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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-3.ルーキー達の学び舎
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3-(2) 初顔合わせ

「勝負? 何で僕に……」

 突然の出来事にアルスは戸惑いの表情を隠せなかった。その傍らではエトナがむくれっ面

であからさまな警戒心をこの金髪少女に向けている。

 間違いなく、彼女とは初対面の筈だ。なので何か失礼をした記憶はない。

 しかし、先程から彼女から感じているこの気配は──。

「とぼけないで下さるかしら? 貴方が新入生主席だという事は明白でしてよ。それも私と

同じ、持ち霊付きの……ね」

「えっ?」

 アルスが小さく驚き、エトナがむすっと眉根を寄せる。金髪の少女・シンシアは不敵に口

元に孤を描いて哂うとパチンと指を鳴らす。

「カルヴィン!」

 次の瞬間、彼女の傍らの中空から紅い奔流が迸った。

 それは間違いなく精霊の顕現である。数秒も経たずして姿を見せたのは、隆々とした身体

に鎧を纏った、人馬の姿をした精霊だった。

「やっぱ、あいつも持ち霊付き……」

「うん……。僕ら以外にもいたんだね」

 そしてシンクロするように腕を組んだ彼女達二人に、エトナはさっとアルスを庇うように

して一歩前に出る。

「我が名はカルヴァーキス! 鉄と戦の精霊なり!」

 カルヴィンの愛称で呼ばれたその精霊は相棒シンシア以上に暑苦しい叫び声で名乗りを上げていた。

中空に浮かぶ人馬の武人。そんな強面の佇まいがアルスとエトナを見下ろしている。

「ま、待って下さい。僕は別にあなた達と争う理由なんて」

「お黙りなさい。貴方になくても私にはあるのですわ。そう、この私を差し置いて主席の座

に収まるなど……認めませんわ!」

「はぁ!? 何言ってんのよ、アルスは正真正銘主席だもん!」

「ちょ。エ、エトナ落ち着いて……」

 シンシアは勝気に高らかに言い放つ。だがそれ以上に、彼女の言葉にエトナが喰って掛か

っていた。今にも飛び掛りそうになるエトナをアルスは宥めるが、ムキになった彼女の怒り

は中々治まってくれそうにない。

「じゃあ訊くけどさ。あんたは受験の成績いくつだったのよ?」

「えっ。それは」

「……確か筆記が百八十三点。実技が百九十点だったな」

 躊躇するシンシアの代わりに、カルヴィンが答えていた。

『…………』

 互いの空白に隙間風のような間が空いた。

 目を丸くして自身の持ち霊を見遣るシンシアに、ややあってエトナはぷっと小さく吹き出

して笑う。

「ふっふっ~なんだぁ、やっぱりアルスの勝ちじゃん。アルスは満点と百八十八点の合計三

百八十八点。あんたよりも上だもんね!」

「ぬぐっ……! か、カルヴィン! 何で喋っちゃうのよ!?」

「勝負をするのであろう? ならば正々堂々とぶつかってゆくのが武人というものだ」

 シンシアは思わず頭を抱えていた。その相棒の姿にカルヴィンは至って真面目に、至って

不思議そうに眉根を上げている。対してエトナは得意気に胸を張っていた。

「え、え~っと……」

 一方で、当のアルスはあわあわと両者の間で視線を行ったり来たり。

 事態が悪化している。何とかしないと……。

 混乱からまだ立ち直り切っていない頭をフル回転させ、アルスは何とかこの場を穏便に乗

り切ろうと試みる。だが、

「……じゃ、じゃあ導力! 導力検査の結果は!? ちなみに私は780MCですわ!」

「780ぅ!? う、嘘……アルスより上じゃない」

「ふふっ。私の勝」

「でもさ? 導力検査は受験の成績に入ってないよね?」

「ふむ。確かにな」「……」

 事態は無情にもアルスを置き去りにして二転三転してゆく。

