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広イセカイと狭イテノヒラ  作者: 北田 龍一
まだこの作品が小説だったころ
25/43

三章ー16 約束

作者「今回ちょっとR-15かも」

宗司「オイィ!? なにやらかしたんだ!?」

 宵闇の港と言うのは、決闘場としても最適であったが、なかなかどうして、デートスポットとしても悪くない。

 街並みの明かりから外れたそこは、星もよく見えるし、地上の明かりも幻想的。

 夜風が冷たいのがデメリットだが、寒いからという理由で相方にべたつくメリットへと転じる。

 

「あの……その……べたべたしすぎじゃないっすかね? 自分、吸血鬼っすよ? 人の血を吸う、化物なんっすよ?」


 ここまで純粋に好意をぶつけられたのが、久方ぶりのスコットは困惑していた。

 あの決闘を見ていたのなら、自分たちが化物なのは重々承知のはず。

 それでも恐れずに中断を宣言し、なおかつ自分に惚れているような素振りを見せる彼女は、芯が強いという次元の話ではないと思う。


「関係ありません。あなたはその力を、正義のために使う御方。日明先輩との因縁を、お聞きしても?」

「……そうっすね、細かいところまで話すと到底時間足りないんで、かいつまんで話すっす。大師匠は……師匠の師匠っす。師匠って言っても、祖父なんっすけど、鍛冶屋だったんすけど、剣の腕も凄腕で……自分は、尊敬してたっす。そんな時に、ジイさんの師匠が現れて……コテンパンにやられて、この人を超えたい。その想いから決闘を挑んだっす」


 それを邪魔されたのは、少々どころかかなり癪だったが、彼女の気迫は本物だった。続けていれば最悪、間に入りかねないとすら感じさせるほどの勢いだったのである。


「大師匠は『影の大戦』の『聖戦の鬼神』と呼ばれるほどの英雄っす。そんな大師匠に勝ちたいと思う吸血鬼は、自分だけじゃないはずっすよ」

「では、日明先輩は狙われたのですか?」

「そりゃもう、いろんな組織、個人から。でも全部跳ねのけて、誰もが到底勝てないと踏んだから、誰も挑まなくなったと思うっす」

「でも、あなたは違った。そうですね」


 スコットが首肯した。


「自分は吸血鬼になる前から、大師匠に勝ちたいと思ってたっす。だから、吸血鬼になったら、もう楽勝だろうって、自分好みの血だけ吸いながら師匠を探してたっすけどね。そんな自分の慢心を砕いたのが――宮本 武蔵 っす」


 遠い目をして、スコットは話す。あれは衝撃であったと同時に、自らの転機でもあった。


「佐々木小次郎は宮本武蔵に敗北した……」

「そう……夕方で完全には力を発揮できないとはいえ、自分の経験や基礎スペックを考えれば、どう足掻いたって武蔵に勝ち目はなかったっす。けど武蔵は――燕返しを破った上、自分の当時の得物『ラックスワロー』を破壊した。屈辱であると同時に、吃驚したし、何より自分が慢心していたことを知ったっす」


 そこからは懐かしくも輝かしい、武蔵との日々だった。


「その後は、武蔵に弟子入りして精神と肉体の強化、『タイムスティーラー』の応用、『ラックスワロー』から『物干し竿』への改修など、充実した日々を送ったっす。この日々がなかったら、多分大師匠に全く歯が立たなかったと思うっす」


 目の前の少女はただ聞き入っている。メガネの奥で、瞳が潤んでいるように見えたのは気のせいだろうか?


「私たちの中でもお二人の戦いを把握していたのは一人だけでした。お二人は人外の中でも特に強いのですね」

「多分本気出したら、自分に追いつける相手はいないと思うっす。大師匠は大師匠で再生力と防御力が反則じみてるっすからねぇ……そこに今まで鍛え上げた精神と技術が揃ってるからタチ悪いっす……って、把握できてた子いたんっすか!? あれを!?」


