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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-23.ソサウ城砦攻防戦(後編)
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23-(2) 想い、捨て切れず

 直後、王の間を捉えていた映像が途絶えた。おそらく制御機器がやられたのだろう。

 暫くの間、優勢・攻勢の側にいた筈の共同軍そして七星らは、各々に眉を顰めては激しい

戸惑いを隠せないでいた。

「陛下……本当に……」

「お、おい。どうするんだよ……」

 一方の皇国兵らも、同じく戸惑い、共同軍と向かい合ったまま動くに動けずにいた。

 最早この戦いの大義──“結社”と繋がっているレジスタンスを討つという態は、先刻の

証拠映像の数々で論破されてしまっており、尚且つアズサ皇のあの反応は、彼女が皆を騙し

ていたとを認めたに等しい。

「……発狂ときたか。ま、このままあっさり終わるようなタマとも思っちゃいないが……」

 どんな強靭な軍勢も、その大将が崩れてしまえば統制は乱れる。

 城砦各方面の制圧に掛かっていたグラムベルら七星達も、そんな躊躇う皇国軍らを相手に

一旦戦いの手を止めると、暫し様子を窺う体勢を取っていた。

「か、頭! あれ!」

 しかし“結社”があのように表に出てきた時点で、何も起こらない筈がなかったのだ。

 部下らが逸早く更なる異変に気付き、指差したのは……皇国兵らの背後。

 ちょうど彼らの虚を突くように、どす黒い靄と共に黒衣のオートマタ──“結社”の量産

兵が次々と姿を見せたのである。

「奴ラト、戦エ」

「サモナクバ、殺ス」

 ギラリと鋭い鉤爪手甲をみせびらかすように。

 じりじりと、現れた傀儡兵達はそう口々に不気味で無感情な声で呟きながら、皇国兵らに

迫ってくる。

「ひ……っ!」

 前方には共同軍──特に七星らの軍勢。後方からは“結社”の黒い影。

 しかし前者が積極的な交戦を念頭に置いていないと知れていた分、彼らの反応はある種余

計に傾斜を急にしたものと思われた。

 全身を強張らせ、振り返ってこちらに見せた表情かおと構え直す銃剣の金属音。

 次の瞬間、皇国兵らはワァッと隊伍も何もなく一斉に──黒衣の兵らに脅されるがままに

襲い掛かってきたのだった。

 咄嗟に前衛陣が得物でその突撃を受け止め、飛んでくる銃弾が障壁で弾かれる。

「チッ……こっちは自棄っぱちってか?」

 再び、交戦が始まってしまった。本来もう要らぬ筈の戦闘が。

「俺は優しくないと、言ってるだろうがよッ!」

 前線で数十人分の刺突を盾で防ぎながら、グラムベルは部下達と共に大きく手斧を振り上

げて鎖鉄球をおまけに一閃、皇国兵らを弾き飛ばして叫ぶ。


「長、これは……」

「……ええ。どうやら、ついに“結社”が本性を現したみたいね」

 そんな交戦再開は、反対方向の東砦でも進行していた。

 海皇珠トリトンスフィアから流れ続ける魔力ある大水の上を中を駆けながら、シャルロット達もまた、この

存外の抵抗に苦心を強いられる。

 銃剣を銃弾を受け止めいなす、魔力の水。

 そんな触手のごとき無数の波の中にあって、シャルロットは自分達への攻撃に臆する皇国

兵を容赦なく──宣言通りに殺してしまつしてゆく傀儡兵らを見た。

「皆、奴らの策に乗っちゃ駄目。皇国兵と奴らとを引き離すのよ!」

 本気だ。奴らは皇国兵かれらを捨て駒にしようとしている。

 シャルロットはきゅっと唇を結んで密かに悔しがった。