「あぁ~、もうっ! カルヴィンあんたはちょっと黙ってて! 何にせよ魔導は実践よ。今

ここでその白黒をはっきりさせますわッ!」

 そして、遂にヒステリーが頂点に達したシンシアが叫んだ。

 その様と言葉を受けフッと口元に孤を描き、相棒の真上に位置取って構えるカルヴィン。

見ればシンシアの身体からはマナの光が輝き出している。

「アルス!」

「……う、うんっ」

 だがそこはお互い卵と言えども魔導師だった。アルスとエトナは瞬時にその動作が意味す

るもの──相手が魔導を放ってくることを察知し、迎え撃つ体勢を取る。

「盟約の下、我に示せ──散弾の鉄錐ファル・ヴァロン!」

「盟約の下、我に示せ──大樹の腕ガイアブランチ!」

 次の瞬間両者の魔導が激突した。

 シンシアの周囲から射出されたのは、大地の鉄分を凝縮して形成された多数の鋼の尖った

弾丸。対するアルスの足元から躍り出たのは、同じく大地から周囲の草木を編み込むように

して巨大な形を形成した樹木の鞭。

 短縮詠唱。それは持ち霊という固定の協力者を持つ故に可能な、瞬時の術式展開である。

 降り注ごうとする鋼の弾丸と樹木の鞭が、お互いを薙ぎ払い合った。

 樹木の鞭を貫いてゆく弾丸もあれば、鞭にを受け止められ、弾き返されるそれもある。

 数十秒ほどの間、アルスとシンシア達は互いに放った魔導の破壊力の余波にあおられて身

を庇っていた。

「止めて下さい! 僕らに戦う理由なんてない! カルヴァーキスさん、貴方は彼女の持ち

霊なんでしょう、どうして止めて下さらないんですか!?」

 もうもうと土煙と細切れに散った草木が舞っている。

 ようやく余波から顔を上げたアルスは、そう中空に浮かんでいるカルヴィンに向かって訴

え掛ける。

「止める? 何故だ? 申したように我は鉄と戦の精霊……。強き者とは即ち悦びなのだ。

お主の力は我が主に並ぶ……久しぶりの好機、拒む理由など無かろうて」

「そん、な……」

 だが自分達に好戦的なのは彼も別の意味で同じだったようだ。

 純粋に戦うことが楽しい。アルスにとっては共感したくない感情だったが、精霊とは姿も

その性格も千差万別なのは重々承知している。

「……譲歩することなんてないよ。喧嘩を吹っかけて来たのは向こうなんだから」

「エトナ……。でも……」

 加えて傍らのエトナも、すっかり敵対心を露わに身構えていた。

 それはきっと彼女達が自分に害を成してくる故なのだと信じたかったが、アルスは正直心

が痛む思いがした。

 何よりも──このまま此処で戦えば、この庭園や校舎、もしかしたら他の学院生まで巻き

込んでしまうと思ったから。

「アルス!」

 だがそんな思慮の暇は許されなかった。

 エトナの声に我に返ると、見上げた先の中空でカルヴィンが掌に鈍色の炎を生み出してい

るのが見えた。そしてそのまま腕を振るい、その炎の奔流をこちらに向けて放ってくる。

「くっ……! 盟約の下、我に示せ──水泡の護衣バブルコーティング!」

 アルスは再び咄嗟に、エトナを仲立ちに短縮詠唱で魔導を完成させた。

 足元を中心に現れる水色の魔法陣。そしてそこを中心に大量の巨大な泡が溢れてくると、

その泡がアルス達を守る巨大な緩衝材のような役割を果たし、鈍色の炎を受け止め掻き消し

てくれる。

「こんのぉっ!」

 続けざまにエトナが両掌を向けた。同時に地面の草木らがその意思に従うように一斉に躍

り出て、縄のようにカルヴィンを捕らえようとする。

「盟約の下、我に示せ──烈火の矢フレアアロー

 だがそんな無数の縄は、シンシアが放った“焔”魔導によって一挙に焼き払われていた。

 一瞬にして燃えて灰になり、朽ち消える草木。

 数拍。撃ち合いになったお互いが、それぞれの持ち霊を傍らに従え、再対峙する。

(なるほど。アルス・レノヴィンの得意系統は……“魄”魔導ですわね)

