と……“狼軍”!」

 にわかに眩しくなった視界に思わず振り向く。

 だが次のタイミングには、この足を止めてしまった戦士達はそのまま駆け抜けていく二人

の猛攻の前にあっという間に沈んでしまう。

「あぢっ、あぢぢ……ッ!?」

「燃え……燃えてる!!」

「あばばば……。身体、が、痺れ……」

 どうどうと次々に倒れていく最初の犠牲者達。何を隠そう、これが二人の色装だった。

 オーラを火炎に変える《炎》の色装と、オーラを雷撃に変える《雷》の色装。どちらも典

型的な変化型である。

 だが、典型的──単純である故に明快、故に強い。

 まさしく疾走する凶器となったダンとグノーシュを前に、これにまともな一撃を入れられ

る者はいなかった。

 剣に槍に。果敢にも錬氣を纏って挑みかかる者達こそいたが、それも炎と雷のオーラに阻

まれ、気付けば鋭い一閃の下に切り伏せられている。

「くそっ!」

「吹き飛ばしてやる!」

 銃使いと魔導師が十数人、二人と止めようと一斉に攻撃を撃ち込んできた。銃弾と水や風

の魔導が四方八方から飛んで来る。

「邪魔だっ!」

「どけぇーッ!」

 しかし銃弾はやはりダンの《炎》に呑まれて溶け、グノーシュの《雷》に叩き落された。

撃ち込まれた魔導も水ですらあっという間に消火できずに蒸発し、荒れ狂って舞う雷撃は多

少の風などものともせずに掻き消してしまう。

『うぎゃァァァーッ!!』

「ひぃっ!? だ、駄目だ、全然通ってねえ!」

「逃げろォー! 間合いに入っちまったらお終いだぞ!」


「……やっぱりこうなった」

 端的に言うならば、炎と雷を纏った男達による鬼ごっこ。

 観客席の一角でそんな父と小父おじの戦いぶりを観ながら、ミアは心なしジト目でこの戦況に

対して呟いていた。

「何かもう、他の人達が可哀相になってくるよね……」

「色装をモノにしているかどうかで見れば合格だがな。かといって、あまりその能力を過信

していると思いもかけない目に遭うぞ」

 リングの上では、変化させたオーラを纏った二人が混戦する他の選手達の中へと突っ込ん

でいき、これを互いに千切っては投げ千切っては投げしていた。

 どうやら二人の間で、撃破数に応じてどちらが本選に進むかを決める算段のようだ。

 ミアはやれやれと額を押さえて頭を振っている。確かに無闇な潰し合いをするよりはマシだ

が、あの二人をして自分達ブルートバードがあたかも戦闘狂集団のように思われてしまうの

も困る。

「──何だ。もう掛かって来ないのか? ほれ、俺達を取れば名も挙がるぞ?」

「ダン、もう駄目っぽいぞ。完全の他の連中、引け腰になってやがる」

 だからか、ある程度戦況を引っ掻き回し続けていると、わざわざ二人に向かっていく者達

は出なくなってしまった。

 一応それぞれオーラを纏ったまま、二人は戦斧を幅広剣を肩に担いでポンポンと軽く叩き

ながら周囲を見渡す。

「あんな事言ってるけど……どうする?」

「馬っ鹿。無理に決まってるだろ。あの尋常じゃないオーラ、どうやって破れってんだよ」

「とりあえず距離を取ろう。もう他の奴も、確実な奴からヤりに掛かってる」

 他の選手達は、一方でそうヒソヒソと相談しつつも、もう一方では既にダンとグノーシュ

から離れ、比較的安全(?)な一騎打ちや集団戦に移っていた。

 う~む……。ジト目になってダンが唸っている。グノーシュも、はてさてどうしたものか

と顎を擦っていた。

「……どうする? これ」

「どうするも何も、相手にその気が無いのに問答無用ってのもなあ。まぁ本選に出る為には

どのみち潰さなきゃいけねぇけど……」

 ちらり。背後周囲で消し炭よろしく倒れている選手達を二人は見つめた。

 ひい、ふー……。数えてみるが、はて? こいつはどっちが倒した奴だっけ……?

『……』

 倒れたライバル達を見て、遠巻きに警戒するライバル達を見る。

 するとダンとグノーシュは、互いに顔を見合わせるとニッと嗤い合った。

「仕方ねえな。じゃあ」

「先にどっちかを決めますか」

 轟。更に巨大な炎のオーラが、ダンとその握る戦斧を中心に渦巻き出す。

 轟。迸る雷のオーラは一層激しくなり、ザワッと顕現した持ち霊ジヴォルフ達もそんなグノーシュの

色装に影響されているのか、より大きく強く輝く雷獣に進化している。

 この余波でまた他の戦士達が巻き込まれ出す。

 直接かち合うのが手間になってきたのなら、ついで位でちょうどいい。

 ひぃぃ……! 彼らが悲鳴を上げている。

 ダンとグノーシュは、そのまま互いの得物とオーラを思い切りぶつけ合おうとし──。

『──っ?!』

 だが、次の瞬間だったのである。ダンとグノーシュを中心としたこの選手一団が二人の力

に呑まれそうになったその時、突然彼らは残像を残して消えうせ、気付けばその足はストン

とリング外へと出てしまっていたのだった。

「あ、あれ?」

「え? 俺達、さっきまで、戦って……」

 肩透かしと驚きと。しかしダン達一同は、すぐに今起こった事が単なるアクシンデトでは

ないと知ることになる。

 悲鳴が聞こえたのだった。次の瞬間、リング上に残っていたまだ若干の戦士達が、そこへ

地面を蹴って駆けた一人の人物によって一閃されたのを見たのだった。

「──」

 どさどさと倒れた彼ら。その中で冷淡とも言えるほど静かに佇んでいる一人の戦士。

 見てみれば未だ歳若い少女のようだった。中型の剣と盾を持ち、片目を覆い隠すような形

のハーフヘルムを被っている。

『おおお!? これは、これは一体どういう事だ? 一瞬にして三百人近くの選手が突然の

リングアウト! 残っていた選手達もあっという間に倒されてしまったー!』

 ざわざわ……。実況役のアナウンサーは勿論、ミアらを含めた観客達が混乱している。

 それだけ一瞬の事だったのだ。ほんの一瞬、ダンとグノーシュの直接対決に目を奪われて

いたその僅かな間に、このハーフヘルムの少女は大逆転を演じてみせたのだった。

「クロム。これって……」

「……ああ。おそらく転移魔導の一種だ。転座の法リプレイスか」

 しかし、詠唱している様子は無かったが……。確認するように問うてくるステラ、そして

ミアに応えながら、クロムはじっと思案していた。

『ええと──。しょ、勝負ありです! まさかまさかの大逆転から勝利を掴み取ったのは、

ハーフヘルムの少女戦士・キャメル選手です!』

 そして、弾かれたような歓声と、未だ事態を把握し切れていない者達の戸惑い。

 予選後半戦の一つ。

 謎多きまま、北棟・第五ブロックは、まさかのダン・グノーシュ両名の脱落という結末で

幕を閉じたのだった。

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