四章―1 世界の裏側
作者「今回ややこしい上に長いよ! あと説明会だよ!!」
日明「バトル物の設定だな。これが生きることはあるのやら」
彼らは、私をどう見るだろうか。
羨むだろうか、蔑むだろうか。
まぁ、どんな反応であろうと、私は私だ。
姫様、あなたとの約束をただ果たすのみ。
「……揃ったな」
綾花、楓、駿也、宗司の四人を見つめ、怪物――酒月 日明 はそう言った。
皆どこか緊張した面持ちでここにいる。それはそうだろう。これから話されることは、通常どう足掻いても知り得ない、裏側の事象なのだから。
「日明先輩、どういう形式にします?」
「そちらから質問してくれ。流石にすべて把握しきっている訳ではないし、何もかも説明していては面倒だ。なので、お前たちが興味のあることを、返答と言う形で返すつもりだ」
「じゃあまず、私からいいかしら?」
軽く手を上げたのは、以外にも楓だった。
「ずっと引っ掛かってたことがあるのよ。日明、あなたは何者? あの吸血鬼よりかなり年上ってことと、あなたが吸血鬼でないことぐらいしか、私にはわからない」
「……いや、それだけわかれば十分スゲェと思うんだが」
ほう、と日明が呟いた。どうやら当たっているらしい。
「では答えよう。駿也にも問われたが、私の種族は『不明』だ。以前起こった『影の大戦』の時のあだ名にちなんで、『鬼』と呼ぶ者もいる。年齢は――1000は超えてるだろうな」
「スコット様は再生力と防御力が凄まじいとおっしゃってましたが、それは本当ですか?」
「事実だ。私の体には、放射性物質以外を溜めこむ特殊な『器官』が点在している。この『器官』から様々な元素や分子を取り出し、肉体を構成することが可能だ。故に、肉体を鋼鉄化したり、破損した部位も即座に修復される。頭や心臓を飛ばされたぐらいでは死なん。まぁ、頭の場合、記憶が混乱する場合もなくはないが」
宗司は唸った。少々理解に苦しむが……恐らく、予備の身体のパーツを呼び出せる器官があるという認識でいい……のだと思う。
「……どうして放射性物質以外なんだい?」
「体に取り込むことを試したことがない。故に不明だ」
「あ、あくまで一度蓄積せにゃいかんから、とりこまないといけねぇのか。どこから取り込むんだ?」
「食事だ。故に、金属化させようと思ったら、金属も摂取する必要がある。主に鉄を食しているがな。あの素材があれば大概なんとかなる」
……バリボリと鉄を食べる日明を想像して、シュールだと宗司が呟いた。
「吸血鬼について、聞いてもいいかな」
「うむ」
駿也の質問は、おおむねシャミルに教えてもらったことと同じ事であった。三人は感心した様子だったが、駿也にとっては確認の意味合いが強い。
「主な吸血鬼の弱点は太陽光と魔術、魔法、固有能力、そして銀と『宝石鉄』だ」
最後に日明が言った言葉には、駿也にとっても聞き慣れない単語がいくつも出てきた。
「魔術、魔法、固有能力の違いを教えてください」
「……ややこしいからよく聞いておけよ? まず魔術だが……これは『アーティファクト』と呼ばれる媒体を使用することによって発動される神秘だ。媒体には様々なものがあるが、主なものは『魔術書』と『ジュエルメタル』が挙げられる。ジュエルメタルについては、後々解説しよう」
そこで、日明が一拍置いて、次の項目の解説に入る。
「次に魔法、これは自身の肉体を媒体にして発動する神秘だ。主に吸血鬼が使用するが、人間でもごく一部の才能の持った者は、使用することができる。ただ、魔術に比べて基本的に汎用性や燃費が悪い。ごく稀に、固有能力クラスのモノが発現する場合があるがな」
皆日明の説明に聞き入っている。この情報は、シャミルも教えてくれなったことだ。
