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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-64.矛と盾と、爆ぜる成果(ちから)
395/434

64-(0) 集大成へ

「……マスコ、リーダ?」

 リオの投げかけたその一言が、宴の余韻に浸っていた場の面々をサァッと現実へと引き戻

していた。

 皆が目を瞬き、或いは互いに顔を見合わせる。

 中にはダンやイセルナ、グノーシュ、リカルド──冒険者として先輩な面々が言葉はなく

とも「ああ、あれか」と言わんばかりに視線を上に、思い出すような仕草をしていたが、皆

を代表してジークがこのフレーズを反復する。

「“地底武闘会マスコリーダ”──魔界パンデモニムの都ラグナオーツで毎年この時期に開催されている総合武術大会

だ。非合法なものを除けば、俺の知る限り数も質も世界で一・二を争う大会だ。お前達のこの

二年の成果を、あそこで見極めたいと思う」

 ざわ……。皆が、団員達が息を呑み、緊張するのが分かった。

 夢見心地はもう終わりだ。さもそのように、酒で朱に染まった彼らの表情かおが引き締まる。

「誰でも構わない。優勝してみせろ。それくらいでないと“結社”という規格外の敵と渡り

合うには命がいくらあっても足りないからな」

「それは、そうッスけど……」

「だ、大丈夫かな? そりゃあ俺達も二年前に比べて大分強くはなったと思うけど……」

「その辺は実際かち合ってみねぇと分からんさ。でもまさか俺達全員でって訳にはいかねぇ

よな? なまじ有名になっちまってる。余計に混雑するし、迷惑になるんじゃねぇか?」

「それに、人数だけを投入すればいいというものではないわ。目的が優勝なら、遅かれ早か

れ仲間同士で潰し合う事になるものね」

「ああ。だから参加メンバーは絞ってもらう。ジークやお前達──クランの中核メンバーが

出場すれでればいい。他の面子は、また後日個別に見極める」

 加えて設定されたハードルはいきなり高いように思えた。団員達に不安の声が漏れる。

 それでもダンやイセルナ、皆のリーダーの疑問に、リオは予め用意していたかのようにそ

う答える。少数精鋭。それは無用な混乱を避けるだけではなく、単純に数で攻め立てて確率

を上げるような姑息を許さぬという意味合いもあるのだろう。

「……どうする? 無理にとは言わんが」

 言って、されどリオは静かに腕を組んでジーク達を睥睨していた。それまでの愉しみが嘘

のようにテーブルに残った料理の皿や酒、壁周りの飾りが何処となくちょこんと遠く置き去

りにされて佇んでいる。

『──』

 団員達は互いに顔を見合わせていた。それはおそらく、戸惑いという感情ものだ。

 何となく誰もが解っている。きっとこれは修行の終わり、モラトリアムの終わり。今宵の

宴すら遠い日の思い出になっていくもの。

 少なからぬ者がイセルナやダン、幹部メンバー達を見ていた。

 恐れていないと言えば嘘になる。だけども彼らが往くと決めるのなら、自分達は何処まで

もついていくつもりだ。

「……ああ。勿論、行くよ」

 そんな中で、最初に返事を口にしたのはジークだった。

 不安が過ぎっていたのは始めの内だけ。皆がハッと視線を向けたその横顔は、何処か不敵

な笑みすら作ろうとしているかのように見える。

「団長、副団長。出場してでて、いいよな?」

「ええ。他でもない貴方がそう望むなら」

「大体ここまでお膳立てされておいて逃げる俺達だと思ったか? 存分に暴れようぜ!」

 応ッ! イセルナの、ダンの呵々とした笑いに団員達は一斉に声を上げた。

 不安はある。だけども皆、やっぱり本質は冒険者あらくれなのだ。

「……了解した」

 フッ。少しだけ、ほんの少しだけ嗤ったような気がした。

 やれやれ。調子づく面々に苦笑するシフォンやハロルドを横目に、そうリオはじっと腕を

組んだままの姿で瞳を閉じたのだった。

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