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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-7.ヒトとセカイの理
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7-(1) 迷いの兄弟

 イセルナの提案で、サフレとマルタの両名をクランの一員に抱え込んでから一夜。

 ジークはまだ少々身体に残る酔いと共に起床し、何時ものように廊下の途中にある手洗い

場へと足を運んでいた。

「よう。おはようさ~ん」

「おはよう。昨夜は寝れたか?」

 何時ものように、手洗い場には仲間達が集まり朝の身支度をしている光景がある。

 ジークが姿を見せると、彼らは何時ものように気安い挨拶を寄越してくれる。

「……ああ」

 だが、ジークにとっては何時ものようにはいられなかった。

 酔いの残り以上に心身を重くするもの。それは何よりも、昨夜自分達の身に起こったあの

襲撃事件──自身の愛刀を狙う存在がいるという事を知ってしまったからに他ならない。

 このまま朝食を取り、依頼をこなす動線故に今は六刀を身に付けてはいるが、そのもう慣

れ切った筈の鋼の重みが今朝は心なしか普段以上にずしりと身を引っ張るかのようだった。

 ぼんやりと受け答えをし、皆の中に混ざる。

「あ。兄さん……」

 そこには当然ながら、先に起きて同じく身支度をして顔を洗っていたアルスと、その傍ら

に漂っているエトナがいて。

「お、おぅ。おはよう」

「うん。お、おはよう……」

 ジークがその隣に立つと、アルスは何故かおどおどしたような、落ち着かないような様子

ながら、それでいて何時もの微笑を作ろうと努めているように思えた。

 内心頭に疑問符を浮かべつつも、ジークは正直弟のその変化に構ってやれる程の余裕を持

てていなかった。昨夜から、ずっと疑心が身体の中を這いずり回っていた。

 ──自分の刀はどうして封印などされていたのだろう? どうしてあの黒衣の一団は自分

達ですら知らなかった事実を把握していたのだろう?

「……」

 湧いては掻き乱し湧いては掻き乱してくる疑心を拭うように、ジークは蛇口を捻って強め

に水を出すと何度も冷たさを顔に叩き込んだ。

 それでも、ほんの一時的なもの。

 タオルに手を伸ばして顔を拭く頃にはまた同じように疑心や不安が纏わりついてくる。

(兄さん、やっぱり昨夜の事を気にしてるのかな……?)