「最後に固有能力、これも吸血鬼が自身の肉体を媒体にして発動するものだが、使用できる者が限られている。吸血鬼の『第五世代』までが確認されていて、強烈な能力を保有しているのは基本的に『第三世代』までだ。空気中の水分の温度と位置を自由に操れたり、ダイアモンドを無尽蔵に生成したり……その能力は多岐に渡る。私もすべての吸血鬼と戦った訳ではない故、すべての能力は知らん。が、これらの能力は魔術、魔法に比べ燃費が圧倒的に良い。ほぼ無制限に使えるという認識で構わない」
「……そうか、だからシャミルは――」
「駿也? 何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
日明は首を傾げたが、そのまま解説を続行した。
「さて、『ジュエルメタル』について説明しよう。これは私の弟子、ジェイムス・ハミルトンが始めて作成した特殊金属のことだ」
「スコット様の、祖父でしたね」
「ああ。そうだ。私が日本の『MOTTAINAI』精神をジェイムスに伝授した故に生まれた金属だ」
……いまいち関係が見えてこない。皆無言で、日明に続きを促した。
「と言うのも、初期の『ジュエルメタル』は、宝石の研磨した際に出る屑を混ぜたものだったのだ。宝石そのものを溶かして金属にしたものは後期の物だったり、『セブンメタルズ』のようなものだったりする。初期段階では失敗の連続だったそうだが、やがてジェイムス自身が慣れ、鋼鉄製の物より良質な物を作り出せるようになった。と同時に――ジュエルメタルは『アーティファクト』としての性質をもつようになったらしい」
「つまり、通常の金属製の武具より強力でありながら、魔術の道具としても使用できるようになったと?」
「元々、宝石も『アーティファクト』として使用されることがある触媒だった。それを混ぜた金属が使用できるようになってもおかしくはない。と、ジェイムス本人は笑って話してくれたな」
「……頭痛くなってきた」
宗司が悲鳴を上げた。あまりにも非常識的過ぎる会話に、脳がついてこれなくなったのだ。
「もう少しで終わるから耐えろ。特に、後期の『ジュエルメタル』製の武具は強力な魔術触媒として使用されながら、武具としても一級品だった。その最もたるものが『セブンメタルズ』で、これらは固有能力に匹敵する魔術を使用可能、あるいは常時発動している」
「例えば私のやつは『殺し方が見える』だったり?」
「そうだ。殺人衝動の方は、初期のころはついていなかったはずなのだがな。どこでそうなったのやら」
そこまで話すと、日明は『ふぅ』と一息ついた。
「こんなものだが、他に質問は?」
情報整理に必死で、皆他に質問が思い浮かばなかった。
「ないようだな、では、飲みものでも買ってくるとしよう。長話で疲れただろう?」
「あ……じゃあ俺行ってくるわ」
「そうか? では金だけ渡しておこう。釣りは貰っとけ」
「サンキュー」
完全に友人の気楽さで、宗司は使いっぱしりに出る。そんな宗司に呆れながらも、駿也はこう思った。
酒月 日明は人間ではないかもしれない。だが、こうして気を使い、言葉で意思疎通ができるのだ。……畏れる要素など、ないではないか。
「日明……俺さ。お前が化物って知っても、態度とか変えねぇから」
「……駿也。貴様はまだ囚われるか。まぁいい。この程度で楔が外れるならとうの昔に外しているだろうしな」
「「?」」
女性陣二人は困惑しながらも、呑気に帰ってくるであろう、石原 宗司 を待った。
作者「今回の説明をまとめると、魔術は『アーティファクト』という触媒を通して発動。魔法は吸血鬼や特殊な人間が使える神秘。固有能力は一部の吸血鬼限定で強力だと覚えておいてくれればいいです」
スコット「そして、独自の金属、『ジュエルメタル』も登場っすね。実は前回の『セブンメタルズ』に宝石や貴金属の名前が多かったのはこういう事情っす」
日明「ついでに言えば、『ジュエルメタル』を現代で作ることは出来ない。ジェイムスのみが作成できたという設定だ『ロスト・テクノロジー』というやつだな。故に、初期の粗悪品ですら、裏世界で価格が高騰している」