 そう指示を叫びながら大水を操り、皇国兵ではなく、彼らをけしかけている傀儡兵へと重

点的に攻撃の矛先を向けてゆく。

 水の触手が、脅す者と脅される者を分かとうとする。

 それでも黒衣を翻し、次々に皇国兵ごと蠢く水を刺し貫こうとする“結社”の手先達。

 させまいと仲間の魚人らが槍や矛で迎撃・保護しようとするが、少なからず手遅れになっ

た亡骸と血色の混じる水が徐々に増えていくのが分かった。

「恐れないで! 貴方達も私達が保護します。だから……っ」

 ごぽっと。目に付く限りの皇国兵らを水の触手の奥へと誘い、シャルロットは自ら率先し

て三叉の槍を振るい傀儡兵達を貫いては、

「もうこれ以上、必要のない戦いに駆られないで……!」

 一体一体確実に、その活動能力いきのねを止めてゆきながら呼び掛ける。


「……これは、面倒なことになったのう」

 南砦内を抜けようとしていたバークス・セイオンの両軍勢も、わらわらと文字通り背中を

押され、恐々として向かってくる皇国兵らに正直歯痒さを禁じえなかった。

 次々と飛んでくる銃弾は魔導部隊らの障壁が、身に纏った錬氣が弾く。

 四方八方から無謀にも突撃してくる兵に対しては、極力手加減をした一撃で黙らせる。

 真横から向かってきた兵を拳一発で遠くの壁まで吹き飛ばしながら、バークスはそれでも

一見のんびりとした様子で呟いていた。

「一筋縄で落ちる相手とは思っていませんでしたが、ここで“結社”とは……」

 隊伍で固められるより、むしろ無秩序に群がれる方が進行しにくい。

 並ぶセイオンは対照的にぐっと眉根を寄せた表情かおで、時折長剣を振るっては自棄糞になって

向かってくる皇国兵らを次々にいなしてみせている。

 ──今回の作戦の趣旨はこうだ。

 此度の内戦を“極力犠牲を出さぬようにして終わらせる”こと。

 その目的が為に遠回しにアズサ皇とトナン政府を騙して友軍を装い、オセロの白黒が反転

するが如く、一気に数で囲み制圧、彼女を押さえて戦闘を終了させる……というものだった

のだが。

「王のあっちには“剣聖”がおる故、余程の事でもない限りアズサ皇を押さえること自体はまだ

可能ではあろうが……巧く火に油を注がれたもんだわい」

「……ええ」

 互いに顔を見合わせる。おそらく東西の“獅子王”と“海皇”も同じ疑問を抱き始めてい

る筈だと、セイオンは思った。

 あのアズサ皇の反応は、自棄以外の何者でもない。

 たがそれ自体は今重要な事ではない。

 妙だと思ったのは、その自棄に“結社”達が追従しているというこの状況だ。

「王宮が落ちるのはもう時間の問題でしょう。なのに奴らはこんな抵抗を敢えて支持した。

つまりは」

「……時間稼ぎ、じゃの」

 フッと真剣な眼を垣間見せ言葉を継いだバークスに、セイオンは静かに深く頷いた。

 まさかアズサ皇の狂気ぜつぼうに賛同したという訳ではなかろう。

 なのに奴らは、表沙汰に自分達の兵を動員してきた。

 つまりこの対応には、何か“ちゃんとした”目的がある筈──。

「どうやら、急いだ方がよさそうじゃな」

「はい。砦よりも王宮への進入を優先すべきかと思います」

 大矛と長剣。二人の振り下ろした一撃が、はたと前方に路を開いていた。

 皇国兵も傀儡兵もまとめて剣圧で吹き飛ばされ、二人を筆頭に軍勢は一気に砦の南門部分

への合流を果たす。

「総員に伝達! 対城砦班の三分の一を救出班──王宮方面に回す。隊番号の大きい順に該

当各隊はついて来い!」

 セイオンがそう再編の指示を飛ばし、すぐさまその命令が場を駆け巡っていった。

 もっと包囲網を狭める必要がある。いや……すぐにでもアズサ皇を、彼女を取り巻き蝕ん

だ“結社”のメンバーどもを押さえなければならない。