 そんな兄の様子を、アルスも傍らで心配そうに見遣っていた。

 いや、この心配は……不安感は彼へのものか? それとも自身のものか? 多分きっと両

方が綯い交ぜになってしまっているのだろう。

 ただ悶々として落ち着かなくて。

 アルスはタオルに半分顔を埋めたまま、同じく思い悩む相棒エトナの背後からの視線を感じつつ

密かに苦しむ。

 ──エトナを契約解除しろすてろ

 それがブレアの提示してきた、自分の教官になってくれる為の条件だった。

 しかしアルスはその条件を呑む事などできなかった。

 幼い頃、まだ自分が他人よりも導力に恵まれている事が分かる前に故郷の森で出会った、

初めてのヒトに並び立つ人格を持つ精霊とも

 あの日、悔しさで狂いそうになった時も寄り添い、共に頑張ってきたそんなパートナーを

ようやく夢の入口に立てるようになった段階で切り捨てるなど……頷ける訳がなかった。

 それでもブレアの言うように、このままでは彼女を瘴気によって失ってしまうかもしれな

いという可能性は、最悪魔獣と化してしまうリスクは、否定しようもない事実だった。

 本当に彼女の事を思っているのならば。

 彼の言う通りにするのが、理に適った選択ではないのか──? そんな理屈が、訴える。

「……はむ」

 あれから日数だけが過ぎている。僕は、決めなければならないのに……。

 アルスはぐるぐると身体の中をのたうち回る迷いで重い気持ちになりながらも、のそりと

棚から自分のコップと歯ブラシを取り出すと歯を磨き始める。


 何時ものように朝食を摂りに酒場の方へを顔を出す。

 そこにはやはり、何時のように団員らがガヤガヤと冒険者らしい荒っぽさの中で雑談し、

食事を摂って店内に散在している光景があった。

 それぞれに思い煩いを抱えたまま、ジークとアルス(とエトナ)は互いを見合わせる余裕

もなく、ただ言葉少なげにテーブルに着く。

「おはようございます。はい、どうぞ。……それと、アルス君にはお弁当ね」

「……ああ」

「あ、はい。何時もありがとうございます」

 ややあってレナが二人分の朝食を運んで来てくれた。

 厚切りベーコンを乗せたパンにコーンスープ、山菜のサラダ。そしてホットミルク。緩く

適度に温められ、上がる香りが鼻をくすぐる。

 加えてアルスに手渡されたのは弁当包みだった。

 何日か前から始まったお昼の弁当習慣。アルスがぎこちなく小さく頭を下げて受け取るの

を見ると、レナはちらと肩越しにカウンター席にいたミア──この弁当を作ってくれている

本人を見遣り、優しく且つお節介気味に「やったね?」といった感じで微笑んでいた。

「あんまりのんびりしてたら、遅れるぞ」

「う、うん。そうだね。……いただきます」

 ミアは照れたように眉根を寄せて、給仕を終えてこちらに戻ってくるそんな友を見返して

いたが、ジークはそれでも意識は何処か上の空だった。

 ぼそっと一言、視線も向けずにパンを千切って口の中に放り込み始める兄。

 そんな横顔と声色にやはり気まずく、綯い交ぜになる物思いが心苦しく、アルスは苦笑い

を作りつつそれに続いた。

 何時も通りに丁寧に味付けされた、美味しい筈の料理。

 だがブレアからのあの言葉以来、こうした一時ですら気分が重く感じられてしまう。

「で、飯は基本的にこっちの酒場で摂るんだ」

「ハロルドさんが店主マスターをやってんだよ。うちのクランの副収入だな」

「俺達も回り持ちで何人かヘルプに入ってる。お前もここに慣れたら面子に入れるからな」

 そうしていると、また宿舎の方から店内に数名の団員らが入ってきた。

「分かった。料理……か」

「大丈夫ですよ。お手伝い程度ならマスターにもできます」

 そんな彼らが連れていたのは、サフレとマルタだった。

 どうやらクランの新人として皆にここでの生活を色々と教えて貰っている最中らしい。

 フリーランスの冒険者生活に自炊は馴染みがなかった(基本的に点々と宿を変えるため)

からか、サフレは少し不安そうに僅かに眉を顰めていた。そんな主を、ほんわりと微笑んで

マルタが励ましている。

(……主従、か)

