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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-30.淀む闇に掃う力(て)を
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30-(2) 隔てても尚

 地図の上では、南方に足を踏み入れて数日が経っている。

 しかしジーク達は、今尚各地でテロを繰り返す“結社”の影をニュースで拾いながらも、

肝心の戦鬼ヴェルセーク──コーダスの所在を未だ掴めずにいた。

『では、遂に楽園エデンの眼とレノヴィン兄弟との全面対決が始まったと?』

『……どうでしょうか。当局の捜査は始まったばかりですし、現段階で断定してしまうのは

些か早計ではと思われます』

『ですが、執政館筋ではアルス皇子を名指しした犯行であるとの情報もありますが』

『“結社”から放たれた刺客か、或いは彼らに同調した者の犯行かは未だ明らかにされてい

ませんからね』

 時はアルスの歓迎会──を襲った闖入者達が逃げ去って一夜。

 処は南方北東部のとある小村。

 そこに取った宿の一室で、ジーク達はリュカと彼女が操作する携行端末を囲いながら事件

の続報を観ていた。画面の向こうでは特集を組んだ朝のワイドショーが流されている。

(……好き勝手な事ばっか言いやがって)

 それが、報道を見聞きしていたジークの印象だった。

 事件があってまだ日が浅過ぎる──情報量が足りないというのは分かる。だが、それを棚

に上げてまで結社対自分達という図式を流布しよう、扇動しようとするキャスターの言い口

は正直見ていて不快以外の何物でもなかった。

「そう渋い顔をするな。マスコミむこうも数稼ぎをしたいだけで、他意はない」

「余計に性質が悪ぃっての。アルス達の気持ちも知らないでしゃあしゃあと……」

 淡々と、サフレは何処か諦観を帯びてこちらを一瞥していたが、ジークはむしろため息を

増やすだけだった。

 一番苦しんでいるのは、他ならぬアルス自身の筈だ。

 それを周りからあれやこれやと口を挟み、或いは……迷惑だと不機嫌面をしてみせる。

 テロがそういった影響を狙っている、という知識自体は一応ある。

 それでも違和感、悔しさは隠し切れない。

 責められるべきはあいつではなく、結社れんちゅうの筈だというのに──。

「……流石にどの局も似たり寄ったりばかりね」

「そうですねぇ。昨日の今日ですから無理もないんでしょうけど」

 そうして暫く四人で端末を眺めていたが、目ぼしい新情報は流れていないようだった。

 一旦リュカがニュース映像を切る。画面が一瞬だけ光を失い、各種ウェジットが並べられ

た待ち受けに切り替わった。

「やっぱり、本人達に直接訊いてみるのが一番よね」

「そうだな……」

 一呼吸を置き直す彼女に、ジークはポリポリと髪を搔きながら呟くように同意した。

 流石に昨夜、事件当夜は連絡を控えていた。取材攻勢が押し寄せていた筈だし、何よりも

一番ショックの大きい直後にしゃしゃり出て余計な心配をさせたくなかった事もある。

「一晩経ってるし、そろそろ連絡してみましょうか? 昨夜の内にメールはしてあるから、

心積もりはしてくれているとは思うのだけど」

「そっか……。じゃあ頼む」

 頷き、リュカが再び端末を操作し始めた。

 画面をスクロールし、奥へ格納された連絡先から「イヨ・ミフネ|(侍従衆)」の名を呼び

出してコールする。

『も、もしもし!?』

 相手が自分達だと知って大慌てで応じたのだろう。通信の向こうで彼女は分かりやすい程

におたおたとしていた。

「もしもし、リュカです。今通信して大丈夫ですか?」

『は、はいっ、大丈夫です! 少々お待ち下さい。すぐに皆さんにもお知らせを……』

 一度互いに顔を見合わせ、通信モードを導話から映像に切り替える。同じく向こうでも顔

が映るように端末を操作をしたらしく、次の瞬間には彼女のアップと揺れる周囲──クラン

の皆へと知らせに走っている様子が画面に映り込み出す。

 暫し待って、画面の向こうにはイセルナやダン、団員達が周囲を囲み始めていた。

 馴染みの顔だ。ジークはその姿にホッとしたものの、すぐに彼らの表情が一様に険しさを

含んでいると感じ取り、湧いてきた内心に蓋をする。