 一直線にぶち抜かれた南正門と再度相見え、セイオン達はその先にある王宮を目指す。


「──殿下を守れ! 陣形を崩すな!」

 そして、これら黒き影とその凶刃に脅された皇国兵らの魔手は、共同軍本隊が陣を張る王

宮北部にも押し寄せていた。

 ポートに鎮座した多数の飛行艇。それらを護るように二重三重に防衛線を形作る共同軍。

 四方八方から押されるように、ガチガチと震えながら攻撃を仕掛けてくる皇国兵たち。

 “極力犠牲を出さずに終結させる”。

 そのつもりでプランを組んで来た共同軍一行にとって、この眼前の光景はまさに、そんな

自分達の想いを踏みにじらんとする意図を感じ取らざるを得ず──。

「伯母様……」

『……』

 すっかり砂嵐になってしまった中空のディスプレイを見つめたまま、シノは時折ぽつりと

哀しげに、小さくなって呟いていた。

 つぅっと、頬を伝っているのは一条の涙。覚悟していたそれよりも遥かに苛烈な拒絶に、

酷く打ちのめされている心の内。

 故にセドもサウルも、共同軍の将校らも、アルス達クラン・ブルートバードの面々も、す

ぐには彼女に語り掛ける言葉を持てなかった。

 外からは皇国兵──もとい“結社”のオートマタ兵達に応戦する剣戟や銃撃の音が、何度

となく重なっては響いてきている。

 やがて、サウルが大きく深呼吸をした。

「総員に伝達。皇国兵ではなく“結社”──黒衣のオートマタ兵への攻撃を優先せよ。指針

の通り、必要のない犠牲は極力出すな。それともう一つ。城砦各方面の七星らに早急な救出

活動を要請されたし。……これより我々は、速やかに玉座への到達を図るものとする」

 室内の通信をオンにし、彼はそうこの局面に対する指示を出す。

「打って出るか?」

「うむ。このままでは双方の犠牲者が膨らむばかりだ。アズサ皇がああなった以上、長く放

っておく訳にもいくまい」

 振り向いたサウルに、セドが片眉を上げつつ問うていた。

 既に彼は礼装の上から複雑な文様を随所に織り込んだマントと手袋を装着し始めており、

何処となく魔導師然とした様子をみせている。

 サウルは一度深く頷いた。更にその眉間に寄せた皺に、力を込めるようにして言う。

「……何よりも気になるのは、あの“結社”の反応だ。まさか奴らにアズサ皇を庇い立てす

るような忠節があるとも思えない」

「だろうな。結局奴らの目的がはっきりしないままだが、間違いなくこれは時間稼ぎだぜ。

もたもたしてたら、何をするかは知らないが、奴らの思う壺だろうよ」

 二人、そしてそっと従うように将校達は、哀しみに眉を伏せるシノを見遣った。

 彼女が下してくれた決心の為にも、これまでの苦節の為にも、このまま奴らの思い通りに

はさせない……。

「私達も加勢します」

「そうだね。さっきダン達からジークを見つけたって連絡も貰ったし」

「……合流しよう。そして今度こそ、奴らを」

 イセルナ以下、最寄各方面を制圧後、一旦陣に戻って来ていたブルートバードの面々も彼

らへの同行を申し出ていた。

 ハロルドは薄眼鏡のブリッジを指で押さえ直しながら、シフォンは握ったままの長弓へ静

かに力を込め直して頷いている。団員らも、同じ気持ちでいっぱいだった。

「……アルス君。すまないけれど」

「はい……。分かってます」

 そして振り向いてくるイセルナに、アルスは傍らで浮かんでいるエトナと共に神妙な面持

ちで頷いていた。

 二人のすぐ隣には、涙で両の瞳が揺らめいているシノ──母の姿がある。

 事前に、そして今も有言無言のメッセージが身体中を突付き回っているのが分かった。

 ──自分では、皆の足手まといになる。

 兄達のことは勿論心配だった。

