三章ー11 佐々木小次郎
作者「今日は思ったより進まないなぁ」
綾花「というか、昨日がおかしかったのでは?」
「っ~~!?」
その拘束は、あまりにも唐突であった。
深夜コンビニに出かけ、一杯家でやろうと思った、その時だった。
背後から襲われ、口を塞がれる。何も出来ないまま彼女と何者かは倒れ込んだ。
そのまま首筋にナイフがあてがわれ、闇夜の襲撃者は暴漢ということが明らかになった。
「ひっ――」
「喋るな。殺すぞ」
男は冷たい瞳で舌舐めずり。本気なのが伝わってくる。
自分はここで汚され、最悪殺されるのだ――そう悟った瞬間、背筋に冷たいものが奔る。
神などいない、いるのなら失恋のショックで酒盛りしようとしたタイミングで、暴漢に襲われたりなどしないだろう。絶望が心を黒く塗りつぶし、意識が宙に浮いたような感じになった、その時だった。
「ちょっと待ったっす!」
この場に場違いな明るい男の声が響いた。馬乗りになっていた男が慌ててそちらに振り返る。
「誰だっ!?」
「誰だと聞かれたら、自分はこう答えるっす!『この世のすべての女性の味方』佐々木小次郎ただいま参上!!」
彼女もそちらを見ると、見たことのない――例えるなら中世の、古臭さを感じさせる洋服……あるいは軍服か制服かを着用し、金髪の髪にスカイブルーの瞳、腰には異様に長い――刀を差した男が立っていた。
「……お前、ふざけてるのか?」
「んなっ! 失礼な! 大真面目っす――!?」
最後まで言い切る前に、暴漢は男に向かって走り出した。手にはナイフが握られてる――殺す気だ。
避けて、と言おうとした瞬間、不可解なことが起こった。
「『制約解除』!」
避けるのも難しいであろう暴漢の突進を、恐ろしい早さで刀に手をかけ、抜刀。と同時に刀を振り上げた。しかし勢いは止まらず、暴漢が男に激突する。
暴漢の両腕は男の胸のあたりにある。心臓だ。
しかし、一向に男は表情を変えない。苦痛に歪めてもいない。どういうことかと、事の顛末を見届けていると、やがて暴漢が震えた手でナイフを……いや、ナイフだった物を落とした。
ナイフは刃の根元から切り捨てられていて、もう武器として機能しない。これではただのプラスチック製の棒だ。
「『厳流抜刀術 水面走り』……ハァ。油断はダメっすね。こんなのに技を使わされたなんて屈辱っす」
飄々と男が言う、抜き放たれた刀は今や暴漢の首筋にあり、彼の意思でいつでも切り落とせるだろう。
「まだ、やるっすか?」
「ひ、ひいぃっ!!」
暴漢は逃げていく……どうやら自分は助かったらしい。男は持っている刀――よく見ると青みがかかっていた――を鞘に納め、こちらに寄ってくる。
「大丈夫っすか?」
「は、はい! ありがとうございます!!」
「なら、よかったっす!」
ニカッと男が笑った。ひどく明るい雰囲気の男だ、しかもまだ若そうに見える。二十歳から十八歳といったところだろうか?
「警察に連絡を――」
「おっと、それはダメっす。自分も銃刀法違反で捕まるっすからね。それに――自分、ちょっとやっかいな事情を抱えてるっすよ」
「それは一体……?」
男はしばらく考え込んだ後、元からそれが目的だったかと言って、真相を語った。
そのことに驚愕しながらも、同時に納得がいった。青い刀など見たことも聞いたこともないし、何よりあの尋常ならざる速度での抜刀は、人間業ではない。
「これから自分は、師匠の師匠、『大師匠』に挑むっす。そのためにも――体調は万全にしておきたい。ま、強制はしないっす。それだと自分好みの味じゃ無くなるんで」
人の良さそうな笑みで、彼はもう一度笑う。
ほどなくして彼女は――彼の要求を飲んだ。
作者「という訳で、またまた新キャラ『佐々木小次郎』を名乗るキャラが登場しました」
カエデ「綾花ちゃんとの関係はどんなのかな? 楽しみ~!」