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広イセカイと狭イテノヒラ  作者: 北田 龍一
まだこの作品が小説だったころ
23/43

三章ー14 人外の決闘

作者「ヤバイ、今回長いかも。あと苦手な戦闘描写が入ります」

カエデ「ゆるーく見てあげてね!」

 オカルト研究部の四人は、綾花の話を聞きながら、港へと向かっていた。

 多少綾花の誇張が入っているようにも思えたが、どうやら自宅マンションが火事に見舞われた際、『佐々木小次郎』を名乗る吸血鬼に助けられたのは事実のようだ。


「私に火傷のあとでも残っていれば、わかりやすかったんですが」

「女の子が火傷後残ってるなんて、絶対ダメだよ! きっと吸血鬼さんが気を使ってくれたんじゃない?」


 カエデの言うことは最もだ。男性でもコンプレックスになる人種はいるというのに、女性で火傷後など致命的である。


「そうだぜ、性格が堅物なの除けば、綾花部長は美人なんだからよ」

「……堅物で悪かったですね。でもこれも、あの方にふさわしい女性になるためです。正義を執行する吸血鬼に捧げる血は、やはり清らかな乙女の血であるべきかと……」

「……そのあたりも、シャミルに聞いておけばよかったかな」

「シャミル?」

「ああ、いや。なんでもない」


 うっかり名前を出してしまった駿也だが、彼女も吸血鬼のクォーターだ。血の味や好みぐらいなら、知っていたかもしれない。


「入れましたね……時間は?」

「十分前だ。多分もう少し奥でやるんだろうよ。人目につかない場所でな」


 コンテナの影に隠れながら、ちょうど決闘におあつらえ向けの場所を見つけた。

 周辺はコンテナによって視界が遮られ、それでいて程よく開けている。

 そして何より――


「日明だ」


 予定より少し前に、日明はやってきていた。だが、身につけている衣服が違う。古風な西洋の制服か軍服のようなものを身につけていた。綾花が狼狽する。


「どうして日明先輩があの服を!?」

「なんだ? どうかしたのかよ部長?」

「小次郎様が着用していたのと同じ服です。二人は知り合いの可能性が、ますます高くなりましたね……」


 物蔭でこそこそと、そんなことを話している内に――日明の真正面から、似た服……と言うよりほぼ同じ格好の、金髪蒼目の長刀を差した男が現れた。


「お久しぶりっす! 大師匠」

「……まさか、生きていたとはな、スコット。『影の大戦』で吸血鬼化していたのか?」

「『剣戟のベストリィ』にやられちまったっす。まぁ、その後吸血衝動無理矢理ねじ伏せて、なんとか相手を押し返したっすけどね」

「お前も衝動を抑えたのか……ジェイムスも吸血鬼化しながら、血を吸わずに人間の側についていた。自刃に失敗したようだから、私が首を刎ねたが。となると、お前は『第三世代』か」


 何かを話しているが、全く内容についていけない。唯一、駿也だけはあの吸血鬼が強いということだけ認識できた。


「先に入っておくっす。自分は剣士として、大師匠に挑みに来たっす。だから、能力は師匠には使わない。師匠もそのつもりで来たんっすよね?」

「無論だ。故に『破砕(トパース)剛剣(ブレイカー)』は置いてきた。始めて戦った時と同じ得物、条件にするために」

「あー……そのことなんっすけど、『ラックスワロー』は一度武蔵との戦いで破損しちまったっすよね。それで打ち直したのが今の得物、『物干し竿』っす。実はあの時より強化されてるっす。気をつけてくださいね?」

「それぐらいは仕方あるまい。私も勉学を重ねた故、以前とは多少なりとも違う状態だしな」


 日明が右手を前に出し、構える。それにつられるようにして、男も刀に手を置いた。


「……抜刀しないのか?」

「居合っす」

「その長刀でだと……? 面白い」



 ひゅう、と一つ風が吹きすさぶ。海岸特有の強い風に、影で見守る四人は顔をしかめた。

 その刹那――日明が一瞬で間合いを詰める。しかし、佐々木小次郎を名乗る吸血鬼もさるもの、刀の間合いに入ったと見るや抜刀していた。

 キン! と甲高い音をたてて、日明の腕と青い刀が干渉する。日明はただらを踏み、吸血鬼は驚愕していた。


「『厳流抜刀術 水面走り』を、弾いたぁ!?」

「フン。刀や長刀の相手をしたことがないとでも? しかし見事な剣技だ。まさか、抜かれるとは思わなかったぞ」

「それがこの剣技のミソっす。相手が、『間に合わない』と思ってるところに一撃必殺を浴びせられるのが。にしても、よく弾けたっすね。鋼鉄でも弾くの、ほぼ無理だと思うっすけど……?」

