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ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- 〔上〕  作者: 長岡壱月
Tale-1.廣きセカイの片隅で
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1-(0) 奥底からの声

▼第Ⅰ部『梟響の街アウルベルツ』編 開始

『──……え、ますか?』

 何処からともなく声が聞こえた。

 それは途切れ途切れで弱々しくて、沈み込んでいるこの意識を弾き起こすには強さが足り

なかった。

 いや──そもそもここは何処なのだろう?

 辺りはしんとしている。閉ざされた黒。その筈だったのに、ふと意識を「下」に向けてみ

るとそこからは大量の淡い緑や青の光が静かに溢れてきているのが分かった。

 そしてそうした意識を、感覚を覆っているのは自由の利かない、それでいて何だかホッと

するような不思議な浮遊感。それらは何処からか聞こえてくるこの声と相まって、僕を優し

く包み込むかのような温かささえ与えてくれているような気がする。

『私の、声が……聞こえますか?』

 すると、フッと弱々しかった声がはっきりと聞こえるようになってきた。

 その声の主は、聞く限り多分女の人だろうと思った。

 優しい穏やかな声。間違いなく先程から聞こえていた声だ。

 意識がすうっと引き寄せられるような感覚。だけどその寸前で……気付く。

 彼女の声は、何処か押し殺した必死さのようなものを含んでいるらしいという事に。

『…………』

 その言葉の後、暫く彼女は黙り込んでいた。

 いや、もしかしたら聞こえなかっただけかもしれない。

 ──ここにいるよ?

 そう言おうとしたのに、声が出なかった。沈み込み浮遊する意識と同じように、もしかし

たら身体の自由もまた利かないのかもしれないと思った。

 その間も「下」では、深い深い奥底から湧き出す水のようにただ静かに無数の淡い光の粒

が漂ってはそっと消えてゆくことを繰り返している。

『もし……貴方が』

 やがて再び彼女が口を開いた。

『もし貴方に、この声が届いているのなら。もし貴方が、その意思と力を持つのなら』

 それは多分……懇願だったと思う。

 必死に自分の中の強い感情を抑え、あくまで冷静にこの人気の知れない薄闇の中に呼び掛

けるその声は、確かに願いだったと思う。

『……お願いです』

 だからその願いを、僕は何とか叶えてあげたいと思えた。

『どうかあの人を、止めて下さい──』

 次の瞬間、力任せに引き上げられるように意識が、奥底で瞬き続ける淡い光が、眼下に遠

退いてゆくのを感じながらも……。

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