 スコットは思わず聞き返した。


「はい。わからない私たちに代わり解説までしてくれました」

「その子はその子で、人間としてはイレギュラーだと思うっす」


 少女は悲しそうに目を伏せていた。当たらずとも遠からずなのだろう。


「私たちの理解できる範疇の外にいる人なのは間違いありません。過去に何があったのかは知りませんが……でも、学友としてやっていけてはいます」

「そうっすか……学校って、楽しいっすか?」

「そうですね。サボる人間はサボりますし、生気の抜けた様な人もいなくはありません。でも――いろんな人と交流できて、楽しいですよ。スコット様はそういう機会は?」

「武蔵との交流ぐらいっすねぇ……大師匠に頼んで偽造パス作ってもらおうかな……」

「その時は、是非私たちの学園に来てくださいね」

「もちろんっす!」


 スコットは笑って見せた。実際、学校と言うものがどんなものか楽しみでもあるし、日明がどんな活動をしているかにも興味があった。

 などと、スコットが考えている内に、彼女はやや緊張した様子で言った。


「さぁ、スコット様。お話はこれぐらいにして、約束を――」


 ……まさか、本当にこのためだけに必死になっていたとは、スコットも思いもよらなかった。そんな純粋な彼女の血を、しかも自分好みの味になった状態で愉しめるなど、なかなかできない贅沢だと、彼は思う。


「本当に、いいっすか?」

「私は、この時のために生きてきました。今さら遠慮などなさらないでください」


 彼女の決意は固く、進んで制服のボタンの一番上を外してうなじを露わにする。

 思わずゴクリと唾を飲んだが、スコットは笑って彼女のボタンを元に戻す。


「あの、スコット様……?」

「自分、小食なんっすよ。よっぽど飢えてない時以外は、首筋からは吸わないっす」


 この決闘の前にも一人から血を提供してもらっている。今はさほど飢えてはいない。

 だから――彼はそっと裾の方のボタンを外し、それで彼女も意図を理解したのか、袖をまくった。

 健康的な色艶の左手首が露わになる。そっとスコットはその腕に顔を近づけた。


「では、いただくっす。大丈夫っすよ、痛いのは最初だけっすから」


 優しくそう言って、静かに片膝を折り、両手で彼女の細腕を支え――そして噛みついた。


「んっ」


 少女は痛みに声が洩れる。この瞬間は、何度やっても申し訳なく思う。

 吸血が始まる。彼女の血液が、スコットの中へと流れ込む。

 若く瑞々しい、穢れのない乙女の血。

 それだけでも上質だというのに、自らの意思で差し出された血液は彼好みの味だ。やはり、無理矢理吸うのより、気分的にも味的にも数段いい。


「ふわぁっ……ああっ……」


 血を吸われている彼女が、甘い声を出した。吸血行為の吸われる側は通常、快感が生じる。混血はどうだが知らないが、少なくても自分は純正の吸血鬼。しかも――感じさせるコツも知っている。

(スイート)(サッカー)り手』なんて恥ずかしい二つ名があるぐらいである。相手のことを気づかい中が血を吸う自分は、吸血鬼として異端らしい。

 本当はもう少し吸っていたかったのだが、彼女の体に負担になってはいけないと思い、ゆっくりと牙を離した。そのまま、唇は近いまま、彼女に出来た二つの傷跡をなめる。


「ひゃあっ!? ス、スコット様……っ! もう、終わったのではぁ……」

「傷が残っちゃ、嫌っすよね? そのための処置みたいなもんっす」


 傷口に口づけながら、スコットは言った。実際、少量ばかり流れてしまっていく血はもったいないし、痛みを緩和させるような効果もありそうな気がする。


「……終わったっすよ」

「はぁっ……はぁっ……はい…………」


 うっとりとした表情の彼女は、ひどく艶っぽい。つい、もう一度吸いたくなったが、節度なく吸いまくっては品性を欠く。


「あの、言いにくいっすけど、またいつか吸ってもいいっすか?」

「いつかと言わず……いつでも吸いに来て下さい……スコット様……」


 スコットは滅多に、と言うかほとんどの場合、一度吸った相手からは二度吸わないのだが、彼女の血は非常に上質だった。また飲みたいと思えるほどに。


「さ、お仲間さんたちが待ってるっすよ」

「はい……」


 呆然としている彼女を、ついスコットは支えた。「スコット様ぁ」と、甘い声で鳴きながら、彼女はしなだれかかる。


(もしかして自分。本格的に惚れられてるっすか……?)


 まさかと思い、頭を振る。しかしそれが的中していたと知ったのは、この後も何度か彼女から血を頂いた時のことであった。

作者「やっぱり吸血シーンはえっちくないとね! というのが私の信条です」

日明「ちなみに、首筋でいいよと言っている女性から、腕から吸うのは作者が読んだとある吸血鬼モノ小説のリスペクトだそうだ。大分古い故、古本屋に行けば100円で売ってるかもな」

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