表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-45.振り上げられた、その腕は
268/434

45-(3) 巡り廻りて

「──ジーク達が!?」

 その報せを受けて、梟響の街アウルベルツで戦う冒険者や守備兵達は大きく驚き、何よりも色めき立っ

ていた。

「ああ……。何でも突然空から戦闘艇で降りてきたらしい。今、第三隔壁の外で、向こうの

守備隊達と一緒に戦ってる」

 大都バベルロートにジークとその仲間達が現れた。一度はフォーザリアで、“結社”に殺されたと宣伝

されていた筈の彼らが。

 伝えに走ってきたこの傭兵の言葉に、面々は互いの顔を見合わせてにかっと笑った。

 そうか……あいつらは無事だったんだな。

 一体全体どうやって生き残ったんだ? いや、そもそもあれは誤報だったのか。

 だがそんな疑問はもう、彼らにとっては些事でしかなかった。

 希望の光が差し込んでくる。目の前では現在進行形で、城門から飛び出し“結社”の軍勢

とぶつかっている最中だというのに、不思議と全身に力が漲ってくるように感じる。

「……。よかった」

「ははっ、冷や冷やさせやがって! だがまぁ、これでこっちも気兼ねなく暴れられる」

 ミアが襲い掛かってきた信徒の顔面を殴り飛ばし、ぼそっと言った。そのすぐ近くでは電

撃をもろに浴びて伸びている連中を見下ろし、幅広の剣を担いだグノーシュが笑っている。

「そうだね。後はイセルナ達がシノさんや大都の人々を救い出してくれればいいんだけど」

 一方で、クランを任されているハロルドは淡々とした喜び方だった。

 他の後衛部隊と共に広く障壁を張り、術撃を放ち、彼ら前衛が押し返す隙をアシストしな

ながら呟く。

 激しい戦闘が繰り返されていた。

 “結社”は従来の黒衣のオートマタ兵だけでなく分厚い鎧を纏った壁役タンク、鳥型をした空中

対地用のそれも導入してきている。

「盟約の下、我に示せ──」

「我は彼の、彼らに仇なす者らを焼き尽くすことを望む者──」

 城壁の上では砲撃に加え、学院アカデミーの教職員らも応援に駆けつけていた。以前連中の魔人メア

襲われた時と同じだ。勿論、災いの規模はあの時の比ではないが。

 術撃が砲撃が落ち、オートマタ兵らがまた吹き飛んでいた。

 障壁を張った向こう側にハロルドはそれを見る。この魔導の壁を巧みに使い、自分や他の

クランの面々がうねるように立ち回っている。

(……本当、君はすっかり世界を変える存在になってしまったんだね……)


