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5-(0) 不穏の影

 それは、日も沈み辺りが暗くなってゆく時間帯だった。

「よいっ……しょ」

 アウルベルツ商業区の奥にある倉庫群。

 ぽつねんと照明の灯ったその一角で、とある二人の若者が不承不承といった様子で商品の

詰まったダンボール箱をひたすらリレーし、山のように積み上げていた。

「ったく。何で俺達がこんな地味な仕事を……」

 それはアルスがこの街に来た初日、ミアに手を上げようとした新米冒険者の二人だった。

 細身のキザな方が下で箱を引き寄せ、脚立の上に乗った小柄だが強気な顔つきの相棒へと

渡す。倉庫の中に積み上げられたダンボール箱の山にまた一つ箱を加えながら、小柄な方は

足元の相棒に向かって言った。

「仕方ねぇだろ。この前の一件でボスにクランの仕事干されちまったし」

「そうだけどよぉ。何が悲しくてこんな地味な事やらなくちゃいけねぇんだよ……」

「嫌なのは俺も同じだっての。でもこんなのでも依頼を受けなきゃ飯も食えねぇんだ。ボス

からの処分が解けるまでの辛抱だって。ほら、次」

 ミアに手を上げた一件を咎められ、二人は所属クランの団長・バラクからクランの一員と

しての遂行メンバーから外されていた。

 一時的な処分とはいえ、基本的に冒険者は依頼をこなさないと食い扶持は無い。

 よって、二人は不本意ながらも自分達でも受けられる──便利屋の裏方仕事を受けざるを

得なかったのだった。

 まだ若く、冒険者という肩書に一種の万能感を抱いている彼らにとってこれは屈辱であっ

たに違いない。

 そしてそうした思い上がりを戒める事もバラクなり処分の意図であったのだが、彼ら自身

は十中八九そうした思いには気付いてすらいないらしい。

「はぁ。ボスも頭堅いよなぁ……」

 そうして二人が渋々と、黙々とダンボール箱の山を高く大きくする作業に勤しんでいた、

ちょうどそんな最中だった。

「……?」

 フッと背後から風が通り抜けたような気がした。

 しかしただの吹き荒びとは思えなかった。何といえばいいのか、自然に吹いたというより

も“悪寒を伴う”ような、嫌な感じの一瞬の空気の蠢き。

 細身の方は、そんな自分でも形容しがたい妙な違和感を背中いっぱいに受けて、思わず背

後を、開け放ちになっていた倉庫の入口の方を振り返っていた。

「ん? どうかしたか?」

「……なぁ、さっき誰か通らなかったか?」

「は? 誰って?」

 脚立の上の小柄の方は、相棒の言葉に隠すことなく眉根を上げて怪訝を見せていた。

 ここは表通りに店を構える商人達の倉庫がひしめている区画だ。誰か来るとすればそうし

た店の関係者か、取引のある業者くらいなものだろう。

 しかし……今はすっかり日も暮れて店はあらかた閉まっている。そうした者達が顔を出し

てくるとは考えにくかった。

「気のせいじゃねぇの? 風の音とかと間違えたんじゃねぇか?」

 だからこそ彼はそう不安げに入口の方を見遣っている相棒に言った。

 よしてくれよ。こんな地味な作業に加えて、盗人の取り締まりまでしろってのか? そこ

まで報酬に加えてくれるならいざ知らず……厄介な事この上ない。

「そうかなぁ?」

「……そうだって。そうに決まってる」

 ただでさえ、最近は物騒だ。それにどうにもツキも悪い。

 自分達は別にそんなおっかない連中とドンパチする為に冒険者になったんじゃない。この

業界で金と名誉を──ドカンと一発を当てる為にこの業界に飛び込んだのから。

「ほら、寝惚けた事言ってないでさっさと終わらせようぜ」

「お、おう。そうだな……」

 そして二人は互いに不吉な考えを振り払うように、再び作業に戻り始めた。

 テロだろうが、保守だの開拓だのという諍いだろうが、俺達には関係ない。

 そうさ。俺達には……関係ない。

『──……』 

 そんな二人の後方の倉庫の外を、一つまた一つと不審な影が音もなく駆け抜けてゆくのに

気付く事もなく。

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