二章―2 お守りと大仏サマ
なんとか、一か月更新なしは阻止できた……
こんな作者だが、大丈夫か?(オイ
身体がどっと、嫌な汗をかいた。心音がはっきりと聞こえ始める。
何をしたのでもなく、何をされた訳でもない。それでも……『彼』はそこにいるだけで周囲の人間を委縮される。それだけの伝説と功績と逸話を、彼は持っているのだ。
「日明先輩、もう追いついたのですか……さすがですね」
メガネレディーの発言も水の中で聞いた音のように、ぼんやりとしていてひどく遠くに感じる。思考がまとまらないせいで、発言の意味もほとんどわからない。
「どうしたのですか? 急に黙り込んで」
となりから話しかけられ、「ヒャア!?」などと悲鳴をあげながらも、
「だだだ黙り込んでねぇし! ちょっと『鬼神』に遭遇してビビっただけだし!」
辛うじて、返事をすることができた。
だが同時に、彼は墓穴を掘ってしまっている。
「日明先輩……彼になにかしたのですか?」
キリリとメガネを吊り上げて、彼女は問い詰める。そして宗司は、自身の失敗に気がついた。基本的に日明は、学校で暴れたりすることはない。虚ろな瞳で何かを眺めているか、誰かの頼まれごとぐらいしかしないのである。そう、彼が暴力を振るうのは――
「何かしたとするならば、その前に私が何かされかけたのだろうな。私は自身から仕掛けることはまずない。何らかの戦闘技能に優れているような者なら、真剣勝負をすることはあるが……この者はそうではないな」
淡々と日明は告げ、彼女は渋い顔をした。
そう、彼は自身に危害を加えようとしたものには何の容赦もしないが、そうでなければ特に何もしないのだ。これで宗司が『鬼神』にちょっかいをかけたであろうことが、彼女に伝わったことになる。
(まいったな~こりゃ)
非常に雰囲気が悪いが、どうしようもないように思える。かつて手を出したのは間違いなく宗司で、それを叩きのめしたのが日明なのだ。いかに彼が人外じみていても、道理は彼の味方である以上、マジメメガネは助け舟を出してくれないだろう。
そんな淀んだ空気を、吹き飛ばすかのように――
「今は昔のことなんて関係ないよ~ここにいるのは、私を助けてくれた……えっと、紳士だよ!」
ふんわりと、自分が助けた彼女が言った。
「紳士? スーツもシルクハットも、蝶ネクタイもヒゲもないのにか?」
「さすがにそれは……古すぎませんか?」
そっと、辺りを包んでいたいやなモノが霧散してく気がした。
「名前覚えてくれよ、カエデちゃん! オレの名前は石原 宗司! 次は忘れないでくれよ! 接客業でこれやったら大チョンボだぜ!?」
その流れに乗るように、わざと機嫌悪そうに宗司はいう。内心は彼女に感謝しながら……
「い・し・は・ら・そ・う・じ君! うん! 覚えた!! ごめんね~私よく記憶が飛んじゃうんだ~って、あれ?」
「? どうしたん?」
不意に上着の内側をまさぐり、きょろきょろとあたりを見回すカエデ。そして……あっという間に顔が青くなっていく。
「ない……? お守りがない……!?」
「お守り? 特に珍しいものでもない……」
「あれがないと……だめ! 探して!」
日明の問いかけを遮って、カエデは叫ぶ。急に取り乱した彼女に、三人は混乱した。宗司は知るよしもないが、その慌て方は銀行に行こうと飛び出した時以上の慌てぶりである。
宗司はわけもわからず思わず後ずさり……
カラン……
と、乾いた音が響いた。
「……?」
足元に視線を向けると、長細い木の棒のようなものが転がっていた。どうやらこれにぶつけたらしい。手にとってみると――
重い。と感じた。
それは、見た目に対する重量――物理的な意味での、ただの木の棒としての重量でもそうなのだが――何か、不吉な重圧なようなモノも感じる。これではお守りというより、呪いのアイテムと言われた方がしっくりきそうだ。
「もしかして……これか?」
たぶん違うだろうと思って差し出したが、カエデはソレを見た瞬間、宗司の手の中にあったモノを奪うようにかっさらい、まじまじと見つめる。次にくるりと回し、手でその感触を味わい、一つこくりとうなずいて……
「良かった~ ありがとねっ♪」
宗司ににっこりと、太陽の光を受けたひまわりのような笑顔を向けた。
(ぐはぁ! こいつは……強力すぎる……!)