 地下避難所シェルターの中でレナが泣いていた。

 ぼろぼろと、嗚咽を交えた号泣と言う他ないそれ。少し前、ここを守ってくれている守備

兵が大都にジーク達が姿を見せたという報せを持ってきてくれたのだ。

 最初は声が詰まるような驚きをしていた彼女だったが、差し出された携行端末に流されて

いるメディアの速報映像を目の当たりにすると一気に泣き崩れたのである。

「うぐっ、ひぐっ……! よかった……本当に、よかった……」

「うんうん。全く、ジークのアホンダラ。こんなに女の子を心配させて泣かせるだなんて。

帰って来たらただじゃ、おかないんだから……」

 薄暗いシェルターの中で、そう泣き腫らす友。ステラはその背中をそっと何度も優しく撫

でてあげていた。

 口では辛辣。だけども彼女もまた、両目に大粒の涙を溜めている。

「……。レナちゃん、ステラちゃん。やっぱり私、ハロルドさん達を手伝ってくるよ」

「えっ?」「でも……」

 すると今度は、そんな二人と共にいたクレアが言って、立ち上がった。

 彼女達だけではない。同じくこの場に避難していた住民達もがこの妖精族エルフの少女の発言に

驚き、顔を上げて見つめている。

「分かってる。確かに一度はハロルドさんに『君に万一の事があったらシフォンに合わせる

顔がない』って断られたけど、このままじっとしてても変わるものじゃないでしょ? 向こ

うでもたくさんの人達が頑張ってるのにこれじゃあ私、何の為にこの街に来たのか分からな

くなっちゃうよ」

 友らは心配したが、それでも彼女は笑っていた。

 気を付けてね──ややあって二人は言い、駆け出すこの友を見送る。場の守備兵らも互い

に顔を見合わせると、フォローの為か内二・三人が彼女の後を追っていく。

「どっ……せいッ!」

 一方で街中に侵入した鳥型のオートマタ達を、守備兵らに混ざってフィデロとルイスが撃

ち落としていた。

 電撃を纏う拳で叩き落とし、そのエネルギーで滑空させる迅雷手甲ヴォティックス

 振るう度に突風で巻き込み、その白い飾り布がはためく風繰りの杖ゲイルスタッフ

 場の守備隊らが横目に一瞥し、頼もしく思えるほどの奮闘ぶり。

 それぞれ愛用する魔導具を駆る二人は、襲撃の報せのあとシェルターに逃げることもなく

立ち向かい続けている。

(……あの時、僕達は何もできなかった。知らずに終わった)

(今度こそ一緒に戦うんだ……。俺達は、あいつの親友ダチなんだからよ……!)


『……』

 少し時を前後して、街の城壁をこっそりと登って来る一団があった。

 率いるのは黒いフードを被った女性。続くのは鉤爪で器用に登って来るオートマタ兵達。

 彼女の名はカルラといった。他の面々と同じく“結社”に属する信徒である。

 “結社”とハロルドら街の戦力との激突はここより遠く、正門を中心として繰り広げられ

ていた。彼女達はその隙を狙う格好で、密かに手薄になった側方奥の城壁から侵入を試みよ

うとしていたのである。

「──」

 だが、その動きを察知している者達がいた。

 不意に色褪せ、モノクロになった世界。城壁を登り切った格好の彼女達は静止画のように

固まった状態になっており、そこへ紺色の残像を伴いながら銃口が突きつけられる。

「ッ……!?」

 モノクロが豊かな色彩に。次の瞬間、一発の銃声が辺りに響いて消えた。

 至近距離の筈だった。こちらも捉えたとばかり思っていた。

「……む?」

 だがカルラは生きていた。ぐらりと大きく仰け反りこそはしたが、途中で両脚を踏ん張る

と再び石廊の上に立っていたのだ。

「おかしいな……。避ける暇は与えなかった筈だが」

 リカルドだった。その手には今し方放ったばかりの回転拳銃リボルバーが握られ、後方にも彼と同じ

黒の法衣姿の神官騎士らが隊伍を作っている。

 片眉を上げ、リカルドはこの女を観察した。

 年齢は二十歳にも及ばない程か。髪は長いが動くのに邪魔と言わんばかりに後ろで纏めら

れている。羽織っているのは周りのオートマタ兵らと同じく黒いマント。その眼差しは明確

な敵意を向けており、既に懐から鋸のような刃のダガーを二刀流にして握っている。

(……身代の刻印サクリファスか)

 そしてそんな彼女の傍で頭を撃ち抜かれ倒れている一体のオートマタ兵を見、リカルドは

疑問に答えを見出した。

 身代わりの魔導。予め刻印を打った相手に、自身のダメージを肩代わりさせる……。

「その装束……史の騎士団だな? ブルートバードと──レノヴィン一派と共闘している、

教団の神官兵ども……」

 だがリカルドのこの僅かな思考も、当の彼女によって阻害された。

 ぽつり。確認するように、自らスイッチを入れるかのように呟かれたその言葉は、ややあ

って彼女自身を強烈な怒りへと誘ったのである。

「何処だ……兄様は何処だ!? レノヴィン絡みの任務に出て兄様は帰って来なくなった。

お前が、お前達が殺ったんだろう!?」

 それは間違いなく怨嗟だった。よりどす黒く鋭利になった敵意だった。

 だが勿論、リカルドにはその意味する所は分からない。ただ懐から一発分の弾丸を取り出

すと、そっと空いた弾倉に補充をする。

「……何の話か知らんが、とんだ思い違いだな」

 一方で背後の部下達はこのカルラの豹変ぶりに一斉に抜剣・抜銃しようとしたが、それを

他ならぬリカルドは片手で制する。

「そもそも──」

 ガチャリ。銃口が真っ直ぐ彼女に向けられていた。

「恨み恨まれってのは、てめぇら“結社”の専売特許だろうがよ」

 宣告。

 哂うでもなく怒るでもなく、彼はただそう冷たい眼でこの“敵”と向かい合う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