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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-63.モラトリアムが終わる時
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63-(2) 区切り、想々(後編)

 リンファの携行端末を借り、合格の旨を兄達に連絡したら、導話の向こうで皆が大はしゃ

ぎしていた。

 おめでとう! よくやった! よぅし、今夜は宴会だ──! 案の定の反応が返ってきた

事もあり、ついアルスは端末に耳を宛がったまま苦笑いを零したものだ。

 今頃は皆で準備をしているのだろうか。イヨさんが本国トナンに追って連絡するそうなので、母

さんと父さんも喜んでくれるかなと思う。

「……」

 キャンパス内。講義同士に空き時間あるので、アルスは中庭の一角でじっと魔導書を読み

込みながら時間を潰していた。初秋の風が少し冷たさすら孕んで心地いい。近くの木の傍で

はじっとリンファが背を預け、警護に当たってくれている。

『ああ、勿論行くぜ』

『右に同じく。でも両陛下や伯達か……流石に緊張するかな……』

『普段散々私に毒を吐いておいて、何を今更』

 今夜はシンシアのそれも兼ねている。当然のようにフィデロとルイス、ブレアも誘い、快

諾して貰えた。映像越しとはいえ、現トナン皇夫妻・エイルフィード伯・フォンテイン侯と

本物の貴族が揃う事からルイスは若干畏まっていたようだが。

 まだ今日は午後の分の講義が残っているが、内心頭の中は今夜の祝賀会でいっぱいになり

つつあった。この二年、修行と公務を行ったり来たりで中々気安い会食というのが少なかっ

た事も後押ししていると思う。

 ふふ。思わず緩む頬。

 だいぶ過ごし易くなった秋の気配に任せ、くぅくぅと中空で寝息を立てているエトナ。

 だがしかし……当のアルスはすぐにそんな自身の気の緩みを戒める。ぎゅっと、唇を結ん

でさもわざと、自分達に迫る影を意識しようとする。

 ──この二年。それは即ちモラトリアムだった。リオの話では兄達が特務軍に編入される

までの猶予。それまでに色装をものにさせる、より確かな戦力とする……。

 何も事態は好転していないのだ。自分達は、守られていただけ。

 新聞や導信網マギネットでも繰り返し目にしている。大都消失事件あのひ以来、“結社”の攻勢は強まるば

かりだ。当初の予測、懸念の通り、各国が所蔵する聖浄器を狙って奴らの軍勢があちこちで

「国盗り」を仕掛けてきている。

 中小の国々の中には、既に落ちてしまった所さえある。

 この二年は個人的にとても濃い、充実した日々だったが、そんな尚も続く因縁を見て見ぬ

ふりするほど自分は平和ボケしていないと思いたい。思わなければならない。

(それでも、兄さん達は僕を学院ここに留めるんだろうな……)

 戦地に、死地に向かう。

 きっと兄達は一層激しい戦いに巻き込まれるのだろう。一緒に戦いたい、支えたい。でも

立場や身分がそれを許さない。夢と現実がミチミチとこの身体を引き裂くかのように。

 リオやクロムには、兄達と共には学べなかった。

 でも自分も、飛び級という手段を勝ち取って色装(形質変化)を学ぶ事は出来た。自分の

持つ銘も解ったし、実戦での活用方法もいくつか組み立ててきた。繰り返してきたブレアと

の模擬戦でも、《燃》を加えたオーエンと互角に渡り合えるようになった。

 懸命に学び続けてきた二年間。

 魔獣と瘴気の研究者になり、少しでも悲劇に見舞われる人々を減らしたい。

 そんな夢を果たす前に、兄達が益々“結社”という巨悪とぶつからんとする現実。

 一体、僕はどんな距離で彼らと関わればいいのだろう──?

「……お昼にしよう」

 懐中時計を取り出し、時刻を確認した。午前の講義がそろそろ終わる。

 悶々とぶり返す思考を一旦振り払うようにアルスは呟き、ふるふると首を振りながら魔導

書を鞄の中にしまった。ぱちとエトナが寝惚け眼で目を覚まし、木陰のリンファもこちらを

見遣ってそっと動き出す。

「……」

 そんな時だった。

 がさりと足音を殺し、現れたのは──黒衣を揺らしこちらを見ているリオで。

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