 アルスはぼんやりとそんなフレーズを思いながら、もきゅもきゅとパンを咀嚼していた。

 自分も、エトナとは契約関係でいえば似たような間柄になるのかもしれない。

 ちらと視線を上げてそのエトナを見遣ってみる。彼女はやはり自分と同じくぼうっと物思

いをしていたようで、やや遅れてからこちらの視線に気付く。

「しかし……本当に良かったのかい? マルタ君と同じ部屋で」

 だがそんな場の雰囲気も次の瞬間、彼らの分の朝食をカウンター上に出しながらそう訊ね

てきたハロルドの言葉にはたとざわめく事となった。

「何ぃ!? 聞いてねぇぞ!?」 

「ほ、本当なのか? サフレ……?」

 団員らは知らなかった事らしい。彼らはハロルドのその一言を耳にすると、一斉にサフレ

へ詰め寄り始める。

「ああ。旅先でもそうして来た。宿代の節約にもなるしな」

「なんてこった……。折角の新しい女の子が、また本命持ちだなんて……」

「しかも既に金髪イケメンの毒牙に掛かっていた。欝だ……」

「失敬な言い方だな。マルタは僕の従者であって、そういう関係では」

「そうですよ? そもそも被造人わたしたちに生殖機能はありませんし」

「……マルタ。お前は少し黙っていくれ」

「ふぇ? でも事実ですよ?」

「それはそうだが……。た、頼むから誤解を招くような発言は……控えてくれ」

 サフレ自身は変に勘繰られることに眉を顰めていたが、むしろ当の彼女自身のヌケた言動

に苦慮していた。

 好意と忠誠があるからこそなのだろう。しかし彼は、頭に疑問符を浮かべつつも了承する

彼女に少し歯切れを悪くしている。

「……あんまりサフレを弄るもんじゃねぇよ。昨日の今日なんだ。先輩おれたちがいきなり寄っ

て集って困らせてどうすんだよ」

「う、うるせぇ! お前には……お前だけには言われたかねぇよぉぉ!」

「そうだよ、お前はいいよ。レナちゃんやミアちゃんや、ステラちゃんまで……ぐすん」

「……。何を言ってるのか分からんが、とりあえず八つ当たりされてるのは分かった」

 ジークがそんなやり取りを遠巻きに見てぽつりと苦言を呈していたが、逆にシンクロした

反応を皆に返されて心持ち逆襲されていた。

 理不尽な。そう言いたげに呆れ顔で押し黙ると、ジークはくいっとミルクを喉に流す。

「そういやジーク。お前、今日の予定空いてるか?」

 するとそれまでカウンター席に着いて一服をしていたダンが、ふと声を掛けてきた。

「ええ。空いてますよ。……ちょっと調べ物がしたくて」

「そうか。じゃあ飯食ったらサフレ達と一緒にギルドに行って、こいつのクラン参加申請を

して来てくれねぇか?」

「俺が、ですか? でもそういうのって団長とかが立ち会う方がいいんじゃ……」

「イセルナはリンを連れて病院に行ってる。ハロルドが回復魔導で傷を塞いだとはいえ、怪

我人には変わりないからな。俺も抱えてる依頼が立て込んでて時間が取れねぇし。そもそも

お前は発端だろ? 二人の面倒くらい見てやれ」

「そういう事なら……。了解ッス」

 ダンが椅子を回して話すその頼みを、ジークは頷いて受け入れていた。

 そんな二人のやり取りを、事の発端の片棒を担がされた者として、リンファを負傷させた

張本人としてサフレ(とマルタ)は言葉なくバツの悪い表情かおで見遣っている。

「なら、僕も同行しよう」

 そして一連のやり取りを見ていた、別席のシフォンもそう申し出た。

 食後の紅茶を嗜みながら、ゆったりと落ち着いた声色で言う。

「要は参加するクランの誰かが──特に古参メンバーが立ち会っているのが望ましいってい

う事だから。僕も創立メンバーだし、事務局の方からも難色は出ないと思うよ」

「それはありがてぇ。よろしく頼む」

 悩みの気色も、仕事の話となるとジークは表情を心持ち潜めさせられるように思えた。

 或いはそれだけ、今回の襲撃騒ぎの件で責任を感じているのかもしれない。

(責任、か……)

