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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-41.その痛みを強さに変えて
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41-(0) 石の中にいる

 戸惑いは静かに、しかし明らかに波紋を描くように伝染していた。

 “結社”の謀略によって瓦礫の山と為ってしまった鉱山跡。微かな希望を必死に抱き締め

ながら、埋もれてしまった同胞達を探す救助隊の面々とその一部始終を見守るレジーナ達。

 そこで見つかったのは、他ならぬジーク達だった。

 但し──四人が四人とも、石像のようになった姿で。

『……』

 眉を顰め、互いに顔を見合わせ、発見の一報を受けて集まった面々は暫しこの状況にどう

応じればいいのか判じあぐねていた。

 まさか、こんな格好で見つかるなんて……。

 予想外が故の戸惑いと、ちらつく見つかったことそれ自体への安堵感。

 だが、どうすればいい? そもそも何故こんな状態に?

 掘り起こされた四人──の像をぐるりと囲んで、やはり一同はお互いを困惑と不安を見せ

合っていた。急遽掻き集めて焚かれた照明が、石像越しの四人のさまを一層リアルにみせて

いる気がする。

「ちょっと、診せてくれ」

 そんな沈黙の中で声を上げたのは、一人の鉱人族ミネル・レイスの隊員だった。

 誰も呼び止めることはない。ただ何もできず、ただ彼が自分達の傍を通り過ぎていくのを

力なく見遣り、見守るしかなかった。

 彼はジーク達──のような石像の前に来ると、ゆっくりと屈み込んだ。

 そしてそっと掌を岩の肌寸前までかざし、薄く目を瞑って、何かを探るように暫しその場

から動かなくなる。

「……この感じ、間違いない。やはりこれは同胞の力によるものだ」

 やがて彼は、再び目を開くとそう神妙な面持ちで言った。

 一同がざわつき、互いに顔を見合わせる。

 とはいえ、それは先程までの戸惑いだけではない。

 少しだけ、光が見えた。この奇妙な状態の説明がついたことで緩やかな安堵が皆の胸を撫

で下ろさせたのだ。

「つまり石化能力か……。皇子達は石化させられてるってことなのか?」

「有体に言うとそうなるが、ちょっと違う。どうやら身体の周りをびっしり、硬質の膜で何

重にも包んであるみたいなんだ。まるで、梱包されたような……」

「梱……包?」

「どういうこった? 結社れんちゅうは皇子達をぶっ殺すつもりだったんじゃないのかよ? 何でわざ

わざ保護するような真似を……?」

 しかし尚も疑問は残る。

 彼の話によればジーク達をこのような姿にした──包んだのは鉱人族どうほうの仕業らしい。だが

そんな手間を掛けずともこの爆破・崩落に巻き込ませてさえおけば、ほぼ確実に殺せた筈で

ある。

 それとも、結社れんちゅうとはまた別の誰かによるものだったのだろうか……?

 どうにも解せない。

 救助作業に加わった、場に居合わせた面々が、そう一様に首を傾げる。

「ね、ねえ。包んだだけってことは、ジーク君達はまだ生きてるの?」

「どうだろう……。流石に中の当人達がどうなっているかまでは分からないな。包まれて外

界と隔たれてある訳だから、既に死んでたってことでもなければ、その時のままの状態が維

持されている可能性はあるが……」

 だが、レジーナのそんな希望を託した問い掛けに答えた彼の言葉に、面々はまた新たに色

めき立った。

 不確かではある。だが可能性はある。

 リーダー的な作業員らが互いに顔を見合わせ、力強く頷く。

「だったらすぐに確かめてくれ! 同じ鉱人族ミネル・レイスなら何とかできないか」

「あ、ああ。できなくはない。硬質化をこちらで解除してやれば、或いは……」

「じゃあ頼む! このまま皇子達を失わせたら、俺達は末代までの責められモンだ!」

 ずいと、彼らがそうこの鉱人ミネルの男性に詰め寄り、請うた。

 おそらく当の彼は半ば諦めていたのだろう。だがそう見出した希望を握り締め、捨てない

と気力を振り絞る彼らを見、そんな萎んだ気持ちに活が入ったらしい。

「……分かった。おい、他にも同胞がいれば手伝ってくれ!」

 ミネルの彼が周りの人の群れへと呼び掛け、その求めに応じてちらほらと数人が駆け寄っ

て来た。そして彼らは少し打ち合わせをした後、再び石化したジーク達の前に屈み、一緒に

なって手をかざしてその硬質の膜を解き剥がしに掛かる。

『──』

 鉱山の作業員達が、救助隊員達が、レジーナやエリウッドが、その時が来るのを固唾を呑

んで見守った。一枚また一枚と、粉末のような灰色が少しずつ散り、徐々にジーク達の梱包

を薄くするのが分かる。

 やがて……それらは全て剥がされた。事に当たった彼らも、びっしりと汗をかいている。

 石像ではなくなっていた。ジーク達四人は、確かに生身の姿になっていた。

 苦しそうな表情で倒れているまま、あちこちに怪我を負って服を赤に染めているのが尚も

痛々しかったが、それ所ではなかった。面々──特にレジーナが真っ先に彼らの下へと名を

叫びながら駆け出していき、そっと身体を起こすとその胸に耳を当てる。

「……ッ、動いてる。まだ……死んでない!」

 数拍の沈黙。搾り出された声。

 わぁっと面々が、諸手を挙げて叫ぶ声が重なった。

 気を失ったままのジークを抱いたレジーナが顔を上げ、感涙でくしゃくしゃになったまま

で皆を見遣る。エリウッドらも同じく彼女に倣い、サフレ・リュカ・マルタ──残り三人の

心臓がまだ弱いながらも打たれていることを確認して、コクリと頷きを寄越す。

「医療班、急いで担架を!」

 喜び。だがそれも束の間。まだ安心はできない。

 隊員の一人がそう叫んでいた。ばたばたと、担架をかついだ白衣の面々が、瓦礫の上を歩

き難そうにしながら何組も駆け付けてくる。

「ジーク君……。リュカさん、サフレ君、マルタちゃん……」 

 四人が大至急搬送されていくのを、レジーナは安堵と不安の中で見送った。

 まだ涙が止まらない。助かって良かったと私の所為で、それぞれ別々な感情が尚も彼女の

胸奥を掻き乱し続けている。

「……大丈夫。信じよう」

 ぽんと、エリウッドが寄り添い、その気丈でも太くはない身体の線を抱いた。

 彼に慰められるがまま頷き、レジーナは言葉を出せずにいる。一方で周囲の作業員・隊員

らは引き続き慌しく、不明者の捜索に戻り始めている。


 夜はまだ続きそうだった。

 だが少し、少しだけ……この絶望の山に今、小さな希望が灯り始めようとしている。

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