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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-9.旧き者、拓かん者
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9-(0) 諍いの歴史

 ヒトの歴史とは、争いの歴史と言い換えることもできるだろうと思う。

 聖域・霊界エデンより始まったセカイの伸張と神々の乱立、創世の時代。

 神々からの独立を模索し、魔導という力を確立した古種族台頭の時代。

 特権的力となった魔導を人々に開放させしまんとし、争い混乱に落ちた改革の時代。

 混乱の中で成立した、穏健なる「神竜王朝」の勃興とのその滅亡に至るまでの時代。

 あらゆるセカイを巻き込み拡がった覇権を争う群雄割拠、空前絶後の乱世の時代。

 戦乱を統一した「ゴルガニア帝国」とその原動力たる機巧技術の大成、開拓の時代。

 だがそんな強権さゆえに人々の反旗によって滅ぼされ、再び混乱の中に落ちた時代。

 そして──そんな混乱を経て、各世界政府が樹立され今日に至るこの時代。

 どの時代にも、人々の争いがあった。

 旧来の姿に寄り添う者達と、そこから脱皮し新たな姿を希求する者達。

 往々にして彼らは相容れずにその懸隔こそが争いの火種となってしまう。歴史でも、個々

人の事であっても、現実に多くの争いはそうした“溝”が発端となることが多い。

 僕は……思ってならないのだ。

 どうしてヒトは、これほど共存することを難しくしてしまうのだろう。どうして相手の思

うそれらを許し、重んじることができないのだろう。

 何よりも──どうしてそんな現実を変えたいを願うことすら、許されないのだろう。


 僕は妖精族エルフの一部族の集落に生まれた。

 豊かな自然と古き良き伝統の中、僕らは静かに時を過ごしていた。

 でも時折そんな僕らの集落にも、ヒューネスなど他の種族が訪れることはあった。

 勿論、里があるのは天上界の一つ・古界パンゲアであり、現在身を置く地上ここ──顕界ミドガルドに比べれば

そう人々の出入りは多くなかったけれど。

 それでも異文化、外よりもたらされる刺激は、歳若かった僕には憧れだった。

 僕らの生きるセカイはこんなにも豊かさに満ちている。そんな未だ見ぬ地を思うだけで胸

が躍った。

 だけど……里の先達らはそんな交流すら快く思っていなかったらしい。

 僕ら里の若者が外からの商人らとやり取りを交わしているのを見かけるだけで咎め、彼ら

を時に力ずくで追い出すことさえあった。

『いいか、お前達。ゆめゆめ“秩序”を乱すな。我らはセカイの要素なのだ。その領分を弁

えず徒にセカイを掻き乱す輩に肩入れすることはあってはならぬ』

 長老らはそう何度も、耳にタコができる程に説教を繰り返した。

 あの頃は、外への憧れと若さでじゃじゃ馬だったのかもしれない。今の自分なら、あの頃

既に周りの同族なかま達から白い目で見られていた事にも気付けたかもしれない。

 でも……気付くのが遅かった。もう、取り返しがつかない程に。

 だから僕は故郷を出た。

 これ以上、僕の思いで誰かが傷付くのが怖かったから。これ以上、大切な人達を危険に晒

したくなかったから。

 悔しかったけど……里を捨てるしか、なかった。


 長い旅路だったと思う。

 パンゲアをぐるりと巡っても同志は中々見つからず、やがて僕らは地上界に降りた。

 そこでようやく、僕らは長老達の言葉が指す「負」を知った。

 豊かさ。だがそれは必ずしも皆が幸せになるそれではなかったのだ。

 機械が轟音を上げ、魔導が連発され、精霊達が疲労を訴えている。それでも人々は何食わ

ぬ顔でその犠牲の上に成り立つ限定的な繁栄を謳歌しているように見えた。

 だがそれでも、心が百八十度回ってヒューネスらを憎まずに済む事ができたのは……間違

いなくイセルナ達との出会いがあったからなのだろう。

 冒険者。汚名を着せられても、大義を信じて戦うその姿は眩しかった。

 そして皆と出会い、共に時間を共有していく中で、僕は……ようやく腰を落ち着ける場所

を見つけたように思えた。心の、底から。

 クラン・ブルートバード。

 イセルナを団長に擁き、ブルートの名を冠し、仲間達と共に打ち立てた僕らの居場所。

 十数年。エルフの僕には瞬き程度にしかならない時間の筈なのに、とても心穏やかな時間

であることに疑いはなかった。

 イセルナやダン、ハロルドにリン。そして少々ぶっきらぼうな友・ジークに、団員達。

 皆が、僕に居場所をくれた。里を捨て、居場所を失くした僕に安住の地をくれた。

 だから……守ってみせる。今度こそ僕の手で。

 何とも因果な巡り合わせじゃないか。……そうだろう? 楽園エデンの眼。

 だが、たとえ相手がお前達であってでも。

 ジークを仲間を手に掛けようとしたその所業──決して僕は、赦しはしない。

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