 アルスはそう兄達がやり取りをしている間にも食を進め、最後のパンの欠片を咀嚼し飲み

込んでいた。ぼんやりと、日々起こる事態に対処していく彼ら冒険者という存在が自分には

眩しく思える。

「アルス。そろそろ出ないと……時間」

「えっ。あ、本当ですね。そろそろ出ます。ごちそうさまでした」

「うん……後はボクが片付けておくから」

「はい。ありがとうございます」

 すると、レナと共に給仕に回っていたミアが少し逡巡しつつ声を掛けてきた。

 言われて懐中時計を取り出して確認してみれば、確かにそんな頃合。

 弁当包みを足元に置いていた鞄の中に詰め、持ち上げ肩に引っ掛ける。

「じゃあ……。行ってきます」

 そしてジークやミア、場のクランの皆の声に送り出されて。

 アルスはエトナを伴い小走りで駆け出しながら店を後にしてゆく。


 息が、歩みが弾む。しかしそれらは爽やかではなかった。

 ホームを出発してアウルベルツの街中を、ここ一月近くで通い慣れた学院への道を行く。

 大通りに差し掛かり、往来が増えてきたのに合わせるようにアルスは徐々に小走りの足を

緩めて徒歩になっていった。時刻はまだ朝方なのだが、通りには既に中々多くの人々がその

人の波という全体を作っている。

「……」

 往来の中で、そっと目を凝らしてみる。

 すると目に視えるのは、中空を漂う千差万別な精霊達の姿だ。

 一見すると何かのマスコットのような。比率的なことを考えても彼らは皆中級・下級の部

類に属する精霊達だろう。

 こうして人々が文明を営む中でも、彼らは確かにそこに在る。

「アル、ス……?」

 急に立ち止まってぼんやりし始めたからだろう。はたとエトナの控えめな心配の声が振っ

てきた。アルスは彼女を見上げ、静かに苦笑だけを返して再び歩き始める。

 色々と考え過ぎているのかもしれない。

 僕はただ、救いたかった。ヒトだとか精霊だとか……そんな線引き以前に。


 思えば、それはエトナと出会った頃には既に始まっていたように思う。

 故郷サンフェルノ近くの森。よく兄さんや村の皆と遊びに行っていた森。

 僕はその森が大好きだった。

 空気が美味しい、緑の豊かさが目に優しいというだけではなくて。

 そこにはたくさんの精霊達を視ることができたから。

 千差万別の姿をした生命いのちの化身達。

 だからなのだろう。皆の穏やかに漂う姿を見ていると、僕もまた心穏やかに微笑ましくな

ることができた。

 あの頃の僕はリュカ先生に教えて貰うまで、自分が見えているそのセカイが他の人には見

えていないという事に中々気付けなかった。

(……あ。またあの娘だ)

 時分はちょうど、リュカ先生に僕の導力を調べて貰った頃だったと思う。

 村の中で数少なかった“視える”僕は、森へ遊びに行く度にしばしば目にしていたものが

あった。

 それは、一人の女の子。

 踊り子風……といえば良いのだろうか。ふわりと若干余裕のある、上着と切り取り袖と腰

に巻きつけるタイプのミドルスカート。ちょっと当時の僕からすれば(今でも時々思うのだ

けど)露出が多いかなと思える格好だった。

 しかし何よりも気になったのは、彼女が淡い緑のオーラを纏っていたこと。

 そして──見かける時はいつも、森の中でも一際年季の入った大樹の上に座っていたとい

う点だった。

「……兄さん、皆。ちょっと待ってて」

「? おう」

 森を訪れその大樹の近くを通り掛かる度に見かけたその姿。……いつもぽつねんとして、

寂しそうにしていたその姿。

 だからあの日、僕は意を決して彼女に話し掛けてみたのだ。

「あの~。お姉さん、どうかしたんですか?」

 僕はあくまでごく普通にそう言ったつもりだったのだけど。

「えっ!? き、君。私のこと、視えてるの……?」

「は、はい。見かける度にいつも一人だから気になって……」

「……そ、そうなんだ」

 彼女はとても驚いていたようだった。

 だが僕が視える人間だと言葉の端から察してくれたようだった。目を見開いて僕──正確

にはその後ろで頭に疑問符を浮かべている兄さん達を含めた皆──を腰を降ろしていた枝の

上から暫く見下ろすと、彼女はふわりと重力などものともせずに舞い降りてくる。

 緑のオーラが綺麗だった。そして何より僕以外に彼女は見えていない。

 やっぱり……彼女は精霊だったのだ。それも、僕らヒトと大差ない姿をし、言葉もきちん

と口頭で通じる程の力を持つ。

「君……名前は?」

「えと。アルス・レノヴィンです。で、こっちが兄さんのジーク。それから──」

 僕と彼女はこうしてようやく接触を果たした。

 心なしか、自身の存在に気付いてくれた事に嬉しそうな表情かお。だから僕も勇気を出して話

し掛けてみてよかったと思えた。 

「……ねぇ。その、やっぱり君──アルス以外には私のこと、見えてないんだ?」

 でも彼女はフッとそう言ってやっぱり寂しそうで。

「は、はい……。僕の方が特殊みたいなんです。導力が他人よりも高めだから」

「アルス、さっきから何ぶつぶつ言ってんだよ~?」

「早く遊ぼうぜ~」

「待てよ。……アルス、そこに精霊がいるんだな?」

「うん。緑のお姉さんが一人、この樹から降りて来てくれた所」

 だから、僕は思った。

 痺れを切らしつつある皆を窘めてくれる兄さんに頷き返しながら思った。

 彼女は……独りだったんじゃないだろうか?