(シンシアさん達の魔導……“銕”属性が主力、か)

 瞬時に分析する、互いの得意な魔導。

 樹木を司る魄の魔導と、金属を司る銕の魔導。

(────相性が、悪過ぎる)

 だがその両者は相反する関係にある魔導系統だった。

 二人は同時にその事実に気付き、撃ち合いの手を止める。そして思案する。

 幾つかの属性・系統に分類される魔導だが、その両者が仮に相反する属性であった場合、

よほど力量差がない限りは相殺される結果になってしまう。一方で、親和性のある属性同士

である場合は相乗効果を発揮する。

 しかし少なくとも、両者の実力は伯仲しているというのがこの撃ち合いでの感触だった。

(厄介ですわね。パワーで押し切ろうにも、彼はかなり反応が早いですし……)

(ここが庭園で助かった……。地の利が活かせてる。でも、あの話が本当なら導力は彼女の

方が上だ。持久戦になってしまえばこちらが不利になる……)

 二人は考えた。

 どれだけ自分の得意な魔導を放っても、この主席を掻っ攫っていった少年は素早く反応し

相殺していってしまい埒が明かないだろう。

 持久戦になれば不利になるのは間違いない。それに何よりもこんな無益な戦いは何とかし

て終わらせたい。

(────だったら、次の一撃で勝負に出るしかない)

 二人は同時に詠唱に入っていた。互いの意図はすぐに分かった。

 先程よりももっと威力の大きな魔導を放ち、戦意を失わせる。それがおそらくこの撃ち合

いに早急な決着をつける道となる。

「……」

 だが、アルスは迷っていた。

 一から詠唱を構築し、確かな威力を担保しようとしながらも、やはり彼女と戦わねばこの

場は収まらないのだろうかという自問自答と罪悪感。それと、不思議な違和感。

 正当防衛? でも僕は、こんな形で魔導を使うなんて望んでいないのに……。

「盟約の下、我に示せ──」

「ッ!?」

 しかし結果的に、それはシンシアに先手を打たれる遅れを作る原因になった。

 紡ぎ終わりかけようとしている彼女の詠唱。そしてその自分へとかざされた掌には、周囲

の地面から大量の鉄分が集束し始めている。

巨柱の鉄錐ラジアス・ヴァロン!」

 次の瞬間、彼女の掌に広がった銀色の魔法陣から巨大な金属の角錐が飛び出してきた。

 大きい。直撃したら無事では済まない。いや……避けたって周りの被害は確実だ。

「アルスッ!!」

 エトナが叫んでいた。自身の奇蹟を駆使し、すぐさま遅れをとった相棒のフォローへ樹木

の鞭達を差し向けようとする。

 だが遅いように思えた。世界が、スローモーションになったような錯覚に陥る。

 顔が恐怖で引き攣る。

 巨大な鋼の角錐が、ゴゥンと目の前に迫って来て──。

(……?)