まぶしい。あまりにもまぶしい笑顔に思わず顔を手で覆いたくなる。穢れを知らない無垢な微笑みに、宗司はたじろぎ、心をわしづかみにされた。
「……お守りとしては無骨なものだな」
「日明先輩……KYという言葉を知っていますか?」
「む……」
無粋な「鬼神」のツッコミに、メガネレディーの辛辣な一言が刺さる。おかげで、甘い青春気分が台無しにされてしまった。
しかし、こうして会話を聞いていると、「鬼神」の感性は相当ズレている。一般的な人間の発想ではない。と、思っていると、ある言葉が宗司の頭をよぎった。
最近よく聞く言葉に、「天才と変人は紙一重だ」という言葉がある。
紛れもなく、「鬼神」は天才の領域にいる訳で――つまり、変人に近いということであり――そんな人物が『マトモな感性を持ち合わせている』と考えること自体がおかしいのかもしれない。あの事件のせいで彼の印象を宗司は決めてしまっていたが、少しばかりイメージを修正する必要があるだろう。最も、どうイメージを修正しても、彼が化物であることには変わりがないだろうが。
などと、ぼんやり考えると「おーい! 何してるー!?」と、駆け寄りながら男子生徒が寄ってきた。そいつは……
「大仏サマじゃねーか。なんで?」
近づいてくる彼は、学校でも「鬼神」とは別の意味で有名な人間である。特に警戒する必要のない相手だが、少なくとも宗司との接点はない。
「大仏様……? 有名なのですか?」
ぼそりとつぶやいたその言葉を、委員長っぽいのが聞いていたらしい。隠すようなことでもないので、宗司はそれに答えた。
「ああ、まあそれなりにな。なんでも、困っている人間を見捨てられないらしいぜ。特に『孤立』した奴は放っておけないそうだ。それでいて性格も良いのと……あいつ、『オサラギ シュンヤ』って名前なんだが、オサラギは漢字で書くと『大仏』ってなるもんだから、そのまま『大仏サマ』ってあだ名になってる」
実例としては、日明が一人孤立していた時、敵意を向けなかったことだ。今も時折一緒にいる姿を見かけることから、仲はそれなりに良いのだろう。
「駿也か。遅い。綾花と共にいたのではないのか?」
「……教室にカバン忘れてた。鍵かけなおしたりしてたら時間食ったんだよ。ところで、なんでこんなところで話してるのさ。時間大丈夫? 銀行しまるんじゃ?」
「「「あ」」」
三人は同時に、間抜けな声を上げた。そして……
「あばばっばばばばばああああっ!!」
カエデ奇声を発し、顔色を白黒させる。よほど重要な用事か何かなのだろうか?
「そそそそそ宗司君!! ごめんね! これから私、お金下ろさなきゃいけないからー! 今日はほんとにありがとね! またね!!」
「ちょっ! 待てやぁ!!」
唐突にカエデは走り去ろうとし、宗司は反射的に彼女を追いかけていた。
正直、今の会話の内容はよく理解できない。「鬼神」「メガネ委員長」「大仏サマ」「カエデ」の四人に何らかの接点はありそうということぐらいだ。
状況も特に読めているわけでもない。ただ本当に、「巻き込まれた」だけ。
それでも――
この奇妙な偶然を、宗司はそれだけで終わらせたくなかった。
作者「あ、危なかった……一か月更新してませんつくまであと二日しかなかった……」
日明「……ある意味アウトだろう? 五月中旬の感想の返信が終わった後、これだけ時間をかけてもこの量と質だ」
作「うぐぐ……なんだろう、もうあとがきが作者の言い訳と贖罪コーナーのような気がしてきました」
日「なら、そうならなくても良いようなモノを書けるようになるのだな。少なくとも、我々にダメ出しされているうちは論外だ」
作「うひぃ……こんな所で『鬼』にならないでください」
日「読者の方々も、この者を甘やかさないようにしてもらえると助かる。もちろん、感想等でほめて頂けるのはありがたいのだが、それだけではこいつは怠けかねん……しかし、大筋は決めてあるので、そこは安心してほしい」
作「まぁ、そうなんですよね。本当はもっと早く二章を進める予定でしたが、キャラクターの皆さんを、作者の中で自然に動かさないとどうにも調子が狂ってしまうのですよね」
日「読者の皆に分かるように説明すると、作者は台本を書いて我々に渡している。それを我々が演じるのだが、その時々でアドリブが発生することが多々あるわけだ。そして、そのアドリブを小説という形で、作者がまとめると言ったところか」
作「ただ、かなりの高確率で台本がブチ壊しになるんですよね。しかも容量が割増しになっているという……キャラが安定しているおかげで重要な部分がブレにくく、伏線を張りやすいのはありがたいのですが」
日「まとめられないのは文章力、及びコミュニケーション能力不足が原因だろうな。よくそんなステータスで小説を書こうと思ったな」
作「妄想すること自体は得意分野なんですよ! だから小説も書けるだろうと思ったのですが……ごらんのありさまだよ! チキショーメー!! これから小説を書こうとしているみなさんへ! 軽い気持ちで小説書こうとか思うなよ!? 絶対に思うなよ!?」
日「……ネタが古くないか」
作「お・前・が・言・う・な!」