「……おはようッス。団長、副団長、皆」

『おう』『えぇ、おはよう。そっちの旅は順調?』

 端末を手にしたリュカの隣にジークが立って覗き込み、更にその左右からサフレとマルタ

が同じように倣っている。

「まぁ旅自体はのんびりしてるけど……。肝心の父さんの情報は全然」

「ニュース見ました。そちらこそ大丈夫ですか? アルスは……?」

『学院に行ったわ。勿論リンも一緒』

『……ここでヘコたれてる所を見せりゃあ、それこそ連中の思う壺さ。周りからの締め付け

だってもっと強くなる』

 ジーク達は誰からともなく黙り込んでいた。

 先程のワイドショーも然り。やはり今回の襲撃で、周囲の眼が再びネガティブになってい

るのだろう。

 それに何より、そんな気丈を装うダンを見るのが辛かった。

 確か報道では“クラン所属の獣人少女”が負傷したと言っていた筈……。

「──そっか。やっぱりミアだったのか……」

『ええ……アルス君を庇ってね。怪我は大したことないんだけど、毒が仕込まれていたの』

 ジーク達は、向こうと互いに情報をやり取りした。

 旅で得た“結社”達の断片的な動向、イセルナから語られる昨夜のあらまし。そして何よ

りも、クランからミアという負傷者が出ているという事実。

『今はハロルドとレナ、ステラが看に行ってるよ。シフォンは遊撃班の面子を何人か連れて

昨夜から守備隊の捜索に交ざってる』

『暫くは依頼しごとどころではないな。この一件が何かしら区切りを迎えるまでは、我らは守勢を

強いられることになるだろう』

 彼らは淡々としていた。

 普段から沈着冷静なイセルナとその相棒ブルートは勿論の事、実の娘が文字通り毒牙に掛かった

ダンすらも、必死に激情を抑え込んで「務め」を果たそうとしている。

「……すみません」

『何でお前が謝るんだよ。ったく、兄弟──いや母子おやこ揃ってよぉ……。いいか? こういう

局面でお前らが折れちまったら負けなんだよ。奴らの思う壺さ。もっと胸を張ってろ。連中

をぶっ飛ばして親父さんを連れ戻すんだろ? お前達かんじんがブレるな。俺達なら大丈夫さ』

「……はい」

 なのに、彼らは自分達を励ましてくれる。最前線で諸々の非難を浴びている筈の彼らが。

 ジークは徐々に口数が減っていた。いや……何と言葉を返せばいいか、頭の中が静かに沸

騰して引き出せなかったのだろう。

 元より“挫折”で終わるつもりはない。

 だが少なくとも、今あの街へ戻ることは、弟を仲間達を一層苦しめる事になると悟った。

『南方か……。共和国サムトリア保守同盟リストンだな』

『ジークの親父さんの情報、見つかりますかねぇ?』

『一応私どもも随時情報収集はしています。ただ生憎、こちらも“結社”に関しては謎だら

けでして……』

「手を回して下さっているだけでありがたいです。でもイヨさん達は、何よりアルスのこと

に集中して下さい。あの子の事ですから、きっと今回の件も気に病んでいる筈です」

『ええ……。今朝も元気があられないようでしたし……』

 ぼんやりと、しかし確かに罪悪感が胸奥を刺しては抜けるを繰り返している。

 その間もリュカはクランと侍従衆の皆とやり取りを続けていた。

 今や彼女は、自分達一行のブレーンでもある。

 この緩やかでしかし理不尽な窮地に、彼女は一体何を想っているのだろうか。

「……アルス達が学院から帰って来たら、俺の所為で迷惑を掛けてすまないと伝えておいて

くれますか? ミアも、お前を恨みはしていない筈だって」

『あたりめぇだ。あとお前も、そう自分を責めるな。何でもかんでも背負い込んじまうのは

お前ら兄弟の悪い癖だぜ?』

 ジークは苦笑いを返すことしか出来なかった。

 見透かされている。守られている。物理的な距離を隔てても尚、自分は未熟だと思った。

 強くあらねばならない。守られる心地に埋もれるままでは、いけないと思った。

『そっちは、これからどうするつもり?』

「……前に話した通りですよ。連中の足跡を追いながら、地道にこっちをぐるりと回るつも

りです。まぁ今日一杯は此処で物資補充になりそうなんですが」

 小っ恥ずかしいような、申し訳ないような。

 ジークは団長イセルナの向けてくる優しい眼差しと声色に、何処となく逸らし気味の視線を繰り返

しながら、呟く。

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