「弾いたのではない。受け流したのだ。貴殿のことだ、私の対策をしていない訳でもあるまい。油断すれば私の二の腕など真っ二つだろうさ」

「……師匠、最初から受け流す気でいたっすね?」

「さあ、何のことだか」


 話が見えてこないが、一度目の攻防は引きわけらしい。早過ぎて三人は目で追いきれない。しかし、楓は違った。


「あの吸血鬼も相当な化物ね。あの速さで抜刀なんて早々できないわ。熟達してる」

「わかるのか!?」

「『アメジスト・キラー』が教えてくれるのよ。殺し合いの解説なら任せて頂戴」


 駿也は我慢して、彼女の解説に聞き入ることにする。彼女以外誰も、何が起こったかすら把握するのが難しい。


「日明の得物は鋼鉄製のガントレットか何かかしらね? ちょっとよくわかんないんだけど、吸血鬼の方は長刀。間合いで有利だけど、手数は日明の方が上じゃないかしら」

「どちらが、勝つと思いますか?」

「……正直、一撃で決まってもおかしくなかった。実力は伯仲してるわね」


 ……などと話している間に、再び両者が間合いを詰める。

 吸血鬼が刀を振り上げ、日明はそれを、拳で横から殴りつける。

 軌道のそれた刀をかわし、日明は懐へ潜り込もうとしたが、吸血鬼はこれを嫌い、強引に刀を水平に振る。

 しかし日明は下がらない。地面に激突せんとばかりに姿勢を低くして、突進。刀を避け、懐に飛び込み、彼の拳が直撃すると思った刹那――


「やば!『制約解除』!」


 吸血鬼が宣言すると同時に、あり得ない速度で西洋人は間合いを離す、すれすれのところで日明の拳を避けた。

 日明が瞠目する。と同時に、刀が戻ってくる、しぶしぶ日明は下がった。


「なんだ今のは……? 時間操作系の能力か!?」

「正解っす。『時攫(タイム・)いの左手(スティーラー)』って言って、左手で触れたモノの時間を遅くする能力っす」

「……だが、さっきのは『加速』だった……まさか……適応したというのか!?」


『佐々木小次郎』は目をぱちくりさせた。


「流石大師匠。そこまでわかるっすか」

「見事だ。吸血鬼化しても慢心せずに己を鍛える精神、驚嘆に値する」

「いや、慢心しまくりだったっすよ? 宮本 武蔵と戦うまでは」

「やはり貴様は、『佐々木小次郎』だったか」

「? なんで師匠がそっちの名前知ってるっすか?」


 構えを解かずに、日明は返答する。


「何、今私は高校生ということになっていてな。そこでの情報だ」

「へぇ、自分も通ってみたいっす」

「貴様、太陽光は平気なのか?」

「帽子か何かあれば平気なぐらいには。吸血鬼としての運動能力は使えないっすけど」


 相変わらず、二人にしか通じない会話をしながら、彼らは争いをやめようとしない。


「楓、解説を頼む。何が起こった?」

「吸血鬼側の二回の攻撃を日明が捌いて、中国拳法系の……多分、内蔵にダメージを与えるタイプの技を使おうとしたのだけれど、吸血鬼側が急に加速してかわして、また間合いが離れた、そんなところね」

「……第三世代までは、強力な固有能力を使える……か」


 ぼんやりと、駿也が呟く。彼も吸血鬼と接触しているから、ある程度事情が分かるのかもしれない。


「今度は吸血鬼側が仕掛けるわ。……この粘度の殺気……必殺技の類ね」


『佐々木小次郎』が目を閉じ、刀を正面に構える。辺りがしん、と静まり返り、日明も防御の構え。


「『厳流剣技――燕返し』ッ!」


 風の音もなく刀が高速で縦に二度振られた。

 流石に避けきれなかったのか、日明の頬には浅く切り傷がある。


「あの長刀で切り返しを、この速さで行えるの!?」

「っく――流石に厳流奥義だけあるな!! だが――」


 防御の構えをとっていたはずの日明は、一転攻勢に転じ、『燕返し』の隙をつこうとするが、


「っち、対策済みか!」


 何故か、日明が引いた。


「何故日明先輩は引いたのですか?」

「簡単よ、三撃目が来るから」


 オカルト研究部全員が驚愕する。神速の剣技を放っておきながら、なお隙を生じさせないとは。


「日明先輩なら弾けるのでは?」

「斜め上からの斬撃に、ガントレットで刃に触れないように処理するのは大変よ。日明は多分、リスクとリターンが釣り合わないと見たんでしょうね」


 楓の解説は、的を射ていた。あのまま日明が突っ込めば、『佐々木小次郎』は刀を振り下ろしていただろう。そうなれば、日明が満足に打撃を行える可能性は限りなく低い。ここは引いて正解と言える局面であった。


「お見事! やっぱり『燕返し』は避けられちゃったっすね」

「……どういう意味だ」

「この技、宮本 武蔵にも破られてるっすよ。だから、大師匠に通じるはずないなぁって」


 楓が唸った。


「伝説の剣豪は、あれを捌けるって言うの? ……武蔵も人外だったりするのかしら?」


 少なくとも、常人には見切れぬ技だ。それに『佐々木小次郎』が人外で確定した今、人間が吸血鬼に勝てるのだろうか……?


「となれば、まだ技を用意しているな?」

「もちろんっす! これが自分の最終奥義。破られたら跡がない秘剣中の秘剣。師匠……『八重桜』をちゃんと捌いて下さいね? 死んでも責任とれないっすよ?」

「この身体は簡単には死なん。が、そこまで言うなら負けを覚悟せねばならんかもな」


 もう一度、『佐々木小次郎』は同じ構え。日明も同様に、構えた。


「頃合いね。行きなさい綾花。どちらか、あるいは両方が死ぬところを見たくないのなら」


 楓は次で勝負が決まると見たのだろう。綾花は頷き、前へと走りだし大声で叫ぶ。


「そこまでです! お二人とも!! 二人の実力は、十分に見させていただきました! これ以上の争いは無用! 矛を納めなさい!!」

作者「長いので一旦ここで切りました。本当はまだ続き書こうかと思ったけどさすがに長すぎるので一旦カット」

シャミル「もしかしたら……もう一回投稿するの?」

作「どうでしょう? さすがにちょっと疲れたので、あまり期待はしないでください」

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