 しかし、銕の魔導がアルスに届く事はなかった。

 数拍遅れて、アルスがゆっくりと思わず瞑ってしまった目を開く。

 するとそこには、蒼いオーラを振り撒くブルートの姿と、

「なっ……!?」「むぅ?」

 彼によって凍り付けにされた角錐を、掌でかざしたマナの障壁シールドで受け止め、その攻撃を粉

微塵にしてアルスの前に涼しげに立っているイセルナの姿が。

「……イセルナさ」

「ひっ!?」

 そして、その一瞬だがとても長いように感じられた隙を縫うように駆け、シンシアの首筋

へと迅速の身のこなしで小刀を突き付けたジークの姿あった。

 驚くアルスとエトナ、そして何よりもいきなり懐に入り込まれたシンシア。

 ジークは逆手にした小刀を握ったまま、普段の気だるい様子から考えられないほどの強烈

な殺気に満ちた両の眼でシンシアを捉えると、

「…………てめぇ。俺の弟に何してやがる」

 まるで呪詛のような重い声色を放った。


 シンシアはどっと冷や汗が背を伝うのを感じた。

 気品などまるでない、荒々しい眼。そして瞬く間に己の喉元に突きつけられた刃。

「お、弟……? では貴方はアルス・レノヴィンの」

「兄だよ」

 ジークは短く答えた。だがその切っ先は微塵もぶれない。

 カルヴィンはそんな彼女のピンチに動こうとしたが、すぐさま目を細めて冷気を漂わせる

ブルートがそれを遮る。

 凍り付き粉々になって崩れる角錐。

 イセルナはそれを一瞥すると、そっと掌から練ったマナを解いてジークに声を掛けた。

「ジーク、その辺りにしておきなさい? 彼女、怯えているわよ?」

「……うっす」

 肩越しに一瞥。団長の命令という事もあって、ジークはそっとシンシアから身を退いた。

同時に懐に忍ばせた鞘に収め、もう一度彼女を睨み付けてみせる。

「全く。念の為に脇差を持って来ておいて正解だったぜ。アルス、エトナ。無事か?」

「う、うん……」

「うん。ありがとう兄さん。イセルナさん、リンファさんも」

 一方アルス、そしてエトナはリンファにそっと介抱されていた。

 魔導を撃ち合い、多少の擦り傷などは負っていたが、命の別状はないようだ。

 ジークがその様子を見てやっと安堵し殺気を収め、視線を向けてくるイセルナを迎える。

「お嬢さん、どうしてこなったのかしら? うちの下宿人に何か恨みでも?」

「うっ。えぇっと……」

 イセルナはあくまで柔和な表情を崩していなかったが、シンシアは思わず大きく後退って

いた。それは彼女の傍らで浮かんでいるブルートの警戒の眼の所為でもあり、自身の全力で

放った筈の魔導をいとも簡単に防いでみせたイセルナの力量への怯えであったり。

「……何でも、ありませんわ」

 そして何よりも、こんな私闘を演じた自分をやっと冷静に見れたからであり。

 だが彼女は素直にそんな感情の変遷を口にする事はなかった。いやできなかった。

 イセルナは黙っていた。だが実弟を危うく大怪我させられかねなかったジークはあからさ

まに不信の眼で再びシンシアを睨み付ける。

「何もない訳ねぇだろうが。てめぇ、もう一回」

「待つんだ。ジーク」

 しかし一歩踏み込もうとしたジークを、リンファが呼び止めた。

 振り返る彼に、彼女はついっと別の方向へと視線を誘導する。

 するとそこには徐々に何処からともなく現れ、集まり始めていた野次馬らの姿があった。

 とはいっても、ここは正真正銘学院の敷地内。その多くは学院の生徒であり、その父兄ら

しき人物であるらしい。

 おそらくは周辺で、アルスとシンシアが魔導を撃ち合った第一砲を聞いていたのだろう。

「……人が集まってきたわねぇ」

「どうする、イセルナ? このままだと私達も当事者扱いされるかもしれないが」

「アルスが巻き込まれた時点で俺達も当事者ですよ。さっさとアルスを連れてここを去」

「ほらほら、野次馬連中は退いた退いた」

「ガハハ。すまぬな、通して貰うぞ?」

 そんな折だった。ふと野次馬の中を掻き分けるように、二人組の男がこちらに近付いて来

たのである。

 一人は頭にバンダナを巻いた長髪の、ヒューネスの男性。

 もう一人は見上げるほどの巨躯をした──巨人族トロルの男性だった。

