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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-46.暗き自由への闘避行
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46-(3) アルスの奇策

『……』

 そんな下層の、ジーク達の結界突破を、上層の“教主”達は程なくして把握していた。

 淡い紫の光球を静かに点滅させている“教主”、少なからず忌々しいと表情を歪めている

使徒達。ふむ……。そんな中でルギスは光らせた眼鏡、竦めた肩で嘆息をついてみせると、

見上げた先の“教主”に問う。

狂化霊装ヴェルセーク達を向かわせましょうカ?」

『そうだな。だが外はもういい、こちらに呼べ。まだ我々には時間が必要だ』

 映像を映す光球を一同で眺めながら“教主”は言った。

 仰せのままに──。ルギスは恭しく片手を胸元にやって低頭してみせると、早速腕に嵌め

た装置らしきものを操作し始めている。

「……」

 そんな連中かれらの様子を、アルスはずっと見上げていた。ずっと考えていた。

 傍らでエトナが不安そうにあちらを、こちらを見て、じっと口をへの字に曲げている。

 多分それほどに自分が怖い顔をしているのだろう。そう思ったが、アルスの思考は先刻か

らずっとこの最大速度で回り続けている。

(兄さん達が、こっちに来る)

 状況は少しずつ変化しているようにみえた。少なくとも全くの密室だとばかり思っていた

この結界を破り、突入してきた事実は、何かしら内と外を結ぶ脱出口が存在することを示唆

している。

 それでも……楽観視はできなかった。

 問題は二つ。魔人メアやオートマタ兵達に囲まれたこの場からどうやって脱出するのか? 何

よりも母やトナン政府の皆さんや王達──これだけの大人数をどうやって安全且つできるだけ

一手に避難させ、ずっと階下に在るであろう脱出口まで到達するのか?

 兄達を、今もこの結界の何処かで奮戦してくれている誰かを待っていれば助けが来るのか

もしれない。だがそれでは遅いのではなかろうか。……いや、その筈だ。敵だってそんなに

悠長に待ってくれるとは思えない。

『リュウゼン、上層一帯を閉じ込めろ。王達を逃がすな。登って来るであろう連中にも手を

出させるな』

「了~解」

「──っ!?」

 そんな時だった。アルスの耳にそう“教主”の部下への指示が届いていた。

 対策を打たれる……。だがそれ以上にアルスの脳裏を駆け抜けたのは、まさに電流のよう

な閃きで。

「ア、アルス?」

「誰か! 誰か、皆さんの中で冥魔導に秀でた方はいらっしゃいませんか!?」

 くわっと、目を見開いた相棒に驚くエトナに応える余裕もなく、アルスは次の瞬間大急ぎ

で振り返るとそう場に避難してあつまっていた一同に訊ねた。

 いきなり何だ? 皇子の様子が変だ……。確かに戸惑いこそあったが、それでも王やその

お付きの者達が互いの顔を見合わせながらおずっと答えを返す。

「この中で冥魔導の名手といえば……」

「“夜殿主”どのですよね」

「ええ……確かに私にとっては十八番だけど……。いきなりどうしたっていうの?」

 名声、推挙。周りの面々が示し、当人も認めたのは四魔長の一人・ミザリーだった。

 進み出ながらも少なからず怪訝の表情かお。だがアルスはその人材が見つかったことで早速動

き出す。

「頼みがあります。これから──」

「……。えっ? た、確かに不可能じゃないけど……」

 “結社”達に聞こえないよう、アルスはミザリーの傍に寄ると何やら耳打ちをしていた。

 暫し伝え、そっと離れるアルス。その内容に驚愕の反応をみせるミザリー。

 だがアルスは既に自身のプランにゴーサインを出していた。向こう側の頂ではリュウゼン

が身につけた魔導具に力を込め始めている。

 躊躇っている暇はなかった。今ここでやらなければ、もっと脱出が難しくなる……。

「お願いします、三小刻スィクロで構いません! 奴らの動きを止めてください!」

 次いでアルスは叫んだ。皆に請うた。自身もエトナに呼び掛け、強化コーティングしたマナの手術刀メス

を大きく振りかぶり始める。

「うん? よく分からんが……了解だ!」

「ん……。銀律錬装アルゲン・アルモル──鎖龍ドラグチェイン!」

「いいぜ! はは、やっぱレノヴィン兄弟おまえらは只者じゃねぇよ!」

 セドの“灼雷”が、サウルの水銀の龍が、弓に形態変更モードチェンジさせたファルケンのヴァシリコフ

がそれぞれ向かい塔の“結社”達を狙い撃った。

 それらを、連射される剛の矢は戦鬼ヴェルセークが叩き落し、襲い掛かる水銀の龍はグノアのレーザー

が穿つ。

 それでもこの三人、及び魔導の使える幾人らからの攻撃全てを防げる訳ではなかった。

 アルスとエトナが振り抜いてくる強化鞭はフェニリアの炎とセシル・ヒルダの瘴気が燃や

し溶かしたが、飛び散る“灼雷”などの余波はリュウゼンと彼を護衛するヘルゼルのすぐ足

元にまで届かんとし、その集中を阻害する。

「ちっ……。何度も何度も無駄な──」

「そうでもないぞ?」

 だがそれでアルス達の目的は半分達せられたのだ。リュウゼンが『天地創造』に集中し直

そうとする中、ぽつりと代表してハウゼンが呟く。

 そこで“教主”達はようやく気付いたのだ。

 彼ら王達の避難した石塔の頂、その端に向かって……ミザリーが詠唱を完成させたのを。

「盟約の下、我に示せ──無明の闇沼ブラックホール!」

 現れたのは巨大な、沼のように粘り気を帯びて蠢く、底なしの闇だった。

 しかしルギスを始め、魔導に詳しい使徒や“教主”は、焦りより先ず怪訝の表情を浮かべ

ていた。

 あれは本来、全てを呑み込む攻守一体の高位魔導だ。それを何故、こちらにではなくあん

な何もない空中に撃ったのか……?

「今です、皆さん!」

 だがその答えはすぐに悟らされることになる。

「その中に──飛び込んでください!」

 魔導の完成を確認すると、肩越しに振り向いたアルスはそう王達に叫んだのだから。

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