 でも先刻より繰り広げられているのは、正真正銘の戦争なのである。

 そこに魔導が使えるとはいえ、一介の学生が飛び込んで何になるのか……。

 いやそれよりも、今目の前で哀しく項垂れている母が心配だという気持ちが強かったのか

もしれない。

「……」

 何より、自分もまた内心激しく動揺して、今すぐまともに動ける状態ではなかった。

 セドさんやサウルさん達、母さんのかつての仲間達を中心として──何より母さんのこの

戦いを止めたい・終わらせたいという願いに沿って立てられた、今回の作戦プラン

 そこに期せずして輝凪の街フォンテイム──フォンテイム候・サウルの下に流れ着いた自分は、密かに

進められていたそれらに志願して加わり、共に知恵を出し合った。

 なるべく“犠牲”を出さずに戦を終結に導く解。

 それは十中八九、相手の総大将を押さえることに他ならない。

 ただそれだけなら、アズサ皇の至近距離にリオ叔父さんがいる。

 当初の予定では援軍を装って王宮に入り、そのまま面会の際に彼と共に行動に移すという

青写真だった。──しかし、それだけでは不十分だと自分は意見した。

 国外の人間だからこそ、そしてリンファさんやリュカ先生が送ってくれた皇都での聞き込み

レポートに目を通したからこそ、自分にはある種の確信があった。

 “この国は、既に敵・味方が分かれてしまっている”のだと。

 アズサ皇の改革開放によって恩恵を得た者と、そうでない者。

 そこには明らかな溝が出来てしまっているのだと感じた。

 だからこそ──全ての兵士がそうではないとしても──こちら側に“反発”する、あくまで

アズサ皇に忠誠を示す可能性の高い兵達が独断で戦闘を続けてしまう可能性を思考の中で

否定できなかったのだ。……奇しくも、その好例がサジさん達レジスタンスなのだから。

 故にプランは「総大将とその軍勢の一斉制圧」へと修正された。

 皆を傷付けたくない。なのに、そんな皆の内面を信じないことでその実現を図る。

 議論を重ねたあの頃も、そして今でもずっと、心の中では矛盾が悲鳴を上げている。

 でもそれだけなら……まだ良かったのかもしれない。僕自身が、清濁を併せ呑めばいいだ

けなのだから。

 しかし、実際はそのプランは文字通り狂い始めている。

 アズサ皇おばさんも、皇国の兵隊さん達も。

 自分達が制圧の為に矢継ぎ早に配信した証拠の数々が、彼女を追い詰めてしまった。

 もう戦わなくてもいいのに。それでも、兵隊さん達は“結社”の手先に脅されている。

(……僕は、間違っていたんじゃないのか……?)

 テーブルの上で思考を重ねたものが、ことごとく変化球に翻弄されて崩れている。

 胸の奥が、ぎちぎちと痛んでいた。

 せめて頭脳で貢献できればと思ったあの頃の高慢、何よりもその捏ね回したプランが、今

こうして多くの人々を苦しみの中に投げ入れてしまっている。

(ごめんなさい……。皆……)

 戦争は、遊びなんかじゃない──。

 僕は、震えて俯く母さんの背中をそっと摩っていた。慈悲じゃなくて、きっと罪悪感。

 エトナも心配そうに、だけど掛ける言葉を見つけられず、戸惑ったままの表情で僕の隣に

浮かんでいる。

 イセルナさん達が、共同軍の皆さんが、次々にこの部屋を出入りしていた。

 すぐにでも王の間へ突入するつもりなのだ。この“結社”の妨害、時間稼ぎの網を縫って

目的を──アズサ皇の確保に向かう。

 リオ叔父さんがいるのしたって、相手はあの“結社”だ。

 あの“剣聖”であっても、奴らに対しどれだけ孤軍奮闘できるのか、正直分からない。

(そもそも何故奴らは伯母さんを……? 六華が目的なら、兄さんを捕らえた時点でさっさ

と姿を眩ませることだってできた筈なのに……)