 勿論、他の精霊どうぞくもいっぱいいる。だけどこれだけ僕らと普通に話ができるだけの自我を備

えた精霊ともなれば、それだけではやはり寂しさを覚えてもおかしくない。

「……ねぇ、お姉さん。もし良かったら僕らと一緒に遊びませんか?」

 だから、僕はそう決心して語り掛けていた。

「え。でも、私……」

「大丈夫です。素人判断ですけど、これだけ話せればきっと顕現もできると思いますし」

「……う、うん」

 ケンゲン? 兄さん達は小首を傾げていた。

 でも僕には半ば直感的な確信があった。

 力ある──大抵の場合ヒト以上の自我も持っている精霊は、自分の意志でその姿を見せた

り消したりすることができる。魔導の入門書で得た知識だった。

 彼女は少し戸惑っていたものの、何度か両手を開いたり閉じたりしていた。

 顕現の経験があまりなかったのだろう。だからこそ人恋しそうな風に僕には思えたのだ。

「──……」

 そして、ふわっと優しい微風が吹いて。

 次の瞬間、彼女は僕らの前に顕れていた。

 兄さん達が「おぉっ!?」と驚きと感嘆の声を上げる。

「ど、どうかな? 私、皆に視えてる?」

「はいっ。バッチリです」

「ああ。そんな姿だったんだな」

「おー……。すげー」

「へぇこれが精霊かぁ……。オレ達とあんまり変わらないんだなぁ」

 僕と違い精霊を直に視る経験がなかったので、当然といえば当然の反応だったのだけど。

 暫し僕らは彼女の顕現の成功を前に、少々様々な反応で色めき立っていた。

 少し恥ずかしそうに苦笑する彼女。でも、僕にははにかんで嬉しそうにも見えた。

「よし。じゃあ、ねーちゃんも混ぜて遊ぼうぜ。いいよな? あ。えっと……」

 ややあって兄さんが皆をまとめるようにして言う。

 だけど、僕らはまだ肝心の事を──彼女の名前を聞いていなくて。

「? あぁそっか。私、まだ名前教えてなかったね」

 笑う。今度こそ嬉しそうに。人と繋がれて嬉しそうに。

「私は樹木の精霊・エトゥルリーナ。……呼ぶ時は、エトナでいいよ」

 その言葉に僕も兄さんも皆も、口々によろしくと笑って一つの輪になって。

 それが僕らの彼女との、エトナとの出会いで。


「──ア~ル~ス~!」

 はたと意識が幼少の光景から現在いまに戻ってくる。

 呼び戻してくれたのは、今や随分と聞き慣れた声だった。

 学院の建物が見える辺りまで、正門に続く坂道の途中を歩いていたアルスはその声のした

後方に振り返る。

「いよっ。おはようさん」

「おはよう。アルス君」

 あれから何年もの年月が経った。あれから友となったエトナも、魔導を学び始めた自分の

持ち霊になりたいと申し出てくれて契約を結び、僕らは今に至っている。

 アルスは思った。変えたくなくても、僕らは何処かで変化を続けているものなのだと。

 それは他人との出会いであるかもしれないし、或いは別れなのかもしれない……。

「……おはよう。フィデロ君、ルイス君」

 心持ちトーンは落ちても、物腰だけは穏やかに。

 内心の煩悶や思考を紛らわすように、アルスは駆け寄ってきた学友二人にフッと笑みを返

すことに努めていた。

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