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広イセカイと狭イテノヒラ  作者: 北田 龍一
まだこの作品が小説だったころ
22/43

回想ー2 灼熱の中の救世主

作者「連続投稿途切れたー!」

綾花「いや、今までがおかしかっただけですよ。きっと」

 紅蓮の炎が、辺り一面を包んでいた。

 煙で咳き込みながら、どうしてこんなことになってしまったのだろうと、幼いなりに思考を巡らせる。

 隣の家からけたたましい音がしたと思ったが、無視して彼女は一人遊びに夢中になっていた。

 両親の帰りは遅く、今頃なら帰ってくることもあるぐらいだろうか? もしどちらか片方でもいれば、異常を察知して逃げることができたかもしれない。

 あまりにも遅い両親の帰宅に、不安になった彼女が、金属製のドアノブに手をかけたその時、あまりの熱さに反射的に手を引いた。

 炎が部屋に侵入してくるまで、さほど時間はかからなかった。ここにきてようやく、彼女は火事に巻き込まれたのだと理解する。

 ――後に解ったことだが、出火元は隣で、警報が鳴った時点で彼女が逃げていれば十二分に助かる可能性はあった。だが、まだ八歳の幼子に、その判断を求めるというのも酷な話かもしれない。

 ともかく、彼女は逃げ遅れ、取り残された。

 10階の高さから飛び降りる訳にも行かず、消防隊も彼女の存在に気がついていない。


「助けて……パパァ! ママァ! エホッ! ゲホッ」

 

 必死に叫ぶも、その声は外の隊員や両親には届かない。いよいよ、死の気配が近くまで迫ってきて、彼女は震えると同時に涙が出た。

 火はごうごうと燃え盛り、仮に救助隊がいても諦めかねない状態にまで火が回る。必死に彼女はもう一度『助けて!』と叫んだ。


「! ……誰かまだ残ってるっすか!?」

 

 煙のせいで、あるいは炎のせいで聞こえなくてもおかしくなかったその叫びを、誰かは聞き逃さなかった。


「助けて!! 誰かぁ!!」


 涙ながらに、もう一度叫ぶ。その声が通じたのか、誰かは続けてこう言った、


「嬢ちゃん! ちょっと壁が邪魔なんで切り捨てるっす! 壁から離れて、うつ伏せになってて欲しいっす!」


 言われるがままに少女、『岩上 綾花』は身を伏せる。やがて――


「『厳流剣技……燕返し』っ!」


 綾花のいた後ろの壁が切り裂かれ、空洞が生まれる。そこに立っていたのは――青い刀を持った、西洋人で、服装もどこか古臭い西洋の軍服か制服かを着ていた。


「死神……?」


 長い刃物から、ついそれを連想してしまい、口にしてしまった。


「た、助けに来たのにひどいっす! それに、自分は死神じゃなくて吸血鬼っす!!」

「えっ……」


 どちらにしろ、人間でないことが、彼女の警戒心を呼び起こさせた。だが、そんな彼女を無視するようにして、男は彼女を抱える。


「な、何するの!?」

「ここから脱出するっす! 十階だと直接飛びおりるのは難しいっすね。階段は――ああ、火の向こう側っすか! じゃあもう一度斬るしかないっすね」


 男は床を見つめ、そう言った。


「吸血鬼さん。どうするの?」

「下のフロアはまだそんなに火が回ってなかったっす。なんで、ここで床斬って一階下に降りるっすよ!」


 刀を真っ直ぐに構え、吸血鬼を名乗る男は床を見据えた


「『厳流剣技――鋼通(はがねどお)し』っ!」


 すぅ、と刀が床に吸い込まれ切れ目を作る。だが、それだけでは崩落には至らなかった。


「もう一丁!」


そのまま×を作るように刀を振るい、床を不安定にさせる。


「しっかりつかまってるっす!」


 彼が中心部に刀を突き立てると、床の崩落が始まった。


 派手な音を立てながらマンションの一角が崩れていく。振り落とされないように必死に少女は彼にしがみついていた。


 彼は何事もなかったように着地。「大丈夫っすか?」と優しく綾花に声をかける。


「ちょっと粉吸いこんだけど、平気……」

「うし! じゃあこのまま脱出するっすよ!!」


 刀をしまい、彼はそのまま一気に四階まで降りていく。そこで――彼はふと立ち止まった。


「どうしたの?」

「まだ、助けを待ってる人がいるっす。嬢ちゃん、もうここからなら逃げられるっすよね?」


 どうやら彼は、まだ人を救うつもりらしい。ちょっと火傷が痛むが、逃げれないこともない。


「あの、吸血鬼さん」

「何っすか?」

「……名前、教えて。いつかお礼がしたいから」


 吸血鬼の青年は笑った。とてもとても、嬉しそうに。それは、人の笑みと変わらないように思えた。


「そうっすね……本名は流石に教えられないんで、『佐々木小次郎』と名乗っておくっす。お礼なんて……いや、申し出はすごく嬉しいっすよ? でも、自分なんかと二回も会うなんて奇跡的だと思うっす。でももし――もし大きくなった嬢ちゃんが自分と再会して、覚えててくれたなら――少しだけ血を、分けて欲しいっす」

「うん……絶対、絶対忘れないから……!」


 強い決意を秘めて、綾花は言った。


「頑張って! 正義の吸血鬼さん!」

「ういっす! 誰ひとりだって、死なせないっすよ!! 『制約解除』!!」


 目にもとまらぬ速さで、彼は炎に包まれた上層階を目指す。

 この後、彼女は自力で一階まで脱出し、無事に救助された。

 各所に小さな火傷があるぐらいで、大事には至らなかったという。

 ただ――この事案には、不可解な点がいくつかあった。

 大火事にもかかわらず、犠牲者が一人もいなかったことと、救助された何名かが、不思議な証言をしている。

 曰く、「刀を持った西洋人が助けてくれた」ということと、「建物の一部を切り裂いた」ことだ。

 マンションの材質は言わずもがな、コンクリートと鉄筋である。しかも相当分厚い。

 それを切り裂いて別の階層につなげるなど、果たして人間業で可能なのかと言う疑問が残る。しかし事実として、一部の部屋は切り裂かれ崩落した跡がはっきりと残っていた。


 もう一つ、奇妙な証言がある。これは子供の戯言と言われても仕方ないのだが、出火元の隣に住んでいた少女、岩上 綾花はこう言っている。


「正義の吸血鬼、佐々木小次郎が助けてくれた」と

作者「回想二回目。綾花ちゃんの過去についてでした」

駿也「マンションの床を切るって……どれだけすごいのやら」

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