 いや、もっと分からないのは“結社”の方だ。

 この抵抗策は何らかの時間稼ぎだとは推測がつく。でも彼らに一体何のメリットが──。

「ま、待って下さい。皆さん」

 そんな時だった。ふとシノが顔を上げて、出撃準備を整える面々に呼び掛けたのは。

 傍らのアルスとエトナは勿論、セドやサウル、イセルナ達も何事かと彼女へと振り返って

いた。視線が一斉に集まってくる。だがそのエネルギーに少々気後れしつつも、

「私も、一緒に行きます」

 彼女はそう確かに、皆に意思表明をする。

「む、無茶言うな! アズサ皇はあの様子くるいようだぞ? 殺意剥き出しの相手の所へホイホイ連

れていく訳には──」

「分かってる。でもお願い、私も連れて行って! ちゃんと伯母様と話がしたいの。このま

まあの方とすれ違って終わったら、きっと駄目になる……」

 真っ先にセドが止めようとしたが、シノの決意は変わらなかった。

 我が侭だとは承知で。でも、このまま分かり合えずに終わらせたくない。

 そんな彼女の直向きな心が痛いほどに伝わってきた。

 思わずセドは言いかけた口を開けっ放しにして押し黙り、ポンと肩を叩いて小さく首を横

に振ってみせるサウルに躊躇いの眼を曝け出している。

「……僕からもお願いします」

「アルス?」

「そうだよっ。危ないって事は分かってる。だけどこのままでいいの? 話し合えなきゃ、

私達のやってる事は結局“戦争”なんだよ?」

 セド・サウルを中心とした共同軍のメンバーらが、末端の兵士達までもが、瞳の奥を揺ら

めかせてお互いを見合っていた。

 アルスも、エトナも、彼女の意思を汲み上げる決意をしていた。

 かのじょの為にも、そして一時は己の智に慢心した自分達を償う為にも、このままなし崩し的に

戦闘を拡げさせてはいけないと思った。

「……シノ殿下。それが貴女のご意思なのですね?」

 すると、それまでじっと黙って様子を見ていたイセルナが問うた。

 その肩には、同じく返答を待っている梟型の持ち霊・ブルート。

 左右にハロルドとシフォン、団員らを従え準備を整えていた彼女達に、シノは数拍の間こ

そ要したものの、コクと一度強く頷いてみせる。

「分かりました。依頼主の要望とあらば、私達が責任を持って貴女をアズサ皇の下まで護衛

致します」

「……ったく、こんな時に“傭兵モード”かよ。あ~……分かった。分かったよ! お前ら

も一緒に連れて行く。最大限俺達が護る。だがよ、話が通じるかどうかはもう分かったもん

じゃねぇぞ? そこまでは俺達でも正直保障できねぇ」

「はい。……ありがとう、セド君」

 やがて、ガシガシと髪を掻き毟るセドを代表に、シノの申し出は受諾された。

 改めて深々と頭を下げる彼女とその息子、持ち霊。セドはその掻く指先を心なし強めつつ

目を逸らして嘆息をついていた。

「ならば、兵力はもっと集中させねばなるまいな。イセルナ殿。貴女方があの脅された軍勢

の突破口となり得るか?」

「……ええ。やってみせますわ」

「我らの冷気で奴らの動きを止める。それに乗じて一気に路を拓いてくれればいい」

 サウルが思案顔で顎を摩り、言い出しっぺなイセルナに問う。

 すると彼女は平素以上の上品を装って小首を傾げると、相棒ブルートと、左右に控える団員らと共

に、自信──いや、決意に満ちた表情を。

「……。ま、こうなってくると多少ごり押しでもしなきゃ埒が明かねぇってもんだが」

 セドもまた、両手に着けた文様入りの手袋をギュッと握り締めていた。

 飛行艇の出入口を守る兵士らが、一同にビシリと敬礼を寄越してくれる。

 イセルナらブルートバードの面々、そしてセドら共同軍本隊(皇女護衛部隊)は、カツン

と一個の大群となってその出入り口に集結する。

「覚悟はいいな? 突っ切って、シノをアズサ皇に会わせるぞ!」

『応ッ!!』 

 バサリと、文様マントを翻して叫ぶ彼に呼応するようにして。

 安全の為に閉じられていた分厚い金属の扉が、外の光を取り込みながら大きく開いた。

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