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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-59.汝は正しきものなりや
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59-(5) 君を守る

「おぉぉぉぉーーッ!!」

 全身にオーラを滾らせ、ヘルゼルが瞬く間に巨大な合成獣キマイラに化け変じた。

 獅子と山羊、鷲という三つの顔と、四肢・毒蛇の尾・翼。天井ギリギリにその背を曲げな

がら彼はジーク達を睥睨し、その両脇をセシルとヒルダ、ヘイトがクロムの牢を目指し駆け

抜ける。

「させるかよ!」

「ジーク、君はクロムを守れ。僕らはあのデカブツを止める」

 合成獣ヘルゼルの獅子の前脚が振るわれた。そこにサフレが、ミアが前に出ると槍先を射出し、

渾身の拳をぶつけるが……何故かその攻撃は手応えもなく巨脚の軌道をなぞる。

 目を見開く二人。だがヘルゼルはそんな彼らを不敵に見下し、更に二撃目・三撃目とその

巨体を振るい始める。

「堅く結べ、緑柳!」

 瘴気のオーラを纏って突撃してくるセシルとヒルダを、ジークは懐から抜き放った防御の

六華で辛うじて防いでいた。クロムの牢に立ちはだかるように、ジークは彼らの間に割って

仁王立つ。

「……団長から聞いてるぜ。お前が瘴気使いの魔人メアだな?」

「ふん……」

 多角形にドーム状の結界を作る緑色の光。ギチギチと互いの力がしのぎを削る。

 だがそれすらも、セシルは叩き付けた剣先から伝わせる瘴気でじわじわと溶かしていた。

 気を抜けば一気に崩される……。防いでみせたのも束の間、魔力マナを込めるジークの表情が

次第に苦しいものになっていく。

「死ねぇ! クロム!!」

 そしてその横っ腹を縫うように、ヘイトが両手から何本もの魔流ストリームの錨を引っ下げながら

突撃しようとしていた。

 ジークが、獄卒らを逃がそうとしていた他の仲間達が、手の回らぬその身を一瞬悔いたよ

うにハッと見遣る。

「──どっ、せいッ!」

 しかし間一髪、その凶刃は防がれた。

 炎と化したオーラを纏うダンの振り抜いた斧に叩き切られ、その瞳にオーラを集中させた

エリウッドの正確無比な銃弾に射抜かれ、魔流ストリームの錨が空中分解したのだ。

「そうはさせねぇぜ? 坊主」

「殺させない。少なくともお前達には……」

 ジークらが安堵し、直後またそれぞれに迎撃と避難誘導に努める。

 ダンがオーラの炎を揺らして嗤っていた。エリウッドがその横でガバメントの銃口を真っ

直ぐヘイトの額に合わせていた。レジーナが、皆と獄卒達を逃がそうと迂回しながら、複雑

な表情でこれを見ている。

「ちっ……。邪魔すんじゃねぇよ。てめぇらも纏めてぶち殺すぞ」


(どうも妙ね……)

 三手に分かれたジーク達を遠巻きに、リュカはその様子を訝しげに観ていた。

 ヘルゼルである。巨大な合成獣キマイラに変じた彼の攻撃に、彼女は不審な点を見つけていたのだ。

 おかしい。あれだけの巨体に変身したのに、その利点をあまり活かしていない。

 ここは空間が限られている地下牢だ。ならばその巨体で一気に二人を押し潰してしまえば

済むものを、奴は腕(厳密には脚)や尾を薙ぎ払って攻撃するだけで、小回りの利くサフレ

やミアを捉え切れていない。

 二人は先程からずっと、手応えの無い刺突や魔導具、拳や蹴りを打ち込み続けている。

 マルタは少し離れた場所から、必死に戦歌マーチを奏でて二人の身体能力を強化し、サポートを

続けている。

「リュカさん?」

 ふとレジーナが呼び掛けてきた。怯えている事は自覚せど、このまま現場を放棄して逃げ

る事にも躊躇いを感じて避難が疎らになり、遅れる獄卒らを促すオズからも。

 リュカは少し苦笑いを零した。『そこの連中を逃がしてくれ!』そう言って地面を蹴った

ジークをダン達を一瞥し、改めて思考を落ち着かせる。

「──サフレ君、ミアちゃん、マルタちゃん! そいつの変身は幻よ! 幻術だわ! その

巨体で床が軋みも壊れもしてない事自体、不自然なの!」

『えっ?』

「で、でも! マスターもミアさんも、頬や腕に擦り傷が……」

「身体が錯覚してるのよ。高度な幻術は、時に偽物だけで人を殺すことだって出来る!」

 何度目かの攻撃をかわしながら、サフレ達が驚いたようにこちらを見遣っていた。

 頭上で、合成獣キマイラの姿なヘルゼルが不興とした表情で見下ろしている。リュカは両拳を胸元

に添えて断言した。

 そもそも奴はウゲツに“化けて”いたのだ。

 物理的な変装ではない。呪文も唱えていなかった。となれば、相手の「認識」を逆手に取

る類の能力でなければ説明がつかない。

「そうか。道理でダメージが通らない筈だ」

「ありがとう、リュカさん。……嫌な相手」

「……だがどうする? 俺の幻はお前の言うように人を殺せるぞ? どれだけ偽物だと上っ

面の意識で念じても、心身の深みがそうと思わなければ──」

 しかしその時だった。それでも防げはしないと不敵に笑うその額を、刹那一条のレーザー

が撃ち抜いたのだ。

 ヘルゼルを通り抜け、天井に当たって爆発するエネルギー。

 少なからず崩れ落ちてきた瓦礫に慌てて皆が避ける中、そのレーザーを撃った張本人、機

械の掌から覗いた小さな穴を掲げて、オズが茜色のランプ眼を光らせている。

観測サーチモード・オン……。ソレナラバ私ガオ相手致シマショウ。機械ノ私ナラバソノヨウナ

誤魔化シハ通用シマセン」

 舌打ち。

 巨大な怪物まぼろしを纏うヘルゼルと、オズが睨み合う。

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