「げっ。ゲド、キース……」

 するとシンシアの表情が分かりやすい程に変化した。

 強気な態度は何処へやら。それはまるで悪戯がバレた子供のようで……。

「あだっ!?」

 次の瞬間には、すたすたとやって来た二人、いやヒューネスの方の男性からの拳骨を頭に

受けてプルプルと悶絶してしまう。

「痛~ッ! ちょっとキース、主に手を上げるなとあれほど言っているでしょう!?」

「勘違いすんな。俺らの雇い主はあくまで伯爵だ。お嬢はあくまで警護対象だっつーの」

 シンシアはムキになってこの男性・キースに怒りを向けるが、当の彼はこうしたやり取り

は慣れたものなのか、そうあっさりと言い放って平然としている。

「ホーさん、野次馬はどーっすか?」

「うむ。今帰しておる所だ。暫し待ってくれぃ」

「へ~い。じゃあそっちは頼んます」

 一方でもう一人の男性・ゲドはこちらへ近付いて来ようとする野次馬らを制止していた。

 なまじ巨人の体躯という事もあり、また彼自身が何やら説き伏せているらしく、彼らは戸

惑いを見せながらも一先ずはこれ以上進んでくる様子はない。

「さて……」

 そうした様子を一瞥し、確認するとキースはシンシアの首根っこを掴んで言った。

「どうも、うちのお嬢がバカをやらかしたみたいで……。すみません。俺らからもキツ~く

言っておきますんで、今回は俺らの顔に免じて許しては貰えませんか」

 頭を(ついでにシンシアの頭も強引に)下げての謝罪表明。

 ジーク達は突然現れた、このシンシアの関係者らしき人物からの言葉に目を瞬かせる。

「……つーか、あんたら誰だよ?」

「ん~、別に名乗るほどの者じゃないですけどね。このじゃじゃ馬娘の親父さんに雇われた

護衛役──いや、お目付け役みたいなもんです」

 問われて、キースは何処か自嘲気味に言った。その後方ではゲドが野次馬らを少しずつ追

い返しているのが見える。

「そう言われもな。こうド派手に暴れられて黙ってろってのは」

「いいんだよ。兄さん」

 ジークは渋っていた。怒りがまだ収まらないといった感じだった。

 だがそんな彼を止めたのは、他でもないアルス自身で……。

「謝ってくれたんだし、僕はそれでいいよ。ね? エトナも」

「えっ? わ、私は……」

「ね? もう戦う理由なんて、ないんだよ」

「……むぅ。分かったよぉ、分かりました~」

 汚れや傷で台無しになった今日の装いを纏って、彼は自身の兄と持ち霊パートナーをそうやんわりと

諫めようとする。

「アルス君本人がそう言うのなら、仕方ないわね」

「そうだな。諍いは、もう収まったのだから」

「……しゃあねぇな。今回はアルスの顔を立ててやる……」

 イセルナとリンファも、当の本人のその言葉で引っ込みをつけたようだった。

 ジークもエトナも渋々とながらだが、それに従う形を採らざるを得ない。

「ですが、このままお開きという訳にはいきませんよ」

 しかし憤っていたのは他にもいた。

 ピリピリとした静かな怒りの声色に一同が振り返ると、そこにはゲドと複数の学院職員と

見られる面々を引き連れたエマが立っていた。

 同じく騒ぎを聞きつけやって来たのだろう。眼鏡の奥で鋭くなった眼差しがシンシアとア

ルス、当事者二人を射抜いている。

「……入学式早々、これはまたとんでもない失態を犯してくれましたね。二人とも、学院長

室に来なさい」

「は、はい……」

「分かり、ましたわ……」

 その眼光や強烈なもので、二人はしゅんとなって大人しくただ頷くしかない。

 エマはその返答に小さく頷き、きびきびとした所作でその場から身を翻して歩き出す。

「お、おいアルス。大丈夫なのか……?」

「うん……。でも仕方ないよ。僕らの事はいいから、兄さん達は先に帰ってて?」

「シンシア様」「お嬢」

「……分かっています。ちょっと行って来ますわ。貴方達は待機していなさい」

 ジーク達と、ゲド・キースの護衛二人組に見送られて。

 アルスとシンシアは、そのまま教職員らに両脇を固められる様にして連行されていった。

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